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移りゆく世界の果てに。  作者: 奏 そうま


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第三頁『覚知』

エルンストの部屋は真士が見たことのない物で溢れていた。研究者など、何かに取り憑かれたように物事に没頭する人間は、大抵こんな部屋になるのかもしれない。


「まるで佑矢の部屋じゃないか。」


エルンストに聞こえない様にボソッと呟いた。


「真士くんだったね。さて何を知りたい?」


エルンストは飲み物を出しながら嬉しそうに聞いてきた。それは質問に答えると言うよりは新しい「何か」に触れられる楽しみを期待している様だった。


「えっと、まずこの世界って町の外は危険なんですか?武器とか普通に売ってて・・・」


「それは当たり前だよ。ニホンでもそうだろう?森だから危険、町の近くだから安全などではないよ。」


真士は読んでいた漫画の世界観を前提に質問を繰り返してみた。


「と言うことは、いるんですね?魔獣と言われるやつが・・・」


「そうだね。近年はより活発になってきていて、人々を守る護民騎甲隊や討伐に向かう伏魔撃団が大忙しだよ。」


「そこも同じか・・・でも魔法を使うとある程度優勢に立てるんですよね?」


確かそうだった。捕縛した魔獣を研究した結果、物理攻撃には強いが生息する土地には起こり得ない自然現象を操る魔法には耐性がないことが分かっていたのだ。


「・・・よく知っているね。それはまだ外部には出されていない情報だ。なんせ研究施設が隣町にしかないから捕縛した魔獣を安全に運んでくるのに大変な労力がかかるからね。」


「・・・危険しかないですね。」


真士は「しまった!」という表情になりそうだったが、なんとか堪え無難な返答をした。

エルンストはそれに勘付いたようだったが、敢えて追求はせず話を戻した。


「その通り。早急に進めねばならない研究だが、なかなか進んでいないのが現状なのだよ。

東の方では四凶の一人が現れたとの話も聞く。」


「四凶?」


「かつて大陸を支配した魔王が己の牙、爪、毛、角を媒体として生み出した側近だよ。並の軍では全く歯が立たないらしい。」


真士の認識通りであった。どの漫画やゲームでもそうだが、敵幹部の精鋭という設定は真士の大好物だった。


「国に属していない傭兵みたいな人たちもいるんじゃないですか?」


「ああ、いるよ。国に縛られない分、好き勝手やる連中ばかりだが、その強さは一国を凌ぐパーティーもいる。マリアンヌのようにね。」


タイトルにもなっている少女だ。魔眼という魔法ではない特殊な力を使えるが、真士はあえてスルーした。


「それでも勝てないんですよ、ね?」


エルンストは小さく溜め息を吐いて答えた。


「そう、勝てないのだよ。だが、全く勝つ方法がないわけではない。」


エルンストが何かを企んでいるかの様に上目遣いで真士を見た。さっきまで腕時計ではしゃいでいた人とは思えなかった。


「そう、魔王さえも倒せると言われている武器があるのだよ。だが・・・」


エルンストは飲み物を一口飲んで続けた。


「何処にあるかが分からない。世界中の冒険者が探しているが見つからないのだよ。」


「じゃあなんであるって断言出来るんですか?」


「冒険者でかつ刀匠でもあったパルラン・ヒュートットが書き残していたのだ。その昔、その剣で前魔王の身体を貫いたと。致命傷を負った前魔王はそのまま剣ごと何処かへ逃げていったらしい。」


「前魔王?今の魔王はその次の代ってことですか?」


「ああ、そうだよ。」


エルンストは続けた。


「前魔王が何処へ逃げたかは分からない。最悪の場合、今の魔王がその亡骸と共に剣を持っている可能性もある。その剣がない限り魔王と対等に戦うのは困難なのだよ。」


おおよそ真士の知っている情報と一致していた。


「覇剣 ローロイル。聞いたことはないかね?」


知っていた。作中最強の剣であること。そしてそれが何処にあるかも。


「実はニホンにも悪鬼を倒した剣があるという伝承があるのです。その剣は確かマゼルミの地下鍾乳洞にあると言われています。」


真士はその辺りの話を思い出し口にした。ここでもったいぶる必要もない。


「マゼルミの地下鍾乳洞だと!?あそこは何回も調査されているところだ!そんな所にあるはずが・・・」


エルンストが驚くのも無理はない。マゼルミ地下鍾乳洞は比較的王都の近くにあるため、昔から何度も調査隊や冒険者が訪れていたのだ。


「エルンストさん、もう一度調査してみませんか?」


真士は確信していた。この好奇心の塊のような男がこの誘いを断るわけはないと。


「ふむ、それもありか。実は近々、遠方の洞窟の調査に冒険者パーティを雇っていてね。そういうことなら洞窟は後日にして、先にマゼルミに行くことにしよう。」


冷静を装っているがやや興奮気味にエルンストは答えた。


「そこで相談なんだが、真士くん。君もそのパーティに同行してもらえないかね?」


真士の狙い通りだった。町では変わり者かもしれないが、その知識や行動力は一流の冒険者と謙遜がない。欲しいものがあれば迷わず突き進む男だ。


「もちろんです。ちなみにそのパーティというのは・・・?」


「おぉ、ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ!

パーティの名前は『シュバルツ・グレイン』。王都でも3本の指に入る実力者集団だよ。だから安心してくれたまえ。」


作中でも人気のパーティだ。3人の魔法使いを中心としたパーティで、主に魔法で攻撃し2人の剣士は魔法使いを守るという立ち回りをしている。


「俺も聞いたことがあります。シュバルツ・グレインが一緒なら心強いです!」


これは本心だった。読んだ知識があるとは言え力がないことには生き残ることは難しい。これだけ高名なパーティが一緒ならまず安全だろう。


「なら決まりだ。出発は明後日だから準備はしておいてくれ。それまで2階の隅っこの部屋を使うといい。」


「いいんですか?ありがとうございます。」


その後、真士はエルンストからこの世界の情勢などを色々と聞かされた。部屋に戻る頃には真夜中になっていた。


「はぁ、疲れたな。」


真士はベッドに横になり天井を見上げた。天井が違うだけで、ベッドに沈む自身の重みも一気に疲れを感じる感覚も自分がいた世界と何ら変わらなかった。


「本当に、漫画の中に来てしまったのか・・・?)


今だに信じられない。エルンストとの会話で落ち着きはしたが、まだ戸惑いは残っている。


「そう言えば・・・」


真士はふとあることを思い出し、起き上がった。


「よくある転生物の話だと、神様とかに特殊なスキルとか能力とか与えられるんだよな。そういうの一切なかったけど、俺には何かあるのかな・・・」


思いつく限りのジェスチャーや呪文を唱えたが何も起こらなかった。


「何もないのかよ・・・まじか・・・」


うすうす勘付いてはいた。だからこそ、この世界で生き抜くためにエルンストと仲良くしておいて正解だった。


「明後日か。危険はないだろうが、一応装備は整えてもらうか。」


ぼんやりと明後日のことを考えながら、真士は眠りについた。

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