72話 祭りがもたらした意外な効果
祭りの興奮も冷めやらぬまま領民と貴族が抱き合って、喜び合っていた。
「あの嬢ちゃん。やりやがったぜ」
「前半こそ、あのテキーロ一択かと思ったが、体力調整をミスするとは、無念ぞ」
「オッサン、そんな気にすんな。どの馬が勝ったって良いじゃねぇか。馬をそれだけあの嬢ちゃんたちは使いこなしたってことだ。女だの男だのと性別でできることとできないことって分けてるのが間違えてたってんだ。領主様は、それを祭りを通して、俺たち領民と貴族のアンタらに学んで欲しかったんじゃねえのか?」
「そうだな。間違えていたのは、我らやもしれぬ。サブロー様は、まだまだ若く領主の器などではないと、ガロリング卿は吹聴しておったが。ここまで領民の心を掴んだ。フッ。日和見で様子見ようと思っておったが、考えを改めるべきことかもしれぬな」
「なんだよオッサン。日和見派か?ったくよ。あの領主様が日和見何で許すと思ってんのか?今までのを見てなかったのかよ。坊ちゃん貴族とか。差別意識の強い奴は、追い出されただろ。俺たち領民とこうやって抱き合って喜びを分かち合ってんなら。もう、心は決まってんだろ」
「よもや。最底辺の農民と蔑んでいた者に諭されるとはな。だが、悪くはない。領民とは、治めるべく貴族が虐げる者ではなく守る者か。決めたぞ。ワシは、日和見をやめる。全財産と私兵の全てで、サブロー様のため敵を押し留める盾とならん」
「そうだぜ。その意気だぜオッサン、オッサン名前は?」
「人に名前を聞く時は自分から名乗るものであろうが」
「まぁ、俺はよ。その虐げられてきた最底辺の農民だからよ。名乗る名前なんて持ち合わせてねぇんだよな。まぁ、芋育ててるからジャガイモさんって呼ばれてんな」
「そうか。名前がないことがこんなに不便であることも知らなかった。ワシは、この歳まで生きて、何をしておったのであろうな。ワシの名は、テキーラ・バッカス」
「大酒飲みのバッカス卿!?」
「まいったまいった。ここにいる領民たちよ。今日の喜びを酒場で分かち合おうぞ!心配せずとも金ならワシの奢りじゃ!」
大酒飲みのバッカス卿、ロルフ・ハインリッヒに仕えていた貴族の1人で、戦に勝っても負けても、率いていた兵を酒場に連れて行き夜通し飲み明かすことからこの名が付いた。
ロルフ・ハインリッヒの息子であるサブロー・ハインリッヒに付くかマーガレット・ハインリッヒを盟主に謀反を起こしたレーニン・ガロリングに付くか悩んだ結果、どちらにもつかず日和見を決めていた。
性格は豪快だがそれゆえに差別意識も高かった。
そんな男ですらここまでの祭りで、考えを改めるべきだと思うことが多々あった。
1日目の相撲では、いつも最前線で使い捨てにしてきた農民や戦争奴隷の活躍する様を見せ付けられ、内心興奮していた。
2日目の的当てでは、若いサブロー・ハインリッヒの護衛が女の使用人だと聞き、女如きがなどと思っていたところをサブロー・ハインリッヒの例え女であっても才があれば取り立てるその思い切りの良さにすっかりと引き込まれていた。
そして、3日目における馬術では、貴族しか乗れないと思っていた馬に女性たちばかりが乗りこなしている様を見て、度肝を抜かれると同時にあんなに蔑んでいた女が馬に乗りレースをする様にすっかり引き込まれ、賭けに興じた。
そして、終わった後は、最底辺の農民と蔑んでいた者たちと抱き合って、喜び合う。
今までなら、あり得ないことの連続だが妙に心地が良かった。
だが、命を預けるに値するのかそれだけは決めかねていた。
そこに来て、農民に背中を押される。
覚悟の決まったバッカス卿は、領民飲みている前で、サブロー・ハインリッヒに跪いた。
「このテキーラ・バッカス、サブロー様に対する数々の非礼をお詫びする。いや、サブロー様だけでなく。女や領民たちにこの場を借りてお詫びしたい。本当に申し訳なかった!領民は蔑む者ではなく守る者。サブロー様の御言葉はまさにその通りだ。そのことにもこの歳になるまで気付かんかった!許されるのであれば、サブロー様の臣下となり、1兵卒からやり直しさせていただきたい!」
「テキーラと言ったな。面をあげよ。気付けたお前は、これからであろう。1兵卒などと言わず。今の領土の兵で参戦してくれれば、ワシは嬉しい」
「日和見をしていたワシを許してくださると?感謝に耐えませぬ。この命、尽きるまでサブロー様に忠節を尽くしましょうぞ」
「フッ。期待しておるテキーラよ」
その後、テキーラ・バッカスを皮切りに日和見を決めていた貴族たちがサブロー・ハインリッヒに首を垂れ、各々が兵を連れて、参戦することを約束したのである。
あの男、テキーラと言ったな。
可成の奴によく似ておる。
アヤツも初めは義父の息子である義龍の奴に与していたが、ワシと義龍を天秤にかけて、最後はワシに忠節を尽くす道を選んだ。
その結果、ワシが反信長包囲網とやらに囲まれた際に、ワシを守る盾となり、亡くなった。
戦に絶対などないから断言はしてやれぬが願わくば、テキーラにはそのような道を選ばせることのないようにしたいものだ。
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