81話 サブローvsモンテロ
一騎討ちを受けると聞き出てきたモンテロ・ハルトは、驚きを隠しきれなかった。
何故なら、そこには腰に2本の刀を帯びたサブロー・ハインリッヒが立っていたからである。
「フハハハハ。俺も全く舐められたものだ。8歳のガキ。それも敵大将自ら一騎討ちを受けるなど。俺は、てっきりロー・レイヴァンドが出てくると思っていたんだが」
「それは、期待に添えなくて申し訳なかった。だが、これはワシの爺様が仕掛けた内乱だ。覚悟を決めたうぬをワシ自ら討ち取ることで、動揺を与えてやろうと思ってな」
「それで死にに来たのか。天はまだ俺を見捨てはしなかったようだ。サブロー・ハインリッヒ、俺が生き残るために死ね!」
「モンテロ・ハルト、うぬを討ち取り、爺様に愚かな選択だったと後悔させてやろうぞ」
ここで、少し説明を挟みたい。
サブロー・ハインリッヒの腰にある2本の刀についてである。
これは、本能寺の変で、織田信長と共に消失したと伝わる名刀で刀身70センチを超える太刀で、実休光忠、元の名を三雲光忠《みくもみつただ』と言い、刀匠として名高い長船光忠作と伝わる刀であり、織田信長が本能寺の変で最後まで帯刀していた刀と伝わっており、刀身が長いことから恐らく自刃の際にも使われた名刀と推測される。
そして、もう1本の刀も同じく織田信長と共に本能寺の変にて消失したとされる刀身25センチ程の短刀で薬研藤四郎と言い、刀匠の藤四郎吉光作の短刀である。
逸話ではあるが主君の腹を決して斬らないと伝わることから最後まで、切腹には用いられなかっただろうと推測の元、先程述べた実休光忠が織田信長の自刃の際に切腹で使われた刀であると推測されている。
さて、この2本の刀が何故こちらの世界に来ているのか。
それは、サブロー・ハインリッヒの誕生まで遡る。
サブロー・ハインリッヒの母であるマーガレット・ハインリッヒは、かつて女の身で将軍になれる程の武の才覚があった。
そのマーガレット・ハインリッヒがサブロー・ハインリッヒの懐妊の際に2本の刀が敷地内にある先代領主の墓地に突き刺さる夢を見た。
それを見て、マーガレット・ハインリッヒは、笑いながら流石私の子ね。
この子もきっと武の才覚があるんだわと笑ったそうだ。
そして、その夢を頼りにロルフ・ハインリッヒが全く訪れなくなった先代領主ラルフ・ハインリッヒの墓を訪れるとそこに夢で見たキラキラと光る2本の刀があったのである。
マーガレット・ハインリッヒは、これを大切に保管するとロー・レイヴァンドがサブロー・ハインリッヒに剣の稽古を付ける際に渡したのだ。
その時のサブロー・ハインリッヒの顔は、大層喜びに満ちていた。
フッ。
まさか、あの時は再びこの刀を手にすることなどあろうかと思ったが、よくぞ再びワシの元に来てくれた光忠に藤四郎。
この世界でも、うぬらを存分に振るわせてもらおうぞ。
「ガキが一丁前に太刀を振り回すじゃねぇか」
「これでもレイヴァンド卿に鍛えられているのでな。それにワシの愛刀も帰ってきたのでな」
「だが所詮ガキが持つに勿体無い刀だろうよ!」
モンテロ・ハルトの猛攻を凌いでいるサブロー・ハインリッヒ。
「若様!やはり、早かったのです。ロー様!もう我慢できません」
マリーは、サブロー・ハインリッヒのピンチに弓を手に取り、モンテロ・ハルトを射抜こうとした。
「やめよマリー!お前は、若の顔に泥を塗るつもりか!若も先程、申しておったであろう。ここで若、自らがモンテロ・ハルトを討ち取る意味を。若を信じよ!」
「それで若様が死んでは、元も子もありません。私は、それだけは絶対に阻止しないと。若様を失う最悪の事態だけは、絶対に避けないといけないのです!」
尚も弓を射ろうとするマリーの矢が消える。
「ルミナ!何をしているかわかっているの?」
「サブローにぃちゃんを失いたく無いのは、みんな一緒だよ。でも、これはダメだよ〜。今のマリーおねぇちゃんだと冷静さを欠いてるもん」
「若様が危険なのです。冷静でいることなんて、できるわけが無いでしょう!わかったら、私の邪魔をしないで!」
この間もサブロー・ハインリッヒとモンテロ・ハルトは打ち合っていた。
こうして、実戦で刀を振るのも本能寺以来か。
やはり、遠く離れると実践経験が鈍るものだな。
やれやれ、このような素人の剣術に対応できぬとは、具教の奴に笑われているであろうな。
説明しよう。
具教とは、北畠具教のことであり、南伊勢侵攻の際に織田信長に対して徹底抗戦して、信長を大いに苦しめ、強硬した信長を敗北に追い込み戦を長期化させ、織田信長が次男の織田信雄を養子に送り込み和睦を結ばせるに至らしめた男である。
それも7年しか持たず、信長と信雄が送り込んだ刺客によって、その生涯を終える。
その際北畠具教は、刺客を相手に、100人に手傷を負わせ、19人の敵兵を切り殺した剣客である。
ワシはな具教、再びお前が敵に回るのが怖かったのだ。
だが、お前は一瞬も怯むことなく立ち向かったと兵たちから聞いた。
それを聞き、何と見事な最期であろうかと。
ワシも最期はそうありたいと本能寺では、光忠を手に最期まで金柑頭に抗えた。
まぁ、結果は聞くまでも無いだろうがな。
あの世とやらでは、酒のつまみに語り合いたかったのだが。
何の因果か。
まだこうして生きながらえている。
こちらの世界でのことも酒のつまみに話そうぞ。
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