134話 ジャガ・イモの作戦
ワシヅ砦へと入城したサブロー・ハインリッヒであったがその動きは迅速で、自らが選抜した兵を連れて、ワシヅ砦を抜け出し、アヅチ城へと向かう。
このワシヅ砦の防衛を任されたサブロー・ハインリッヒの信頼厚い将の1人、テキーラ・バッカスは、多くの犠牲を出しながらもナバルにチャルチとマリーカを含む連合軍からこのワシヅ砦を守り抜いた確かに実績を残し、今再び迫り来る反サブロー連合軍を相手に軍師のジャガ・イモと策を練っていた。
「ローのオッサンの言うことが確かなら、ルルーニっていう奴は味方ってことで良いのか?」
元農民らしく、あけすけの良い言葉で話すのは、テキーラ・バッカスより名を賜ったジャガ・イモである。
「はぁ。バッカス卿。此奴にはまずこう言った場での言葉遣いを教えるべきだと言いたいが、若も大概なので、慣れましたな」
冷静な口調で話すのは、サブロー・ハインリッヒの懐刀であり、教育係でもあるロー・レイヴァンド騎士爵である。
「ガハハ。しかし殿は、陛下の御前では、きちんとした言葉遣いをしていたと聞きましたぞ。イモの奴と比べてやっては、可哀想であろう」
豪快な言葉で話すのがテキーラ・バッカス男爵。
生粋の貴族であるテキーラ・バッカスと士族から貴族へと取り立てられたロー・レイヴァンド。
階級こそテキーラ・バッカスの方が上であるが、そのようなものを取っ払うサブロー・ハインリッヒに仕えている者同士、そこに遠慮は感じられない仲である。
「テキーラのオッサン、そりゃ俺は別に陛下の前に行ったわけじゃねえけど。陛下の前でなら少しぐらいまともになるかも知れねぇだろ」
「ないな」
「俺もそんな気はする」
「おい、そこは嘘でも確かになとか褒めてくれるもんだろうが!で、本題だがよ。ルルーニって奴が味方だったとして、なんで先陣を切ったのか?って話だけどよ。可能性として、考えられんのが何通りかある」
話を聞いて、ロー・レイヴァンドは感心していた。
こんな凄腕の男が農民としてオダ郡に埋もれていたのかと。
ジャガ・イモが話した可能性は3つ。
1つは、反乱貴族をよりワシヅ砦へと集めること。
2つは、造反を疑われていてやむなく。
3つは、ルルーニ・カイロという男の死の偽装。
「1つ目と2つ目はわかるが。3つ目に関しては、全く理解できないのだが」
「まぁ、これはあくまで推察だが。新領主様に会って話したのは、さっきが初めてだ。だから確かなことは、わからねぇ。でもよ。祭りの時からずっと何かを企んでる。そんな男だろ。なら、既に何か手を打ってるんじゃねぇかって考えたわけよ。それに懐刀であるローのオッサンにルルーニは味方としか話してないことにも何か違和感を感じてよ。まぁ、ルルーニに関しては、ほっとけってことじゃねぇかと考えた。なら、ルルーニの後が問題だ。そっちは、早急に排除するのが良い気がするな。なぁ、トガクシの嬢ちゃん、アンタ暗殺はできんのかい?」
「勿論、アタシを誰だと思ってんのよ。トガクシの次期頭領、アヤメちゃんだよ」
「なぁ、なんか安心できねぇのは、俺だけかい?」
「此奴に暗殺は向いてないと若が」
「だろうな。全く、こんなのでも使いこなすのが軍師の仕事だよな。やれやれ。なぁ、テキーラのオッサン」
「なんじゃイモ」
「新領主様が奪われたっていうゼンショウジフォートだったか?そこにレーニンの奴が監視役として送り込むとしたら怪しいのは誰かいるかい?」
「ふむ。それならガロリング卿の後ろを従順に付いて回るイヌ卿であろうな」
「そいつの性格をわかりやすく教えてもらえるかい?」
「アタシは無視ですか?そうですか?そうですか?良いもん」
「はぁ。トガクシの嬢ちゃん、不貞腐れんじゃねぇよ。新領主様に褒められたくないか?」
「えっサブローに!?褒められたい。褒めて、頭なでなでしてもらって、お前が必要だって言われたい」
「(あっ成程な。トガクシの嬢ちゃんも厄介な男に惚れたもんだ。まぁ、後押しぐらいはしてやるか。どうなるかはしらねぇけど)なら今は黙ってろ。そうなるように完璧な作戦を考えてやっからよ」
「ホント!ヤッター。ジャガちゃん、だーいすき」
「やめろ。戯れんじゃねぇ!で、話を戻すがテキーラのオッサン、どうなんだ?」
「イヌ卿の性格か。とにかく女が嫌いで、少年を何人か情夫として囲っている。元同僚で出世したカイロ卿を妬んでいる。声が大きいぐらいか」
「十分だ。トガクシの嬢ちゃん、男装して、声が大きそうな男に近付け」
「へっ?ちょっと待ってよ。それって、そいつに抱かれてこいってこと。嫌よ!」
「はっ?新領主様に褒められたいよな?褒められたかったら手柄を挙げるしかないよな?手柄を挙げるのに1番手っ取り早いのは、指揮官の首を挙げることだよな?トガクシの嬢ちゃんなら男装したら麗しい少年になるし、簡単にホイホイと向こうから近づいてきて、首をとれると思ったんだけどなぁ。嫌か。嫌なら仕方ない。兵たちの中から」
「はい。やります。サブローに褒められるためならなんでもやります!要は、一際声の大きい男が寄ってくるのを待って、寝首を掻けばいいのよね?」
「そういうこった。飲み込みが早くて助かるよ」
このやりとりを見ていたロー・レイヴァンドとテキーラ・バッカスは、ジャガ・イモに弱点を晒すべきではないと痛感するのだった。
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