表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
松前レンジャーズⅠ 黒い門の海  作者: 月白 航


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

プロローグ 黒い門の海

はじめまして。

本作を開いてくださり、ありがとうございます。


『松前レンジャーズⅠ 黒い門の海』は、北海道の海辺の町を舞台に、黒い門と呼ばれる怪異に立ち向かう少年たちと仲間の物語です。

熱いバトル、町に残る不穏な気配、そして仲間とのつながりを大切にしながら書いています。


小説家になろうでは初投稿になります。

更新は週1〜2回を目安に、無理なく続けていく予定です。


本作は、構成整理や推敲補助の一部にAIツールを活用し、最終的な内容は作者が確認・編集しています。


まずはプロローグから、札前浜に現れる黒い影の気配を感じていただけたら嬉しいです。

その朝、札前浜には誰もいなかった。

 海は静かだった。

 けれど、穏やかではなかった。

 六月の空は薄く晴れ、水平線には淡い光が差している。

 それなのに、浜には音が少なかった。

 カモメが鳴いていない。

 草も揺れていない。

 波の音だけが、やけにはっきり聞こえた。

 ざあ、と寄せて。

 ずるり、と引いていく。

 引いていく波の縁に、黒い泡が残った。

 泡は弾けなかった。

 小さな黒い粒のように砂の上へ固まり、やがて細い染みになって浜の奥へ伸びていく。

 まるで、海から何かが這い上がった跡のようだった。

 浜の端には、古い祠があった。

 風に削られた柱は少し傾き、苔のついた屋根は低く沈んでいる。

 供え物も、賽銭箱もない。

 それでも町の者は、昔からその祠だけは壊さなかった。

 祠の前の砂が、黒く濡れていた。

 雨は降っていない。

 満潮の水が届く場所でもない。

 焦げたような匂いが、かすかに漂っていた。

 その匂いに最初に気づいたのは、一匹の犬だった。

 茶色と白の毛並み。

 くるりと巻いた尻尾。

 首には青系のバンダナ。

 名前は、ポン太。

 ポン太は浜へ続く小道の途中で足を止めた。

 前足を砂に置いたまま、鼻をひくひくと動かす。

 潮と海藻。

 古い木と、遠くの漁船の油。

 その全部に混じって、別の匂いがした。

 冷たい匂い。

 暗い匂い。

 生き物のものではないのに、腹を空かせているような匂い。

 ポン太は低く唸った。

 浜に出ると、風が止んだ。

 ポン太の耳がぴくりと動く。

 音がない。

 祠の影が、少しだけ動いた。

 太陽の位置は変わっていない。

 雲も流れていない。

 それなのに、影だけが動いた。

 ポン太は一歩下がった。

 それでも、次の一歩は前だった。

 祠の奥から、黒い筋が砂の上を伸びてきた。

 細く、長く、濡れた縄のようにうねりながら、ポン太の足元へ近づいてくる。

 ポン太は吠えた。

 一度。

 二度。

 三度。

 鋭い声が、誰もいない浜に響いた。

 黒い筋は止まらなかった。

 砂の上を這い、少しずつ太くなっていく。

 やがてそれは、影のような形を取り始めた。

 人に似ていた。

 頭がある。

 腕らしきものがある。

 けれど、顔がない。

 黒いだけのものが、祠の影からゆっくりと起き上がった。

 ポン太は牙を見せた。

 毛は逆立ち、尻尾は固く震えていた。

 それでも、ポン太は吠え続けた。

 黒い影が、首を傾けるように揺れる。

 その瞬間、祠の奥で何かが開いた。

 扉ではない。

 穴でもない。

 空気そのものに、細い裂け目が入ったようだった。

 裂け目の向こうには、夜よりも深い黒があった。

 海の底よりも重く、人が見てはいけないものを長く閉じ込めていたような黒だった。

 その奥から、声がした。

 声と言っていいのかは分からない。

 風にも、波にも、誰かの泣き声にも似ていた。

 ――まだ、終わっていない。

 ポン太は後ずさった。

 次の瞬間、黒い影の腕が伸びた。

 ポン太は横へ跳ぶ。

 腕は空を切り、砂浜に触れた。

 その場所が、じゅっと音を立てて黒く変わる。

 焦げた匂いが強くなった。

 ポン太は祠の横へ回り込み、もう一度吠えた。

 影の注意を引くように。

 町の方へ行かせないように。

 影はゆっくりとポン太へ向き直る。

 眠っていたものが、まだ体の使い方を思い出せずにいるような動きだった。

 それでも、確かに近づいていた。

 ポン太は砂を蹴り、黒い腕の届かない場所へ跳んだ。

 その時、浜の上に小さなものが落ちているのが見えた。

 古い貝殻だった。

 白い貝殻。

 波に磨かれた、丸みのある小さな貝殻。

 黒い染みのすぐそばにあるのに、そこだけ朝の光を受けていた。

 ポン太は一瞬だけ、その貝殻を見た。

 知っている匂いではない。

 それなのに、胸の奥が落ち着かなくなった。

 黒い影が迫る。

 ポン太は我に返り、貝殻と影の間に立った。

 なぜそうしたのか、ポン太自身にも分からなかった。

 あの白いものを、黒に触れさせてはいけない。

 それだけは分かった。

 影の腕が、再び伸びる。

 ポン太は身を低くした。

 その時、遠くから足音が聞こえた。

 砂を踏む、人間の足音。

 浜へ続く道の方から、誰かが下りてくる。

 まだ姿は見えない。

 黒い影も、その音に反応した。

 顔のない頭が、ゆっくりと道の方へ向く。

 ポン太は吠えた。

 来るな。

 でも、来てほしい。

 ポン太の吠え声が、朝の浜に響いた。

 影の背後で、祠の裂け目がわずかに広がる。

 その奥に、赤黒い光が一つ灯った。

 目のようだった。

 穴のようでもあった。

 遠い昔から、こちら側を見続けていた何かの気配だった。

 海が鳴る。

 ざあ、と寄せて。

 ずるり、と引いていく。

 黒い泡が、また一つ砂の上に残った。

 札前浜の朝は、静かに壊れ始めていた。

 その浜へ、まだ何も知らない剛の足音が近づいていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


プロローグでは、札前浜に現れる黒い気配と、物語の始まりを描きました。

次話からは、剛たちが少しずつ“黒い門”の異変に巻き込まれていきます。


続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ