76話 罠張り
ルルーニ・カイロよりレーニン・ガロリングと開戦するのは明後日とのことだがサブロー・ハインリッヒは、もう1人の公爵家であるモンテロ・ハルトを警戒して、テキーラ・バッカスを使って、領民たちを前線砦のゼンショウジではなく後方支援砦のワシヅに移動させることに決める。
「成程、その大役はワシにうってつけですな。ちょうど、先程意気投合した男とこの場にいた領民たちに酒を奢る約束をしましたからな」
「であるか。では、頼んだテキーラよ」
「お任せを。その代わり酒をたんまりと用意してくだされ」
「抜かりない男だな。承知した。マリー、酒樽をワシヅに」
「かしこまりました若様」
「にしても、眼鏡美人の護衛秘書とは、サブロー様も隅に置けませんな」
「テキーラ、勘違いしているところ悪いがワシとマリーはそのような関係ではない。あくまで上司と部下の関係だ」
「バッカス卿、若様はまだまだ子供です。そのようなことに興味はありません。寧ろ、戦の方に興味がお有りのようです」
「興味がないといえば、嘘にはなるが好き好んでいるわけでは無いぞ。誰かが為さねば乱世は治らんだけのこと。身内同士ですらこれなのだからな」
「あっ!若様の気持ちも考えず失礼を」
「構わん。マリー、テキーラにワシヅまでの道順を」
「かしこまりました」
サブロー・ハインリッヒは、マリーと別れるとロー・レイヴァンドに命じて集めさせていた兵と合流するのだがそこにロー・レイヴァンドの姿はなかった。
「サブロー様、ロー様より、お話は常々聞いております。ハザマオカで、ナバル・タルカ連合を追い払って以来ですね。ロー様の副官を務めておりますランディと申します。以後、お見知り置きを」
「そう畏る必要はない。ランディよ。お前が来たということは、ロー爺。ゴホン。レイヴァンド卿は」
「ロー様は、此度協力してくれる貴族の皆様の中で、日和見だった方々を一足先に避難させました」
「協力を約束してくれたその日に討ち死にとなっては、何も成せんからな。当然だ。ハンネスとゴルドとルイスは」
「一足先に、サブロー様をお待ちです。自分は、ロー様の代わりに会議に参加するようにと」
「であるか。ランディよ。期待している」
「はっ」
入った部屋では、ハンネス・フロレンス、ゴルド・グロスター、ルイス・ヴェルトハイムの3人が揃っていた。
「またせたようだな」
「いえいえ、若殿。ワシらも先程こちらに来たところじゃて」
「して、サブロー様。ルルーニの奴とどんな話をされたのですかな。ガッハッハ」
「サブロー様、予定通り明日の明朝、開戦で構いませんか?」
「そんないっぺんに話されても困る。ハンネスよ。待たせていないのであれば幸いだ。ゴルドよ。ルルーニの奴は、母に惚れているみたいだ。それとは関係なく油断できない相手なのは間違いないがな。ルイスよ。少し変わった。こちらから仕掛ける予定だったがショバタに攻めてくるハルト卿を返り討ちにすることで、開戦の合図とする」
サブロー・ハインリッヒの言葉にルイス・ヴェルトハイムが頷く。
「そうですか。サブロー様はあくまで向こうから開戦の口火を切らせたいと。では、手筈通りに致しましょう」
「うむ。城壁の上には、予め兜と鎧を着せて寝転がせている案山子をたくさん配している。後は、この城の路地にも案山子を配しておけば、爺様よりも優位に立ちたいハルト卿が勝手に罠にかかるだろう」
「そちらは心配していませんよ。ただ1つ懸念点があるとすれば」
「これが初陣となる祭りの参加者たちだな」
「流石にお気付きでしたか」
「あぁ」
「ここで勝てば、一気に自信も付くだろうが初陣は緊張するものだ」
「ゴルドの言う通りではあるがそこは心配していない。アイツらは、揃いも揃って度胸の塊のような奴らだ。臆せず戦うだろう。そして、相手はこちらを舐めてかかっているハルト卿だ。策さえなれば、討ち取ることは容易であろう」
「若殿、なら悩んでおられるのは、組み分けですな?」
「あぁハンネス。その通りだ。この策の要は、城門の3方向に音も立てずに忍び寄って火を付けることにある。色んなところから出られる状況では、大きな混乱とはならないからな。混乱から立ち上がるまでに、次々に討ち取ることが肝心だ。この初戦、俺は鬼となる。逃げるものも投降するものも誰1人として逃がさず首を斬る。反サブロー連合に付いた時点で、簡単に許しは得られないと弁えてもらうためにな」
「えぇ。簡単に許しては反乱が多発することになります。断固として屈しないという姿勢を示すのが大事でしょう。そのことに気付いているとは、サブロー様と話しているとまるで修羅場を潜り抜けてきた国の王と話している気分になります」
「ルイスよ。それは買い被りすぎだ。ワシは、国を掴めるところまで行って、手にできなかった哀れな男だ」
「後半はよく聞こえませんでしたが買い被りなんてことは無いと確信しています」
「であるか」
「サブロー様、なんか言いにくいな。殿って呼んでも」
「ゴルド。構わん。で、何だ?」
「組み分けで悩んでるなら俺に任せて欲しい奴らがいるんだが」
「申せ」
「相撲で、ベスト16位まで行ったオルテガって男を歩兵隊の隊長に、的当てで良い成績を残したリリアーナって女を弓兵隊の隊長として、俺に預けてもらいたい」
「ゴルドよ。何を遠慮していると言いたいところだが初めから奴らを預かるつもりだったように思えるがどうしてだ?」
「俺の時代は、好きもの同士が戦場で並び立てるなんてことは無かった。家にいるのが女の仕事だとな。あれは仕事などでは無い。妻という名の使用人と変わらん。殿による新しい時代の形として、夫婦で揃って戦場に立つこともできると示したいのだ。俺がかつて愛した女への贖罪の意味も込めてな」
「であるか。ゴルドの過去に何があったかは聞かん。ワシは、お前を気に入ってるのでな。良かろう。2人を隊長としてゴルドに預けよう。しっかりと育てよ」
「はっ」
こうして、組み分けを決めていき、サブロー・ハインリッヒは、まだその場に残されていた1500人の祭りの参加者を前に演説をするのだった。
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