57話 飛び入り参加の女性の1人視点
『女であろうと才が有れば臣下として取り立てる』
領主様の言葉を聞いて、私は女に産まれたことが不幸だと思っていた自分を変えるきっかけとなりました。
そう思っていたのは、私だけじゃなかったみたいで、95人もの女性が的当てに参加しました。
この国は、女にとって生きにくい国です。
女として産まれた日から家族に残念がられ、下働きに出るところが貴族のお屋敷だったら暮らしはマシですが精神は最悪です。
坊ちゃんの性欲処理をさせられたなんて、よく聞きますし、首を絞められて殺されかけたなんて話も聞きます。
そんな中、比較的恵まれているのが計算ができる女性です。
こういう人たちは商人に買われるのがほとんどで、事務仕事を任されます。
そして、最も最悪なのは、娼館での男たちの相手です。
領主様が変わってからこういうところにもきちんと整備が整って、暮らしは良くなり、そういうのが好きな女性にとっては、花形なんて言われることもありますけど。
私の家は貧しくて、女として産まれた私は、14になった日に娼館に売られました。
その時は、まだ先代の領主様の時代で、毎日のように乱暴を働く貴族やストレス発散に訪れる士族によって、何度も死にたいと思うような苦痛を味合わされました。
そんな私が新しく領主様となられた方が開く祭りというものに興味本意で訪れ、相撲という初めて聞く演目に心躍らせ、次の演目の的当てで先ほどの言葉を聞いた私は、12も下の少年領主様の御言葉に期待してしまったのです。
そして、思い切って参加することにしたのです。
初めて触る弓という武器に不思議としっくりくる感じがして、構えて放った矢が真っ直ぐに飛んで行き、自分の手元を離れて飛んで行く矢が私を表している気がしました。
大きく大空に羽ばたけと言っているように。
そして、私に向けられている歓声も心地良かったのです。
その中には、私のお客さんも居て。
その方は凄く紳士な方なんですけどね。
ちなみに参加者でもあります。
あっ勿論、私の職場は娼館なので、やることはやってますよ。
「リリアーナちゃーん、頑張れ〜」
そう、彼が私のお客様。
領主様が変わってから来られるようになったお客様で、職業は農民さんらしいです。
名前はないそうなので、私はオルテガさんと呼んでます。
偉大な開拓者の名前をオルテガと言って、開墾と開拓の響きを聞き間違えた私が付けた名前を気に入ってくださって、その名前でこの祭りも登録しているんですよ。
相撲では、準々決勝で横綱さんに投げ飛ばされてました。
横綱さんは、化け物さんなので仕方ないよと昨晩慰めてあげました。
はい。
昨晩もお店にお客様としてお越しになられたんですよ。
オーナーに、私のことを何れ身請けしたいから専属にして欲しいと言って、手付金を渡しましてね。
あれだけ貯めるのに相当苦労したと思います。
本人曰く『お金が貯まるようになったのは、サブロー様のお陰であって、僕は君が好きだから君を守りたいからお金を使うんだよ』なんてカッコいいことをいってくれました。
クスクス。
そして、彼が言ってくれましたが私の名前はリリアーナ。
まぁ、本名なんてありません。
娼館で働くに当たって、オーナーが名付けてくれた名前です。
でも、どうしましょう。
私、何とこの的当ての予選とやらで上位10人の中に入っちゃったんですよね。
彼はというと30メートルの距離で白の的に1射当てるのが精一杯でした。
でも私は当てるだけでも凄いと思います。
見てる分には簡単に見えますがやると難しいんですよこの的当て。
ちょっとフォームが崩れちゃうと変なところに飛びますし、引き絞るのが甘いと手前で落ちちゃいます。
意外と奥が深いんですからね的当ては。
あっ、セル君だ。
相撲で優秀な成績を残した中でこの的当てに残っているのは彼だけです。
30メートルで青の的に1射と50メートルで白の的に2射当てて、10点と予選突破者の中でダントツに最下位ですが、突破するだけでも凄いです。
頑張って〜。
まだ幼い顔立ちで可愛いんですよね。
あっ、私はもう人妻になる予定ですからそういう目では見てませんよ。
だって、セル君には相撲でできた熱烈なファンが居ますからね。
セル君の1射目は、手前で失速してしまいました。
そう、あれだけ集中していても。
なんか騒がしいな。
あの貴族は、良い噂を聞かないデビ家の坊ちゃんだ。
先代領主様の時代に筆下ろしをさせられた時の話ですがろくな前戯もせずに力任せに突っ込んで、キモチイイって言えと強要してきたクソガキです。
ほんとやめて欲しい。
どうして、あんな奴が領主様を支持してるのか意味がわかりません。
これじゃ、セル君の集中力が途切れちゃいます。
その時、あのセル君一筋の熱烈なファンの方がその貴族様に突っかかり、それに腹を立てた坊ちゃんのクソガキが手を出そうとしたところを領民を守るように立ち塞がった別の家族様に言い負かされて、捨て台詞を吐いて、出て行きました。
どうやらあのクソガキは、領主様の陣営を去るようです。
ザマァ見やがれです。
後にあの貴族がかの有名なグロスター家のゴルド様だと知った時は、驚いて声が出なくなりましたが。
はい。
これより少し先の話になりますが私も主人も見事合格となって、今はグロスター家に、私は弓兵見習い、主人は歩兵見習いの訓練生として引き取られました。
ゴルド様は、先先代の領主様の時代、戦で慣らした強者ということしか知りませんでした。
単騎で突っ込んでマジカル王国の魔法師団を大いに蹴散らして、通り名がマジカルキラー。
マジカル王国の魔法師団からは敬意を込めて無駄撃ちなんて呼ばれてるそうです。
そして、私は、初陣を迎えることになりました。
相手は、あのクソガキです。
セル君の集中力を乱した報いと皆の努力を見せつけてあげようじゃありませんか!
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ブックマーク・良いね・評価してくださいますと執筆活動の励みとなりますので、宜しくお願いします。
それでは、次回もお楽しみに〜




