135話 ワメク・イヌという男
ルルーニ・カイロがゼンショウジ砦からショバタ城へと進軍を開始した頃、ワメク・イヌは、ゼンショウジ砦に残っていた。
「全く、この俺に図々しく意見を言いやがって!今、この国の長はハインリッヒ家じゃなくて、ガロリング家だっての。お前もそう思うよな?」
「はい。ワメク様」
「良い良い。やっぱり、側に置くのは可愛い少年に限る。おほぉ。これも美味い」
女体盛りという言葉があるがそれの男版を想像してもらいたい。
少年と言っても18歳ぐらいの男が裸で寝転がされ、その上に料理が盛り付けられている。
「ふむふむ。ちょっと塩分が高めだな。汗をかき過ぎだ。馬鹿者!」
「申し訳、申し訳ありません。だから、だから、そこは擦らないで、ください」
「なら、はよう出来立てのミルクを出さんか」
「出します。出しますから。そんなに素早く擦らないで」
びゅーっと出されたミルクのかかった野菜を美味しそうに食べるワメク・イヌ。
「やっぱり野菜はマヨネーズに限る。何を惚けておる。まさか!?お前、漏らしたのではあるまいな?」
「いえ、そのような」
「えぇい!イカくさい何を出しよって、教育が行き届いておらんわ!出すのは、マヨネーズだけだと教えたであろうが!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。打たないで」
裸で料理を盛られ、箸で色んなところを刺激されるところを想像してもらいたい。
そんなことをされて、恥ずかしさを我慢できる人間など居るだろうか。
「フン。もう食えたものではない。罰として、お前には今晩の俺の相手をしてもらうとしよう」
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。お尻を掘られるのはもう嫌だ」
「ククク。嫌がる少年の顔ほど俺にとって最高のスパイスだ」
こうして、少年の泣き喚く声が一日中聞こえた朝のことである。
「報告します!スエモリキャッスルにて、レーニン様、お討ち死に!討ち取ったのは、サブロー・ハインリッヒの懐刀であるロー・レイヴァンドとのこと」
「馬鹿な!?何かの間違いだ!そうであろう?な?な?な?」
「イヌ卿、おきを確かに。確かな情報です。ですがマーガレット様の迅速なリカバリーによって、スエモリキャッスルを失うことにはならず。サブロー・ハインリッヒは逃げ出したと」
「それは本当か!女にしてはやるではないか。流石、レーニン様の血を引いているだけはあるということか。良し、すぐにルルーニのところに報告に向かい、ショバタ城に逃げ帰ってきたクソガキを殺してやる」
しかし、ルルーニ・カイロとのやりとりの最中にサブロー・ハインリッヒが後方のワシヅ砦に入ったことを告げられ、ワメク・イヌは、ルルーニ・カイロと共に進軍するも後方の支援に徹する。
その頃、前線では。
「ワシの名は、テキーラ・バッカス!ゾロゾロとワシの守るワシヅフォートに何用か!」
「知れたことです。ガロリング卿の仇を取りに来ました。大人しくサブロー・ハインリッヒを渡すのなら他の者には手を出さないと約束しましょう」
「殿を渡せとは大きく出たものだな。殿は疲れて眠っておられる!その御身を守るのはワシの役目。かかってくるが良い反乱軍ども!」
大将なのに、率先して突撃するルルーニ・カイロは、突然、苦しみ出して、その場に倒れるフリをする。
「カイロ卿!一体何が!足から出血を。まさか!?毒!汚い。汚いぞ貴様ら!」
突然、叫び出すルルーニ・カイロの側近の言葉を受け、それに乗るテキーラ・バッカス。
「戦に汚いもクソもなかろう。勝てば正義よ!」
その言葉を聞いて、ルルーニ・カイロは笑みを浮かべ、側にいる男に話しかける。
「テクノ、作戦は成功のようです。このまま、反乱貴族が来るまで、前線を乱戦状態にしておくこと。良いですね」
「はっ。ルルーニ様。ルルーニ様の御身体を乱暴に引き摺りますが、少し我慢してください」
「えぇ、盛大に擦り傷が付くぐらい強引に頼みますよ」
「はっ」
このようなやり取りでルルーニ・カイロが後方へと下げられている頃、後方の支援などという安全なところにいたワメク・イヌは暇をしていた。
ゼンショウジ砦へと連れ戻すつもりだったため少年たちを連れて来ていなかったことが余計にイライラを募らせていたのだ。
だから、そのイライラが声に出てしまった。
「えぇい!ルルーニの奴はまだ片付けられないのか!」
この大声を聞いて、コイツがワメク・イヌだと確信したアヤメは、近付いて、少年のような声色で話しかける。
「あの僕、道に迷ってしまって。その。あの。近くで、戦の声が聞こえるし怖くて怖くて」
「愛い男だ。俺が匿ってやるゆえ、我がテントに入るが良い」
簡単に迎え入れられたことに安堵したアヤメは、背後を向けたワメク・イヌに短剣を突き立てる。
「ぐああああああ。貴様、一体何者、だ」
「あちゃー。ちょっと浅かったかな。コイツ大きい声だし、騒ぎに気づいちゃって、他の奴らがやって来ちゃうよね。まぁ、いっか。簡単に自己紹介だけ、君の命を貰いに来たアヤメだよ」
「暗殺。まさか!?トガクシの手の者か。アイツらめ俺を売りやがったな!俺がどれだけ世話をしてやったと。ぐああああああ」
「あっ。ごめん。そういうこと聞いてる余裕ない。さっさと首を取って、持ち帰る。サブローに褒められる。頭を撫で撫でしてもらえる。エヘヘ」
相手が話し終えるまで待ってくれるなどそんなこと現実にはあり得ない。
こうして、簡単にその障害を終えることになるワメク・イヌは、後世ではカマセ・イヌなどと呼ばれることになる。
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