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担任矢島

チャイムの音と同時に、教室のドアが乱暴に開いた。


入ってきたのは、ひと目で分かる大柄な男だった。

 

肩幅が異常に広く、Yシャツは今にも破れそうなほどピチピチ。腕を動かすたびに、生地が悲鳴を上げている。


「今日からこのクラスの担任の、矢島だ」

 

低く、ぶっきらぼうな声。

 

第一声からして、嫌な予感しかしない。


「まず言っておきたいのは――お前らには、1ミリも期待していないということだけだ」

 

一瞬、教室が静まり返った。


(……いきなりとんでもないのが来たな)

 

思わず、心の中でツッコむ。


(この世界の教師って、全員こうなのか?)

 

次の瞬間、ざわざわと声が上がった。


「え、なにあいつ……」 「やばくね?」 「ハズレじゃん」


ヒソヒソ声は、意外と教壇まで届いていたらしい。

 

矢島は鼻で笑った。


「何がハズレだ。ハズレくじ掴まされたこっちの気持ちにもなってくれ」

 

その一言で、ざわつきは一気に引っ込んだ。

 

強い。というか、強すぎる。


「いいか、耳かっぽじって聞いとけ」


「俺は集団から遅れたヤツに救済をするつもりはない」

 

黒板――いや、ホログラムの前で腕を組み、矢島は続ける。


「努力しないヤツ、結果を出せないヤツ、空気読めないヤツ。全部、自己責任だ」

 

教室の空気が、重く沈んでいく。


「これが社会だ。学校は、その予行演習にすぎん」

 

……自己紹介、これで終わりか?

 

前の世界でも教師は見てきたが、ここまで露骨なのは初めてだ。


(優しさゼロ、フォローなし……)


(前世より、きつくないか?)

 

その後は淡々とした説明だった。

 

教科書の配布、今後の予定、注意事項。

 

気づけば、あっという間に午前は終わっていた。

 

 

帰りの準備をしながら、俺は周囲を警戒していた。


(……あの女子、まだ怒ってるよな)

 

例の一軍女子は、友達に囲まれて大声で笑っている。

 

視線が合わないように、そっと教室を出ようとした――そのとき。


「おーい」

 

背後から、軽い声が飛んできた。

 

心臓が跳ねる。


(まさか……)

 

恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、さっきの女子ではなかった。

 

ミルクティー色の髪に、毛先だけ少し濃いグラデーション。

 

制服の着崩し方も、どこかラフ。


「さっきさ、あの一軍女子にあんなこと言うとか、すげー勇気じゃん」

 

にやっと笑って、そいつは言った。


「普通、黙るでしょ」


「……あ、いや」

 

どう返せばいいかわからず、言葉に詰まる。


「俺、カイ。よろしく」

 

軽く手を振られる。

 

距離感が、妙に近い。


「いやー、マジで見ててヒヤヒヤしたわ。殴られるかと思った」


「俺も、そう思った……」

 

正直な感想が口をついて出た。

 

カイは笑った。


「でさ」

 

少しだけ声を落として、続ける。


「よかったら、一緒に購買行かね? 一人で行くのもダルいし」

 

……誘われた?

 

異世界で。

転生して。

入学初日で。

 

友達、なのか?


頭の中で警戒心が騒ぐ一方で、胸の奥がわずかに温かくなる。


「……いいけど」

 

そう答えると、カイは満足そうに頷いた。


「よし決まり。あ、言っとくけど俺、ちょっとアレなとこあるから」


「もう、慣れてる」


「それなら安心だわ」

 

そう言って、カイは歩き出した。

 

その背中を追いながら、俺は思う。

 

この世界は、前の人生と同じくらい理不尽だ。

 教師も、クラスも、簡単に信用できない。

 

――でも。

 もしかしたら。

 本当に、もしかしたら。

 

ここには、前とは違う何かがあるのかもしれない。

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