笑顔と優しいエメラルド
とりあえず俺の家に来て休めと、船に乗せてもらってその場から移動した。
ゆっくりと船を漕ぎ出す。
「わしの名前はトーラムだ。豊かな喜びを与えてくださる神様にちなんだ名前でな。」
飲み水をぼくに手渡しながら、名前を教えてくれた。
「ありがとうございます。トーラムさん…」
「トーラムでいい。あんたは?」
「ぼくは、カズキと言います。」
「カズキ、聞きなれない言葉の響きだな。どんな意味を持っている?」
「ええと、カズは…いち、一つという意味の文字と、輝くという意味の文字がくっついています。」
「おお、とても良い名前だ。」
ぼくは素直には喜べなかった。一輝はイッキとも読めて、いじめの最中に無理矢理コーラなどの炭酸を一気飲みさせられたことがある。
晴れない表情のぼくをじっと見ながら、トーラムは続けた。
「この国では、1はとても縁起が良い。神様と一体になる力や創造だとか、新たな始まりを示したりするよ。それがきらきらと輝いてるなんて、最高じゃないか。」
にか!っとトーラムは笑った。彼の笑顔に、少し気持ちが上を向く。
「ほれ、早く水飲みな。からからに干からびてるだろうから。」
「すみません、頂きます。」
エメラルドの宝石よりも少し淡く優しい緑色の海を、僕たちは進んでいく。