48話 ロルフ祭
サブロー・ハインリッヒは、祭りの名前に敢えて父の名を用いることにした。そうすることで、反サブロー連合側の貴族の参加を促したのだが、結果は。
「参加すると表明したのは、カイロ公爵家のルルーニだけか。十中八九、情報収集が目的だな」
「でしょうな。若にしては、ずいぶん軽率な行動でしたな。今更、断るわけにもいきませんぞ」
「ん?断るつもりはない。寧ろ、1人だけでも参加を表明してきたことを評価しておるぐらいだ」
サブロー・ハインリッヒの言葉に頷き、諌めるロー・レイヴァンドだが返ってきた言葉に驚き、その後を受け、疑問を口にするマリー。
「若様、それはどういうことですか?」
「マリーもロー爺もこちら側の陣営だから向こう側がこれを受け取りどう考えたかわからないのであろう。戦とは頭だ。頭を働かせよ2人とも。向こうの立場で考えてみよ。母上を担ぎワシと対立することを表明した相手だ。罠とは考えんか?」
サブロー・ハインリッヒの言葉を聞き、ハッとようやくそのことに思い当たるロー・レイヴァンドとマリー。
「若、罠と考えたなら参加しないのが普通では、情報収集とはいえ、持ち帰らなければ何の意味もありませんぞ」
「だから、この男は賢いのだ。罠と知れば静観を選び情報を収集しようとは考えん。飛び込めばどんな被害を被るかわからんのだからな。だが、このルルーニという男は違う。罠と知りつつも招待主が祭りの最中に手をかけることはないと判断した。全くその通りなのだからぐぅの音もでん。それに1人だけ参加というのもな。母上や爺様に信頼されているということだろう。気は抜けんな。こうなれば、アイツらに頑張ってもらねばな」
「サブロー祭ではなくロルフ祭と聞いて、やってくるでしょうか?」
サブローの言葉を受けて、マリーが不安を口にする。
「それで来ないならその程度の覚悟だったのだろう。だが、ワシは来る気がしている。しかし物事に絶対はない。来なかった時の催し物も考えておかねばな」
「若様は、何通りも手を考えているんですね」
マリーは、サブロー・ハインリッヒの言葉に頷き、考えることをやめない思考力の高さに脱帽していた。
「自ら考え動かないものに未来は切り開けん。ロー爺にマリーよ。お前たちも与えられた命だけこなしているのではなく考えよ。人の考えを聞くのも楽しいのでな。まぁ、ワシの方が良い作戦であろうから覆せる作戦を持ってきたら評価してやろう。ハッハッハ」
「若、俺は戦でこそ真価を発揮するので」
「私も若様の作戦通り動くのが楽しくて、自分の正体を明かしましたから」
「なんじゃ。つまらん。しかし、それもまた良い。嫌々やるのと進んでやるのとでは、天と地程の差があるからな。そういう点では、マリーのことは信頼している。ロー爺は、戦とやらで挽回するようにな」
「うぐぐ。若は、当主となってから子供らしさがすっかりなくなってしまいましたな。御心労もあるでしょうが軽くできるよう側でお支え致す」
「父を亡くし、母と敵対する羽目となった。心労がないと言えば嘘になるが。父が生きていれば、このオダ郡は変えられなかったであろう。ワシは、父の作ってきたものを壊すことになろうとも民たちに笑顔の絶えない世界とするため武力が必要だというのならこの手を進んで血に染めよう。その先にある平和のためにな」
「若」
「若様」
「2人ともそのような顔をするな。戦となるまでに母と会って話をしたかったのでな。此度、父の名を使ったのは、母も参加しやすいと考えたのだが爺様の俺への恨みは思った以上に根強いようだ。ままならんものよな」
サブローの覚悟を知ったロー・レイヴァンドとマリーは、8歳の子供が背負うにはあまりにも過酷な事を成し遂げようとしていることに、今まで以上に忠節を尽くすことを誓うのである。
そして、3日が過ぎた。眼下に広がるのは、千人の参加者とお祭りを見に訪れた民たちや招待を受けたマルケス商会が中心となって、商人たちを束ねて、大工と共に祭りの屋台をテキパキと設営し、料理の良い匂いがしていた。そして招待された貴族の面々には、旧御三家を始めとするサブロー・ハインリッヒの支持を表明している貴族たちが集まり、代表して、ハンネス・フロレンスが挨拶をする。
「若殿、このような祭りに御招待頂き、感謝致します。催し物とやらも楽しませてもらいますぞ」
「あぁ。招待客の方々には、特等席を御用意させてもらった。思う存分、楽しんで、民たちが幸せだと亡き父に届くように、な」
「承知致しましたぞ」
「ロー爺、では案内を任せる。俺は、1人で敵地に乗り込む勇気を示してくれた御仁を迎えに行くのでな」
「はっ」
サブロー・ハインリッヒは、ロー・レイヴァンドに招待客たちの案内を任せると端の方で縮こまっている男の元に向かう。
「うぬがカイロ公爵家の現当主を務めているルルーニ・カイロであるな?」
「これはこれは、話に聞いていた通りの方ですね。初めまして、ルルーニ・カイロです。もうちょっと多いかと思ったのですが招待に応じたのは本当に私だけのようだったので、萎縮していました。申し訳ございません」
ルルーニ・カイロ、油断ならない男だな。
ワシが来るように誘導しよった。
そして、さりげにこの場に自分以外の反サブロー連合の者はいませんから安心してくださいというのまで、言葉の端に忍び込ませ瞳で訴えかけるか。
氏郷以来だな。瞳を見て、只者ではないと感じたのは。
説明しよう。
氏郷とは蒲生氏郷のことであり、織田信長の娘婿である。六角家が滅んだ時に蒲生賢秀が人質として織田信長に差し出したのだが信長はその瞳を見て、普通のものとは違うと大層気に入り、娘を娶らせる約束をした程である。
「構わん。わざわざ、足を運んで頂き感謝する。ワシ自ら、案内致そう」
こうして、サブロー・ハインリッヒがルルーニ・カイロを案内するのだった。
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