真!実の愛~〇きゅうさいごの日
その日、ダイナミック王国ドワオ城に激震が走った。
「王子、キサマ……今、何と言った?」
ティーカップを片手に麗しき令嬢が声を震わせる。
否!
震えているのは声ではない!
見よ、令嬢の手にあるティーカップの中身が沸騰している! そう、水の分子が激しく揺さぶられ、激しい熱を発生させているのだ! 背後に控えている侍女達も澄まし顔だが滝のように汗を流し、スカートの下ではガクガクと膝を震わせているッ。
令嬢の怒りは今まさに爆発寸前。
だというのにテーブルを挟んで座る貴公子は憂いを帯びた眼差しを令嬢へ──最愛の婚約者へ向けるのみ。
「君との婚約を一刻も早く見直さねばならん事態となった。有り体に言えば、我が有責の婚約解消を速やかに実行せねばならぬ」
「イヤミかキサマッ!」
令嬢が吠える。
それだけで逢瀬のために誂えた調度品が次々と念動爆砕し、ティーカップの中身が一気に蒸発する。並み居る王城騎士と言えど即座の死を覚悟する程の苛烈な気当たりを真正面より受けて、貴公子の衣服に無数の裂け目が生じる。常ならば即座に叛逆の徒としてその場で処断されても致し方無い蛮行! だが貴公子は揺れた前髪を僅かに指先で整えるにとどまり、控えていた侍女に「キミ、彼女に茶を」と促したッ。
「君も知っておろう。我が亡き母の生国、かつて獅子心王朝と呼ばれた王家が滅びた。王族の骸を積み重ねて玉座にした奴等は、男女の交わりを生命の濁りと断じ、男は男で、女は女で子孫を残すことでヒトとして高次に至ると信じている正真正銘の異常者だ」
そう。
それは革命と呼ぶにはあまりにも凄惨な出来事だったッ。
異世界より現れた少年を聖母として!
男が男の種で子を宿し出産するという奇跡をもって自らの正当性を主張した狂人達は! 国民の正常な判断を狂わせながら勢いのままに獅子心王朝の一族を滅亡させた!
ただ一人、目の前にいる貴公子を除いてッ。
「奴等は我の身柄を要求し、断ればそれを口実として我が国へ攻め入るであろう。無論我がダイナミック軍団が破れるなど万が一にもあるまいが、開戦の口実をくれてやるのも業腹よ」
事実、国王以下この貴公子を放逐せんと思うものは一兵卒に至るまで皆無である。
長子なれど側室腹であるからと正室の子こそ次代の王であると公言し、目の前にいる令嬢の家へと婿入りの暁には臣籍へと降りる手続きも済ませていたッ。「我はボインちゃんが好きなのでな」とあえて下品な台詞を時々吐くことで王統としての品格が弟に及ばぬ存在であるとアピールし心を砕く貴公子をッ、騎士団の下っ端まで名を覚え回復薬を優先的に廻し衣食住に不自由の無いよう国王に願い出たこの貴公子をッ、誰が時間稼ぎの囮に使い潰したいと思うものか!
令嬢は激怒した。
令嬢は、乙女心を解せぬ、しかし優しき心の持ち主である貴公子を婚約者に迎えて幸福だったッ。婿入りの初夜には人一倍の勢いをもって貴公子をパパにする気満々であった!
令嬢は激怒した!
百歩譲って同性愛は個人の嗜好である。
そういう愛もあるだろう。否定はしない。
だが奴等は我が婚約者の遠い祖国を滅ぼし、その血族を絶やさんと刃を此方に向けている。愛の純度など令嬢は知らぬッ。愛の序列も知らぬッ。
だが奴等は、貴公子に望まぬ離縁を切り出させたッ! 貴公子と令嬢が育んでいた愛にケチをつけた!
夜毎に牛乳を飲み腹を下した幼き日の令嬢に「知らぬのか。小さき胸は尊さの象徴なのだ」と温石をくれた思い出を、奴等は無価値と断じたのだ!
「王子。キサマが別れを告げるなら、この場でキサマを押し倒してパパにする。奴等が恐れる獅子心王朝の系譜を我が血に結ぶ!」
「ならぬ」焦り、慌てる貴公子「そんなことをすればキミにまで悪意が及ぶ。君には笑顔でいてほしいのだ」
「ウルセエ! キサマは天井の染みでも数えてイロッ」
令嬢は貴公子の襟首を掴み嵐のような体術で近くの長椅子へと投げ落とす。侍女がすかさず枕を配置し、薔薇の花弁を撒き散らす。貴公子の着衣は千々に吹き飛び、花弁が局部を隠す絶妙な配置ッ。意外にも鍛えられた身体が露となり護衛騎士は唾を飲む。
この貴公子、助平な身体をしてやがる。
令嬢は周囲を威嚇しつつ、神に感謝したッ。
ハァ~。ナンてスケベなんだ王子はッ。
その場にいる者すべてが同じ感想を抱いた。このドスケベ貴公子を前にしてあの狂信者共が理性を保っていられるはずがないッ。わが国で末永くパパになってもらわねばならぬッ!
狼のような咆哮と共に令嬢は己がママになったと確信した。
「嗚呼、なんてことダ」
恍惚の中、令嬢は吐息と共に真理を口にした。
「今ナラ分かる。この世界が生まれた理由も、昨日の授業中にブラのホックが外れた理由も。こんな簡単な事だったのダ。貴様がパパになるのも、妾がママになるのも、宇宙の始まりと共に定められていたこ――」
「正気に返りたまえ我が最愛!」
令嬢が翠の光に包まれた瞬間、貴公子のロイヤル・チキンウイング・フェイスロックが炸裂し、人類は種族進化の機会をひとつ手放すことになった。
かくして貴公子は亡き母の生国に帰ることなく、沢山の子や孫に囲まれて余生を過ごすことになる。なお件の革命政府は貴公子の聖伐を掲げて国境付近まで押し寄せていたが、天空引き裂き轟く雷に撃たれ塵ひとつ残すことなく消滅したッ! 迎え撃つべく国境を護り固めていたダイナミック軍団は雷鳴と共に嘶く獣の声を聞いたと国史には記されている。
<ドワオ>
+登場人物紹介+
●令嬢
ひとりで百万パワーくらい発揮しそうな令嬢。高貴にして高潔だが目が石〇賢。
ドリルヘアーは分身殺法と地中移動を可能にする淑女の嗜み。婚約解消を言い渡されて乙女心が真っ赤にスパーク、うっかり宇宙の真理に到達しかけた。ダイナミック王国変幻騎士団団長でもある。
●貴公子
どすけべボディで王宮をいつも騒がせている天然無自覚ラッキースケベ被害者担当王子。正室の子であり弟である王太子を熱烈に支持し、王太子派筆頭貴族でもある。令嬢のことを心底愛している。
●革命政府
男は男と、女は女と愛し合う事が世界の真実であり有性生殖は遺伝子を濁し混沌を生み出す悪魔の所業と主張する。国家転覆し反対する者を処分していった。なお異世界から召喚された少年を聖母としてその旗頭にし世界制覇を目論んだが他国侵略の寸前に滅びた。
●聖母
異世界から召喚された少年。すごかったらしい。異世界転移時の特典で男同士でも子孫繁栄できるようになったらしく子孫繁栄していた。
●謎の雷
しかー!




