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Good novelでリメイク版連載中【完結】異世界転移してもスキルはなかったけど、白い羽の彼女を守るため最強の勇者目指します  作者: 東雲 明
第3章 誓いが刄になるとき

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第71話 人間界に背を向けて

「また、勉強してたのか? 」


 ボーガンとの死闘を終え、選手控え室に戻った俺は、思わず足を止めた。


 長机の上いっぱいに教科書や試験用紙が広げられ、その向こうでミユウが真剣な顔つきでペンを走らせている。蛍光灯の白い光が彼女の銀髪を淡く照らし、肩先にかかる細い髪が、さらりと揺れた。


「龍夜くん! 」


 俺に気づいた瞬間、ぱっと花が咲いたように表情を輝かせ、ぴょんと椅子を離れて駆け寄ってくる。その勢いのまま胸に飛び込まれ、俺は慌てて抱き止めた。


 腕の中の身体は驚くほど熱い。頬は火照り、目の下には薄く隈くまが浮かんでいる。


「そんなに無理しなくても、大丈夫なんじゃないか? 」


 問いかけると、ミユウは首を横に振った。


「だって、総合順位リザルトで一位にならないと、最高天使イリゼになれないもの。実技じつぎに出られない分、筆記試験ひっきしけんで頑張らなきゃ」


 そう言って、するりと俺の腕を抜け、また机へ戻る。背筋を伸ばし、黙々と答案に向き合う横顔は、どこか痛々しいほどに凛としていた。


 地球にいた頃の自分を思い出す。授業を抜け出し、漫画ばかり読んでいた日々。将来のことなど深く考えもしなかったあの頃の俺が、いまこの光景を見たら何と言うだろう。


 自嘲じちょうが胸の奥で苦く滲む。


 俺は彼女の隣に腰を下ろした。すると、緊張の糸が切れたのか、ミユウがそっと肩に頭を預けてくる。


「少し、だけ……」


 小さな声。触れ合う体温が、戦いの名残で冷えかけていた俺の心をゆっくり溶かしていく。


「水だ。アストリアの海水かいすいを薄めた。疲労回復ひろうかいふくに効くらしい」


 水筒を差し出すと、彼女は両手で受け取った。


「ありがとう。美味しい」


 喉を鳴らして飲み干すと、ほうっと息をつく。その吐息が、ほんのり桜色に染まった頬を震わせた。


 しばしの沈黙。遠くから、観客席のざわめきがかすかに届く。


「……ボーガンの幻覚げんかくでな」


 俺は口を開いた。


「お前がいない人間界での生活を見せられた」


 あの陰湿な術。色を失った街。誰の笑顔もない日常。そこにミユウの姿だけが欠けていた。


 胸が締めつけられる。


「お前がいない生活なんて、考えられなかった。あそこに居続けたら、俺はきっと、何も変われなかった」


 強さを求める理由も、戦う意味も持たず、ただ流されるだけの自分。


「お前が教えてくれたんだ。本当の強さは、守りたい人ができた時に与えられるって」


「龍夜くん、わたしは別に何も……」


 戸惑いに揺れる瞳。俺は椅子から立ち上がり、彼女の前にひざまづいた。驚いたように瞬くその目を、まっすぐ見つめる。


 左手をそっと取る。細く、温かな指。


「俺はもう、人間界には戻らない」


 言葉にした瞬間、不思議と迷いは消えた。


「ずっとここにいて、お前を守る」


 それが俺の選んだ道だ。


「そんな……龍夜くんの家族は……? 」


 震える声。大粒の涙がこぼれ落ちる。


「母さんたちは、俺がここまで成長したことを喜んでくれるはずだ」


 嘘ではない。俺はようやく、自分の意志で未来を選んだのだから。


 ミユウは堪えきれず、俺に抱きついた。細い腕が背中に回る。肩越しに伝わる鼓動は早く、それでも確かに生きている証のように温かい。


 静かな時間が流れる。互いの呼吸が重なり、世界が二人だけに縮まっていく。


 その時、不意に扉が開いた。


「カイルも、ボーガンも倒すとは。うわさ通り、大したものね」


 凛とした女の声。


 振り向くと、深紅の装束に身を包んだ剣士が立っていた。燃えるような赤髪。鋭い眼差しが、まっすぐ俺を射抜く。


「わたしは西のあかかわの国の代表、ルシアン。あなたの頭脳、試させてもらうわ」


 外道な罠や幻惑ではなく、純粋な実力で斬り結ぶという自負が、その立ち姿から伝わってくる。


 俺は咄嗟にミユウを抱き寄せた。彼女の肩がびくりと震える。


「龍夜くん……」


「大丈夫だ」


 耳元で囁き、強く抱きしめる。彼女の髪から甘い香りが立ちのぼり、胸の奥に静かな炎が灯る。


 人間界で死に物狂いで学んだ医学の知識。解剖学かいぼうがく神経伝達しんけいでんたつ、筋肉の構造。あの頃はただ未来を掴むための手段だった。それがいま、戦いの中で生きている。


 剣筋の癖、呼吸の乱れ、視線の動き。すべてが読み取れる。


 俺はゆっくりと息を吐いた。


 恐れはない。ただ、守るべき存在が背後にいる。それだけで十分だ。


 控え室を出ると、闘技場の光が眩しく差し込む。観衆の歓声が波のように押し寄せる。


 背後から、ミユウの声がかすかに届いた。


「龍夜くん、お願い……」


 振り返らない。振り返れば、きっと迷いが生まれる。


 拳を握り締める。爪が掌に食い込む痛みが、決意をさらに固めた。


 どんな相手でも負けない。どんな策でも打ち破る。


 俺はもう、弱かった頃の自分ではない。


 世界を救うつもりはない。ただ一人。


 彼女だけを、守り抜く。

お読みくださってvery very thanksです。少しでもおもしろいと感じられれば、評価、ポイント入れてってくださると泣いて喜びます。

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