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Good novelでリメイク版連載中【完結】異世界転移してもスキルはなかったけど、白い羽の彼女を守るため最強の勇者目指します  作者: 東雲 明
第1章 召喚と測定不能

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第43話 救世主は、1人では立てない

 世界が、静かになった。


 それは突然のことだった。


 嵐のように荒れ狂っていた魔力の奔流が、まるで嘘だったかのように消え失せ、空気が張りつめた膜のように固まる。


 風が止む。

 轟音が遠ざかる。

 

 天使たちが恐慌に駆られ、悲鳴をあげながら散っていくはずの羽音すら、もう聞こえない。


 音という音が奪われた世界に、残されたものは、たった二つだけだった。


 ひとつは――魔王の心臓の音。


 恐怖と怒りがないまぜになり、早鐘のように打ち鳴らされる、生々しい鼓動。


 もうひとつは――俺の内側から聞こえてくる、力の声。


 ――まだだ。

 ――もっと出来る。

 ――壊せ。

 ――殺せ。


 理性とは無関係に、甘く囁くその声に、俺は思わず口の端を歪めた。


「……うるせぇな」


 小さく呟いたつもりだったが、静まり返った世界では、それすらやけに大きく響いた。


 魔王が、赤黒く光る瞳を細める。

 その視線には、憎悪だけではない。

 

 理解できないものを前にした恐怖と、認めたくない現実への拒絶が、はっきりと浮かんでいた。


「来てみろ……救世主! 」


 魔王の咆哮が、空間を震わせる。


 何百年、いや、それ以上の時を生き、積み上げてきた憎悪と絶望が、声となって叩きつけられる。


 世界そのものに対する呪詛のような叫びだった。


 それでも。


「……行ってやる必要もねぇよ」


 俺は一歩も動かなかった。


 剣も振るわない。

 距離も詰めない。


 ただ、拳を握りしめる。


 魔力が、内側で渦を巻く。

 制御なんてしていない。

 力を、解放しただけだ。


「な――っ!? 」


 魔王の声が裏返る。


 次の瞬間、魔王の身体が見えない衝撃に叩き上げられ、宙を舞った。


 地面に激突し、岩盤を砕きながら何度も転がる。


 轟音が、遅れて戻ってきた。


「ぐ……ぅ……! 」


 魔王は呻き声を上げながら、無理やり立ち上がる。


 砕けた腕、歪んだ脚。


 だが、それらは黒い魔力に覆われ、瞬く間に再生していった。


「……不死、か」


 俺は息を吐く。

 厄介だが、想定内だ。


「この……名ばかり救世主がぁ! 」


 魔王は叫び、怒りに任せて突進してくる。


 その速度は、先ほどまでとは比べものにならない。


 だが――遅い。


 俺は手を突き出す。


「来ないのか? 」


 指を開くと同時に、圧縮された魔力が解放された。


 空間そのものが歪み、衝撃波が魔王を叩き潰す。


「ぐあっ! クソガキがぁっ! 」


 魔王は再び吹き飛ばされる。


 だが、今度は空中で体勢を立て直し、着地と同時に黒い短剣を生成した。


 その刃から、禍々しい気配が溢れ出す。


 ――その瞬間だった。


 胸の奥で、嫌な音がした。


 ギシ、と。

 何かが軋む感覚。


 息が、うまく吸えない。

 肺が空気を拒むように、浅く震える。


 ――使いすぎた。


「はぁ……っ、はぁ……っ……」


 心臓を押さえ、無理やり呼吸を整えようとする。


 だが、鼓動は早まるばかりで、視界の端がじわりと暗む。


 冷や汗が、頬を伝って落ちた。


 魔王は、その変化を見逃さなかった。


「……ほう」


 赤い瞳が、嗤う。


「限界か? 救世主よ」


 魔王はゆっくりと距離を詰めてくる。


 獲物をいたぶるような、嫌な歩き方だった。


「ならば――次は、私の番だ」


「く……っ! 」


 俺は反射的にアストラルブレイドを構える。


 だが、腕が重い。

 剣の感触が、遠い。


 ――まずい。


 そう理解した瞬間。


「龍夜くん! 無茶しないで! 」


 ミユウの声が、世界に割り込んできた。


 振り返ると、そこにいたのは、小さな身体で必死に立つミユウだった。


 足は震え、唇は噛みしめられている。


 それでも、その瞳だけは、真っ直ぐに俺を見ていた。


「神様……お願い……! 」


 ミユウは天を仰ぎ、声を振り絞る。


「私を……もう一度、正天使にしてください!

龍夜くんと……一緒に戦いたいの! 」


 その言葉に、俺の胸が強く締めつけられた。


 ――世界のためじゃない。

 ――正義のためでもない。


 ただ、俺の隣に立つためだけの祈り。


 その想いに、神々は沈黙しなかった。


 黄金の光が、ミユウを包み込む。


 空気が震え、神聖な気配が世界を満たしていく。


 銀色のツインテールは金色に変わり、幼い身体は、神に近い存在――正天使の姿へと変貌した。


「ミユウ……」


 言葉が、喉で止まる。


 ――美しい。

 だが、それ以上に、胸が痛んだ。


 また、無理をさせた。

 俺のせいで。


「安心して」


 ミユウは静かに微笑む。


 その声は、いつもの無邪気なものではなかった。


「私が、一緒に戦うから」


 ミユウが俺の手を取る。


 その温もりが、胸の奥に絡みついていた恐怖を、ゆっくりとほどいていく。


 呼吸が、整う。

 心臓の鼓動が、落ち着いていく。


 魔王が、一歩後ずさった。


「……馬鹿な……」


 その声には、明確な怯えが混じっていた。


「小娘ごときが……神の力を……! 」


「小娘、ね」


 ミユウは静かに言い返し、俺の手を強く握る。


「私は、どの時代の龍夜くんも、大好きよ」


 守られる側が、支える側になっている。

 その事実が、胸を締めつける。


 それでも。


 この手を、離したくなかった。


「ミユウ……俺も、大好きだ」


 その言葉と同時に、力が満ちていく。


「魔王! 」


 俺は剣を構え直す。


「これで終わりだ!

俺たちの力、見せてやる! 」


「龍夜くん! 今よ! 」


 二人の力が、重なる。


 光と闇が激突し、世界が悲鳴を上げる。


「ぐ、ああああああああっ!! 」


 魔王の断末魔が、空を裂いた。


――終わった。

――やっと、終わった。


 だが、空はまだ黒く、世界は、沈黙したままだった。


 俺は力尽き、ミユウの胸に倒れ込む。


「龍夜くん! 」


「……まだ、だ」


 掠れた声で、そう言った。


「これぐらいで……終わる俺じゃ……ねぇ」


 ミユウの肩を借り、俺は立ち上がる。


 この身体が、どこまで持つのか。

 答えは、まだ出ていない。


 心臓を押さえ、

 黒く薄曇る空を、睨みつけた。


 ――救世主は、ひとりでは立てない。

 それでも、俺は前に進む。


今回もお読みいただきvery very thanks‼︎です。少しでもおもしろいと思われましたら是非評価、ブクマ、ポイント入れてくださると泣いて喜びます。

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