表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

ハッピー学園生活の始まり!?

 目を覚ましてから、少しだけ時間が経った。

 

知らない部屋、知らない家。けれど不思議と、落ち着かない感じはしなかった。記憶が混ざっているせいか、それとも――もう、どうでもよくなっているだけなのか。


「律、大丈夫? 具合悪い?」

 

声をかけてきたのは、先程俺に「お父さんはいない」と告げた女性だった。

 

名前はレナ。年齢は二十七歳。

 

……若すぎないか? という疑問はあるが、今はそれどころじゃない。


「...大丈夫」

 

短く答えると、レナは少しだけ眉をひそめた。


「今日は高校の入学式でしょ? 本当に平気?」

 

高校。

 

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。

 

――また、学校か。


「ちなみに聞きたいんだけどさ」


 できるだけ自然を装って、俺は続ける。


「学校って、どうやって行くんだっけ?」


 一瞬、部屋の空気が止まった。


「……律?」


レナは俺の顔をじっと見てから、心配そうに言った。


「やっぱり疲れてるんじゃない? 無理しなくていいのよ。入学式だし、一緒に行く?」


一緒に、か。

 

その言葉に、少しだけ救われた気がした。


……でも。

 

ふと、机の上に置かれていたものに目がいった。

 

スマホ。

 

見覚えのある形。見慣れた画面。

 

手に取って操作すると、地図アプリが普通に起動した。


「……大丈夫。思い出した」

 

俺はそう言って、スマホを置いた。

 

レナはまだ納得していない顔だったが、それ以上は何も言わなかった。

 

家を出て、学校へ向かう。

 

街並みは、前の世界とほとんど変わらない。コンビニもあるし、信号もある。


「……異世界にも、スマホってあるんだな」

 

思わず、独り言が漏れた。

 

歩きながらスマホを見る。学校までの道順は、自然と頭に入ってきた。

 

校門が見えてくる。

 

大勢の生徒。新しい制服。知らない顔ばかり。


「普通に……異世界の人と、友達なれるんかな」

 

声に出すと、やけに現実味が増した。

 

普通に、普通に、か。

 

誘導に従って校舎に入り、教室へ向かう。


「異世界って言っても、魔法学校みたいな感じじゃないんだな」

 

拍子抜けするほど、普通の高校だった。

 

教室に入ると、黒板の代わりに壁一面のホログラムが起動していた。そこに、座席表が表示されている。

 

自分の名前を探す。


「……窓側の、一番後ろ」

 

一瞬、ラッキーだと思った。

 

……でも、すぐに気づく。


「角って、話す人減るよな」

 

前世の記憶が、嫌な予感を連れてくる。


「下手したら、孤立するんじゃ……」

 

考えないようにして、席へ向かった。

 

――はずだった。

 

俺の席の椅子に、すでに誰かが座っていた。

 

長い髪。派手めなメイク。姿勢も態度も、見るからに“一軍”。

 

いわゆる、陽キャ女子。

 

喉がひくりと鳴る。


「……あの」

 

声が、思ったより小さかった。


「そこ、俺の席……」

 

女子がゆっくり振り向いた。


「あ゙?」

 

低い声。鋭い視線。

 

心臓が跳ねる。


(怖い……)

 

でも、ここで引いたら終わりだ。


(ここでちゃんと言わないと、舐められる)


(ただでさえ異世界で、意味わかんないのに……)

 

頭がぐちゃぐちゃになる。

 

気づいたら、口が勝手に動いていた。


「......頭も身体も、発育がなってないくせに」

 

――やってしまった。


教室の空気が、一気に凍りついた。

 

周囲の視線が、刺さるように集まる。

 

女子の顔が、みるみる歪む。


「は?」

 

次の瞬間――

 

キーン、というチャイムの音が、教室に鳴り響いた。

 

チャイムの音と同時に、教室のドアが乱暴に開いた。


入ってきたのは、ひと目で分かる大柄な男だった。


 肩幅が異常に広く、Yシャツは今にも破れそうなほどピチピチ。腕を動かすたびに、生地が悲鳴を上げている。


「今日からこのクラスの担任の、矢島だ」


 低く、ぶっきらぼうな声。


 第一声からして、嫌な予感しかしない。


「まず言っておきたいのは――お前らには、1ミリも期待していないということだけだ」


 一瞬、教室が静まり返った。


(……いきなりとんでもないのが来たな)


 思わず、心の中でツッコむ。


(この世界の教師って、全員こうなのか?)


 次の瞬間、ざわざわと声が上がった。


「え、なにあいつ……」 「やばくね?」 「ハズレじゃん」


ヒソヒソ声は、意外と教壇まで届いていたらしい。


 矢島は鼻で笑った。


「何がハズレだ。ハズレくじ掴まされたこっちの気持ちにもなってくれ」


 その一言で、ざわつきは一気に引っ込んだ。


 強い。というか、強すぎる。


「いいか、耳かっぽじって聞いとけ」


「俺は集団から遅れたヤツに救済をするつもりはない」


 黒板――いや、ホログラムの前で腕を組み、矢島は続ける。


「努力しないヤツ、結果を出せないヤツ、空気読めないヤツ。全部、自己責任だ」


 教室の空気が、重く沈んでいく。


「これが社会だ。学校は、その予行演習にすぎん」


 ……自己紹介、これで終わりか?


 前の世界でも教師は見てきたが、ここまで露骨なのは初めてだ。


(優しさゼロ、フォローなし……)


(前世より、きつくないか?)


 その後は淡々とした説明だった。


 教科書の配布、今後の予定、注意事項。

気づけば、あっという間に午前は終わっていた。


 帰りの準備をしながら、俺は周囲を警戒していた。



(……あの女子、まだ怒ってるよな)


 例の一軍女子は、友達に囲まれて大声で笑っている。


 視線が合わないように、そっと教室を出ようとした――そのとき。


「おーい」


 背後から、軽い声が飛んできた。

 心臓が跳ねる。


(まさか……)


 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、さっきの女子ではなかった。


 ミルクティー色の髪に、毛先だけ少し濃いグラデーション。


 制服の着崩し方も、どこかラフ。


「さっきさ、あの一軍女子にあんなこと言うとか、すげー勇気じゃん」


 にやっと笑って、そいつは言った。


「普通、黙るでしょ」


「……あ、いや」


 どう返せばいいかわからず、言葉に詰まる。


「俺、カイ。よろしく」


 軽く手を振られる。


 

距離感が、妙に近い。


「いやー、マジで見ててヒヤヒヤしたわ。殴られるかと思った」


「俺も、そう思った……」


 正直な感想が口をついて出た。


 カイは笑った。


「でさ」


 少しだけ声を落として、続ける。


「よかったら、一緒に購買行かね? 一人で行くのもダルいし」


 

……誘われた?


異世界で。


転生して。


入学初日で。


 

友達、なのか?



頭の中で警戒心が騒ぐ一方で、胸の奥がわずかに温かくなる。


「……いいけど」


 

そう答えると、カイは満足そうに頷いた。



「よし決まり。あ、言っとくけど俺、ちょっと強引なとこあるからなんかあったらごめん」



「もう、慣れてる」



「それなら安心だわ」


 

そう言って、カイは歩き出した。


 

その背中を追いながら、俺は思う。


 

この世界は、前の人生と同じくらい理不尽だ。


 教師も、クラスも、簡単に信用できない。


 

――でも。


 もしかしたら。


 本当に、もしかしたら。


 


ここには、前とは違う何かがあるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ