94話 サブロー、思案する
サブロー・ハインリッヒは、ショバタ城にて報告を受けていた。
「であるか」
「じゃ無いですよ若様。どうされるおつもりです?確かにナルミキャッスルにマルネキャッスルにオオタカキャッスルを取れたのは、大きいですが。追い詰められた相手があろうことかナバルとタルカを動かして、タルカの言いなりであるチャルチとマリーカまで参戦してきたのですよ」
「是非も無し」
是非もなしとは、仕方がない、やむおえない、どうしようもないという意味である。
そう言って、サブロー・ハインリッヒはマリーとの話を終えて、自室に籠り、策を練り始める。
ふむぅ。
爺様と結んでいると考えたナバルが動くのは考えていた。
しかし、それにタルカだけでなくチャルチやマリーカまで乗るとは、陛下の威光とは、ここまで地に落ちておるのか。
牽制したのだが全く役に立たんとは。
だが、それ程強力な切り札を爺様はナバルに対して切ったということだ。
切り札が何かわからぬ以上、打てる手を打ちこの難局を切り抜けねばなるまい。
タルカの進軍先は、ハザマオカだろう。
ここには、マリーを送り込み魔法にて、殲滅するのが良かろう。
いや、待て。
デイルという男は、陰険な策を好むのは見てとれた。
送り込んで来る兵全てが罠だとしたらどうだ?
例えば、我らが殺すことで不利となる場合だ。
そういうことぐらい簡単にするのでは無いか?
ならば、戦っているようにしておいて、睨み合いをするのが良いか?
マッシュならその程度のこと造作もなかろう。
問題は、ナバルと共に攻めてくるチャルチとマリーカの方か?
マリーカと言えば、男装をした女性兵士がいたところだな。
あのようにわかりやすいものを兵士として迎え入れている領主は、常識人だと思ったのだが。
確か名前は、リチャード・パルケスだったか。
言いたいことがあるのに己を押し殺し黙っている姿は長政を彷彿とさせたのだがな。
思えば、長政には酷いことをした。
ワシが一言、朝倉を攻めることになったと相談していれば、長政ならワシの考えを理解して付いてきてくれると勝手に期待していた。
その結果、長政は久政とワシとの板挟みとなり、朝倉に義理を通し、ワシを裏切る決断をした。
その心中をワシが思いやってやれておれば。
最期は、市や姪たちを逃すことでワシにも義理を立てようとしよった。
今頃、あの世でお前が守った市や姪は皆元気に成長したとすまなかったと謝りたかったのだがな。
いや、謝るのはワシらしく無い。
だが、それぐらい優秀な義弟を失うという選択をした自分を責めていたのかもしれんな。
話が脱線したな。
どうにかリチャードと2人きりで会うことはできないだろうか?
奴らが攻めるとしたら、爺様たちにとっては、後方に突然現れたぐらいの城としか考えていないワシヅ砦だろう。
ここを離れて、そこに向かうということは、ショバタを放棄するに等しい。
やれやれ、どうしたものか。
トントンとノックの音が聞こえる。
「若、マリーが何やら思い悩んであるのが見ておられませんので、俺で良ければ、話し相手ぐらいにはなりましょうぞ」
「ロー爺か。入るが良い」
「失礼します若」
部屋の真ん中で、白装束を来て、坐禅を組んで、側に刀を置いている姿を見て、ロー・レイヴァンドは、只事では無いと息を呑む。
「これは?」
「案ずるな。変なことなど考えておらん。ただ、無となって、ひたすらに思案していただけのことよ」
「そうでしたか。して、結論は出ましたか?」
「いや。答えは見つからん。ゆえに、行動あるのみと考えた。聞いてくれるかロー爺?」
「俺で良ければ、何なりと」
「うむ。では、1つ。爺様は、3つの城が落ちたことで、追い詰められて、ナバルに泣きついた」
「俄には信じられませんが。若の言う通りなのでしょうな」
「その餌は、母上だと思っていた。爺様に切れる切り札など母上を置いて他には無いだろう。だが、動かぬと踏んでいたタルカがチャルチとマリーカを伴いこちらに進軍していると聞く。母上以外の強力な切り札を爺様は待っているのか?」
「恐らくマーガレット様かと」
「ん?爺様が母上とドレッドの婚姻を餌にナバルから兵を借りるのはわかる。それにタルカやチャルチやマリーカが乗るのはどうしてだ?」
「これは俺の想像ですが。ドレッドは、養女としてマーガレット様をガロリング卿に要求したのでは無いかと」
「それがどうして、タルカやチャルチやマリーカまで動くことに繋がる?」
「これも俺の想像ですが。ドレッドは、養女として貰い受けたマーガレット様をそのままルードヴィッヒ陛下に嫁がせることで、融通を効かせるつもりなのかと」
「よもや母上に陛下を動かす程の力があるとは、盲点であった」
その時、1人の初老の男性が現れて、話す。
「マーガレット様は、大層モテて居られました。ルードヴィッヒ陛下だけでなくベア卿やマル卿ですら、ですのでロルフ様との婚姻の際は、大層睨まれたものです」
「若、こちらへ。何しにきたロレンス!」
「ロレンス老か。ロー爺、そう警戒する必要はない。いつから聞いておった?」
「しかし、いえ若がそういうのでしたら」
「ホッホッホ。サブロー様も脇が甘いですな。ワシが間者ならどうなさるのです?」
「お前のことだ。やるのなら一撃で仕留める。母上に何を頼まれた?」
「何も。ただ、『ガロリング家はもうおしまい』と」
「であるか」
「驚かれませんな。さては、我が主の思惑までご存知なのですかな?」
「だいたいは、な」
「流石、我が主の血を引くものです。それでこそ、仕えるに値するもの」
「であるか。母上は、自分の幸せよりも死を選ぶのだな?」
「ロルフ様以外のモノになる気は無いと。残念です。ルルーニ様は良い青年だと思うのですが」
「!?お前も意地が悪い」
「何のことですかな」
「フッ。まぁ良い。向こうの思惑がわかった以上、好きにはさせん」
「サブロー様のそういうところがワシは好ましく思っております」
「しかし、若。一体どうするつもりで」
「それをこれから話す」
サブロー・ハインリッヒは、この難局を切り抜ける作戦を話すし始めるのだった。
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