74話 ルルーニ・カイロという男
ルルーニ・カイロが話を始める。
「あの、宿屋の主人とは、いつからこのような関係に?」
「お前の話とは、関係ないと思うが気になるか?」
「気にならないかと言えば嘘になります。元マジカル王国の魔法師と近衛騎士といえば、父を含め徹底的にやられたことがあります。遺恨なく匿えていることに」
「それなら知ってるのはワシだけだからな。此度、お前に教えたのは、敵地に1人で乗り込んできたお前の胆力を見込んでのことだ。このことを爺様に話すつもりなら話しても構わん。信じないだろうがな。ハッハッハ」
「ガロリング卿のことをよくご存知ですね」
「どうせ、母を引き込んだのも。この地を売り渡す相手への貢物だろうしな。爺様の中で、俺も必要のない人間となったわけだ。無論、こちらも親族だからとて容赦するつもりはないがな。寧ろ、消化試合でつまらないと思っていたぐらいだ。お前ほどの男と母が本気で立ち塞がってくれるのなら楽しめるというものよ」
「これは手痛いところを突かれました。俺が危惧していたのもまさにそれです。マーガレット様は、戦場で死ぬことを望んでおられます。我が子のために」
「であるか。それゆえ、遠慮して欲しいということなら飲めんぞ」
「何故!?」
「それは、母の覚悟を無にする行為ゆえよ。それに、母のことをナバルのドレッドに渡したくないのならお前が頑張るしかあるまい。努力なくして、掴める幸運などなかろう」
「ぐぐぐ。具体的に貢物として渡されるであろう人物まで特定しておられましたか」
「予想を立てただけのこと。しかし、タルカが黙っておるであろうか。いやはや楽しみよ。こちらの思惑通りに進む展開は、策を巡らした甲斐があるというもの」
ルルーニ・カイロは、嬉々として話すサブロー・ハインリッヒに内心恐怖を抱いていた。
祖父であるレーニン・ガロリングを許すつもりはないと平然と言い、母や自分と戦うことに全くの躊躇がないところ。
タルカが黙っていないことを見越して、策通りだと言ってのけたこと。
自分が思うよりもサブロー・ハインリッヒという男は、底が知れないのではないか。
「フハハハ。思案していることを当ててやろうか?自分が思っていたよりもワシの底がわからないと思ったのだろう?」
「!?」
言い当てられたことにルルーニ・カイロは驚いていた。
「油断は大敵だぞカイロ卿。いや、ルルーニよ。お前は、ワシと2人きりで話すことで、お前は勝手に重荷を外して、理解してくれると思ったのだ。ワシは、母の想いを尊重する。その上でこちらも本気で戦う。それがワシなりの応えかたよ。お前がどうしても母を助けたいのなら、頭で考え、それに従い行動すれば良い。それとも何か?ワシは、本気で戦うに値せんか?」
「ハインリッヒ卿。いえ、サブロー様は、本気で戦うに値する方です。俺は俺の望む未来のためにこの知をマーガレット様のために使い、サブロー様と戦いましょう」
「フッ。迷いは晴れたようだな。話がそれだけならこれで失礼する。爺様が祭りの翌日に攻めてくるのでな」
「!?貴方という人は、どこまで。ですが安心してください。明日までは大丈夫です。マーガレット様が止めると言っておられましたので」
「そうか母上が。余韻を楽しむ時間をくれるとは、舐められたものだ。と悪態を付ければ良かったのだが領民たちに今日ばかりはゆっくりして欲しかったのも事実。母の御厚意に素直に感謝するとしよう。ルルーニよ。ワシは、お前が母の再婚相手なら嬉しいのだがな」
「!?ご、御冗談を。俺なんかマーガレット様にふさわしくありませんよ」
「フッ。ワシはこう見えて人を見る目は人一倍あるつもりだ。信じすぎて、気付かぬうちに裏切られていることはあるがな」
「俺なんかに勿体無い言葉です。その後半の方がよく聞こえなかったのですが何か言いましたか?」
「いや、ワシの独り言よ。気にするな。では、戦場でまみえることを楽しみにしている。ルルーニ。御武運を」
「こちらこそ。サブロー様。御武運を」
2人が離していた時間は1時間程度だったがルルーニ・カイロは、サブロー・ハインリッヒに背中を押される形で迷いを振り切り、マーガレット・ハインリッヒのために覚悟を決めた。
サブロー・ハインリッヒもまたルルーニ・カイロという底の知れない男が見せた歳相応の油断が人を想う気持ちから来ていたことを知り、嬉しかった。
フッ。
氏郷の奴に娘の冬を嫁に娶らせる約束をした日を思い出す。
アイツは、手柄を立てるまで、遠慮しますなどと言って、14歳での南伊勢における国司の北畠との初陣で、見事、期待に応えて、戦後に娶ってくれた。
仲睦まじくて、ワシも嬉しかったものだ。
ワシがいる間に側室を設けたとの話は聞かなかったがワシが死んでもアイツは義理を通し続ける男だろう。
信頼の足る人間に娘を託せたことは幸いよな。
ワシは、母にどうなって欲しいのだろうな?
未だに引きずる父のことなど忘れて、まだ若いのだから新たな恋に向かって欲しいのであろうか?
いや、馬鹿な息子のために後処理をしようとする母に幸せになって欲しいのだ。
だが、それと同時に戦場に立てば、女で初めての将軍となったと恐れられた母と戦いたい気持ちもあるのだろうな。
毘沙門天の化身などと恐れられたあの男とどちらが強いのだろうな。
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