16話 エルフについて
マリーは、ロー・レイヴァンドに報告した後、その姿を黒髪眼鏡金平糖大好き召使いの姿から金髪碧眼長耳エルフへと姿を変え、サブロー・ハインリッヒを担いで、すぐさま見下ろせる丘の上へと向かう。
「ほぉ、えるふ?とやらはこうも早く動けるのだな」
「私たちは風の精霊様に特に愛されていますから、風が味方してくださるのです。それより若様、苦しかったりはしませんか?」
「心配せずとも良い。マリーのかけてくれた風の魔法とやらで、呼吸できているぞ」
「良かったです。ここまで全力で走ったのは久々ですから若様にどんな被害があるか心配だったのです」
「それよりも驚いたのは、マリーよ。その胸じゃ!どうして、そんなに縮む?」
サブローのデリカシーのない言葉に呆れながらも答える。
「はぁ、若様って、デリカシー無いですよね?確かに私の胸は小さいですがエルフに大きい胸の人なんて、なかなか居ませんよ。そもそも、大きかったら動く時に邪魔なんで!羨ましいとか無いですからね!」
「でりかしー?という言葉は知らぬが大きいと動きにくいじゃと?胸が大きくて尻が大きいのが女性というものだろう。子供を産んで育てるのだからな。いや、待て帰蝶の奴は小さかったか?」
「デリカシーとは、繊細とか気配りとか配慮って意味です。それにキチョウ?って誰ですか?まさかその歳で、女を引っ掛けたんですか?はぁ、先が思いやられますね」
「そのようなことなどせんわ!まぁ、そのこっちの話だ。デリカシーとやらのことはよくわかったが。申し訳なかったな」
しかし、子供を産むのには、大きい尻の方が何かと良いと言われてきたし、胸の方もな子供に乳を与えるのだ大きい方が良いと。まぁ、ワシは恒興の母の乳を吸って育ったがな。
恒興とは、信長の家臣でもあり乳兄弟でもある池田恒興のことであり、信長は、乳母の乳首を噛み破るという癖があり、困らせていたのだが池田恒興の母である養徳院が乳母となってからは、その癖が治ったそうだ。
養徳院か。夫と死別してからは父の側室となったから義母でもあるのだがな。アヤツの乳首は噛み破れんかったな。
噛む方がよく出たのだ。だからそれが普通と思い込んでいたワシの考えを打ち砕いてくれた。他の乳母よりも乳首は凹んでいて、吸い出さねば吸えなかった。
ん?
ひょっとして、ワシの吸い方が悪かっただけなのか?
まぁ、良い。あのような女性を傷付けるやり方を治してくれたのじゃ。感謝しかない。
恒興の奴、元気にしておるか?
いや、アイツのことだ織田家を守るために信忠を支えてくれているだろう。
よもや金柑頭に付いてはいまいよな?
いやいや、気にしていても仕方ない。ワシはもう元の世界には関わりたくても関わらないのだからな。
だが、こうやって偶に思い出すぐらいなら許してくれよう。
「若様、着きました」
マリーの言葉で、1人の世界から解き放たれるサブローは、短く呟く。
「であるか」
マリーは、眼下に敵が全くいない事からサブローに尋ねる。
「若様、ナバル郡もタルカ郡も見当たりませんが本当に来るのでしょうか?」
「うむ。こちらに向かっているところなのは間違いあるまい。ここまで5日で到着するであろう」
しかし、惜しいな。これほどの良い地形でありながら砦を築いて居ないどころか物見櫓すら作らぬとは、な。味方に攻められるなどと全く考えていないとは、な。領主として領民を守るのが仕事であろうに。
サブローは、つくづく父であるロルフ・ハインリッヒが無能であったことを悔やむ。ここに砦の一つでも作っていれば、牽制どころか脅威となり得たのだ。
小高い丘、いや山とも言える程険しく、山城を作るに持ってこいの場所なのである。今は、こうして開けていて、下からでも容易に見渡せるゆえに全くその意味をなしていないのだが。
逡巡している思考をマリーの言葉が呼び戻す。
「若様。敵が来るのに5日ですか。それでは、ロー様たちに知らせるのが少し早かったかもしれませんね」
「いや、構わぬ。マリーだからこそ。ここまで数時間で着いたが。本来ここまで来るのに馬を使っても3日はかかろう。その間、ゆるりと策を考えれるからな」
「そうですか。では若様、私について何か聞きたいことはありませんか?」
「マリーのことについて聞くこと、か。エルフについてなら聞きたいことがあるが」
「私で答えられることであれば構いませんよ」
「では、エルフは皆、マリーのように魔法を使うことができるのか?」
「はいと言いたいところですが答えはどちらとも言えないですかね」
「ん?それは、何故だ?」
「エルフが魔法を使えることに関しては、はいです。ですが、私のようにと言われるといいえとなります」
「ん?何が言いたいのだ?」
「エルフも人と同じで、得て不得手があるのです。少量の風の魔法を使えますがそれを矢に付与することしかできない百発百中の狩人のことをエルフと言い、私が先程使用したように風の魔法を身体に纏わせて、身体を強化することで近接戦闘を得意とする者のことをダークエルフと言い、魔法の才は高位でも弓矢を引き絞る力がなく属性魔法に特化した者たちのことをハイエルフと言います」
「ん?それだとそのどれにもマリーは当てはまらないのではなかろうか?」
「はい。たまにいるそうなのです。弓も扱えて、身体強化の魔法も使えて、適正のある属性の高位の魔法を全て扱える者のことをエンシェントエルフと言います。私はそれなのです。1億人に1人の逸材なんて、チヤホヤされたりしてたのです」
「そんなに強いのならワシが3歳の時に世話係を任された時に、逃げ出せたのでは?」
「えぇ、隙を見て逃げるつもりでした。そうできなくしたのは、他ならぬ若様なんですよ。若様といるとなんだかんだ楽しいのです。それに、若様はヤス様により良い暮らしをさせてやると宣言していましたね。それって、身分の違いはおろか階級制度も取っ払いたいってことなのではありませんか?」
「ククク。マリーよ。うぬは、ほんに聡いな。その通りだ。身分に縛られて、才能ある者が世に埋もれる世界などあってはならん。ワシはな。才ある者なら女だろうが子供。いや亜人でも分け隔てなく用いるぞ」
「全く、若様は退屈しませんね。だから側で見守りたいと思ってしまったのです。3歳でその思考がロルフ様にバレたら矯正される可能性がありましたから。ですが若様の言う通り、タンダザーク様はロルフ様に報告しませんでした。あの時から目星を付けていたのではありませんか?」
サブローはニヤリと笑みを浮かべ、やがて堪忍したかのように話す。
「タンザクの奴は、奴隷を下に見ていたが鍛錬をサボっていた訳ではないからな。裏でひっそりと鍛錬をしているのを何度も見た。そういう手合いは、力を認めた相手には、一定の礼節を持ち接するからな」
「本当にその通りになっているから驚いているのですが」
「人を見る目には自信があるのでな」
その後に裏切られることも多いがなと言いたかったがその言葉は飲み込んで、サブローは話を続ける。
「ところでマリーよ。魔法で即席の砦を作れたりはせぬか?」
その言葉の意味がわからないマリーは、目を丸くするだけだった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
エルフ:遠距離型。弓の扱いに長ける。魔力低
ダークエルフ:近接型。身体強化の補助魔法が使えて、近接戦闘に優れる。魔力中
ハイエルフ:遠距離型。弓を引き絞れないが適正のある高位な属性魔法を使える。魔力大
エンシェントエルフ:万能型。弓・補助魔法・全ての高位属性魔法を使える。魔力計り知れない。一言で言えばチート
ぐらいに思っていただければ。
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ではでは〜