転生なんてもうどうにでもなれ!
安藤律は、すべてが平均未満の中学生だった。
運動はクラスの下から数えた方が早く、勉強も同じ。テストで名前が上に載ることはないし、かといって誰かに期待されることもない。恋愛なんて、考えたことすらなかった。
教室での俺の立ち位置は、いわゆる「いじられキャラ」だ。
机の中に入れていた筆箱が消えていたり、制服の背中にいつの間にか絵の具やノリがついていたり。給食のデザートが、配膳された瞬間になくなっていることもある。
そんなことが、日常だった。
最初は抵抗しようとした。でも、何も変わらなかった。
笑ってやり過ごせば、「ノリがいい」と言われる。嫌な顔をすれば、「空気読め」と責められる。先生は気づかないふりをして、クラスメイトは見て見ぬふりをした。
――ああ、俺はこの程度の人間なんだ。
そう思うようになったのは、いつからだっただろう。
決定的だったのは、中学に入ってから知った事実だ。
俺は、父の子どもじゃなかった。
母が別の男との間に作った子ども――いわゆる托卵だったらしい。大人たちの話し合いは、俺の知らないところで進んで、気づけば両親は離婚していた。
それでも俺は、父についていった。
血がつながっていなくても、一緒に過ごしてきた時間は本物だと思いたかったからだ。いや、本当は――選ばれたかっただけなのかもしれない。
父は何も言わなかった。ただ、静かに頷いただけだった。
だから俺は信じた。
自分は、まだ必要とされているんだと。
高校受験に失敗するまでは。
合格発表の日、父は結果を一目見て、それだけ言った。
「……そうか。落ちたか」
それだけだった。
責められもしなかったし、慰められもしなかった。父は書類を机に置くと、そのまま自分の部屋に戻っていった。
それ以降、父は俺と視線を合わせなくなった。
会話は減り、家の中で俺は空気みたいな存在になった。
――ああ、やっぱり俺は、いらなかったんだ。
学校でも家でも、居場所はなかった。
その日の夜、俺は一人でゲームセンターに行った。理由は特にない。ただ、帰りたくなかっただけだ。
帰り道、街灯のない大通りから少し離れた道を歩いていたとき、背後からクラクションが鳴った。
振り向いた瞬間、視界いっぱいに迫るライト。
反射的に身をかわした、次の瞬間、足元が消えた。
夜の用水路は暗く、冷たかった。体が水に沈み、息ができなくなる。
――ああ、終わるんだ。
それが、最後の記憶だった。
次に目を覚ましたとき、俺は知らない天井を見ていた。
柔らかい布団。白い壁。見覚えのない部屋。体を起こすと、頭が少し痛むだけで、他に異常はなかった。
……病院?
そう思った瞬間、ドアが開いた。
「起きてたの?」
入ってきたのは、若い女性だった。母親と呼ぶには、少し若すぎる気がする。
彼女はほっとしたように息を吐き、俺の顔を覗き込んだ。
その瞬間、反射的に口から言葉が出た。
「……父さんは仕事?」
女性は一瞬だけ表情を止めてから、困ったように笑った。
「この家に、お父さんはいないよ」
胸の奥が、ひどく冷えた。
――ああ、そうか。
どうやら俺は、死んでもなお、運命から逃げられなかったらしい。
父親に捨てられ、命を落とし、目を覚ました先でも俺は、片親だった。
転生しても片親って、もうどうにでもなれ。




