20話 ルードヴィッヒ14世陛下の勅令
ナバル郡の兵2千を束ねる将軍、マッシュ・キノッコとタルカ郡の領主として千の兵を率いるデイル・マルは、オダ郡の本拠地であるショバタ街へと進軍していた。間も無く、国境線を越え、雪崩れ込もうとしていたのだが。
「ヒヒッ。キノッコ殿、ハインリッヒ殿が陛下の勅命を受け入れず戦となった場合の領土は、折半で良いですな?」
「ガハハ。マル殿、それは飲めませんな。こちらは2千の兵に対して、そちらは千。せいぜい3割が妥当でしょうな」
「そちらが7割とは強欲ではないかね。せめて4割は頂くよ。ヒヒッ」
「ガハハ。大きく出たものだ。働き次第で考えておくとしか言えんな」
万が一戦となったとしてもオダ郡を落とすことなど容易いことだと考えていた2人はもうその先のことを話しながらこの国境線へとやってきて、目の前の建造物に驚き戸惑っていた。
「馬鹿な!?このような建物聞いたことありませんよ。ヒッ」
「これは、ちと驚きましたな。それに誰やらいるようですな」
丘の上から声が轟く。
「我が名は、オダ郡領主、サブロー・ハインリッヒである。我が領土に何のようだ?申し開きがあるのなら聞こうか侵入者よ」
この言葉に反応をするマッシュとデイル。
「キノッコ殿、先ずはハインリッヒ殿が陛下の御言葉を聞き入れるかそれからですぞ。ヒヒッ」
「わかっている。さっさと済ませよマル殿」
軽く言葉を交わした後、大義名分のため陛下により書いた書状を取り出す。
「ヒヒッ。これはこれはオダ郡の領主様でしたか、無礼をして申し訳ありません。タルカ郡の領主をしておりますデイル・マルと申します。此度は、陛下の手紙をお持ちしました。警戒されているのならここで読みましょうか?ヒヒッ」
「タルカ郡の領主マル殿、これは失礼した。陛下の御言葉なら聞かねばなるまい。読まれよ」
「では失礼して」
デイルが読んだ書状の内容は2つである。
1つ、奴隷制に反対することを禁ずる。
2つ、ロルフ・ハインリッヒの妻マーガレット・ハインリッヒをルードヴィッヒ14歳への恭順の証として差し出すこと。
これらを真剣な顔で聞いたサブロー・ハインリッヒは答える。
「であるか。構わぬ。2つとも飲もう」
どうしてサブローが2つとも飲むと言ったのか。
1つ目に関して、奴隷制に反対しているが現状、いきなり撤廃できるとは考えていない。それは己が王となってから改革しようと考えている。今は、奴隷への酷い扱いに対して、手心を加えていこうと考えているだけなので、何の問題もない。
2つ目に関して、現状いきなりアイランド公国とことを構えるには、兵も資金も将も物量ですら圧倒的に足りない。その時間を稼ぐために人質を差し出せというのなら飲むのもやぶさかではない。
サブローは、デイルの反応で確信した。陛下の勅令にオダ郡を差し出せなどという文言が無いことを。
「待たれよ。ハインリッヒ殿は、奴隷制に反対しておったのであろう。それを一変して、飲むとはどういう心変わりか?」
「簡単なこと。領主となり、そのようなことは不可能だと痛感しただけの事」
「ぐぬぬ。待て、母親が大事ではないのか?」
「父のことで喧嘩中ではあるがワシのことを産んでくれた母だ。無論大事よ。しかし、陛下の寵愛を受けられるならこれ程幸せなことは無かろう。しかし、マル殿は、先程からまるで断って欲しいかのような言い方ですな。陛下の御言葉を無碍にすることなど無い。要件がそれだけなら帰ってもらっても構わないか?兵たちの鍛錬と模擬戦のため、急遽このような建造物を作ったのだ」
「ヒヒッ。まだ陛下の御言葉が一つ残っておりました」
「マル殿!?」
「キノッコ殿、どうしたのですその反応は、もう一つありましたよね?ヒヒッ」
「あ、あぁ」
デイルは、これで乗ってこなかったように、あえて余白を多くしておき、そこに誰にも見えないようにして、こう書き込んだ。
3つ、オダ郡を速やかに解体し、その領土の半分をナバル郡へ、残りの半分をタルカ郡へと併合すること。
サブローは、言葉を聞いて笑った。
「フハハハハ。マル殿、本当に陛下がそう申したのだな?その言葉が嘘偽りではないことを確認するが構わぬか?」
「ハインリッヒ殿、これは異な事を陛下の御言葉が信じられぬと申されるか?ヒヒッ」
これにサブローは、大きな声で頷いた。
「あぁ。全く信じられぬ!」
「!?陛下の御言葉に逆らうと申されるのだな。ヒヒッ。皆、聞いたか!大義は我らにある」
「マル殿、我らは3つ目の陛下の御言葉は知りませんぞ」
マッシュが三つ目について知らないのも無理はない。どうしても戦を起こし、オダ郡を手に入れたいデイルが勝手に付け足したのだから。
「キノッコ殿、まさかと思いますが臆したのではあるまいな。ヒヒッ。ベア殿と共に陛下を誑かした時点で、同罪よ。抜けることは許しませんぞ。ヒヒッ」
「共に陛下を誑かした?」
マッシュがドレッドより聞いていたのは、非協力的になりそうなオダ郡を攻略すると。それを陛下が認めたことに己自身、よく納得したなと驚いていたのだがマーガレットで釣ったと聞いて納得した。しかし、事ここに至っては、サブローは2つとも飲むと言ったのである。そこにこんな強引な文言を陛下が言うとは思えないというのがマッシュの考えであった。
「私とベア殿で、陛下にオダ郡が反乱を企んでいると諫言したのだよ。ヒヒッ」
「そんな」
仕えている主とデイルが共謀して有る事無い事を陛下に吹き込んだことにマッシュは頭を抱える。それに、こんな見たこともない建造物をここに来るまでの数日程の間に建てるほどの力を持つ相手に、今まさにナバル郡もタルカ郡も逆侵攻を許す大義名分を与えようとしているのである。
「皆の者、王命に従わぬサブロー・ハインリッヒを討つのです」
「待て!」
デイルの言葉に同調するナバル郡の兵士は1800人にも及び、マッシュの言うことを聞くのはたった2百であった。この2百はマッシュの近臣である。
「どうしたのですキノッコ殿、将軍が兵に置いていかれてますよ。ヒヒッ」
後ろで意地汚い笑みを浮かべ、マッシュに進軍を促すデイルにマッシュは、心の中で覚えておけと呟き進軍するしかなかったのである。
だが、これはマッシュにとって転換期となることをこの時はまだ知らない。
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