133話 ルルーニ進軍
サブロー・ハインリッヒがスエモリ城へと向かったとの報告を受けたルルーニ・カイロは、ゼンショウジ砦を捨て、ショバタ城へと進軍を進める。
その目的は、ルルーニ・カイロが恋しているマーガレット・ハインリッヒにより、まもなくレーニン・ガロリングが討ち取られ、それがサブロー・ハインリッヒの懐刀であるロー・レイヴァンドの仕業であることを聞き、及び腰になるであろう反乱貴族を決起させ、ショバタ城の後方にあるワシヅ砦へと向かわせるためである。
ルルーニ・カイロは、自分と共に生きてくれることを誓ってくれたマーガレット・ハインリッヒのため、いやこのオダ郡のために反乱貴族のフリをしたピエロを演じる。
それこそ、オダ郡を守るためにだけに何度も裏切りを重ねてきたカイロ家の真骨頂である。
「カイロ卿、レーニン様に何度も動くように言われても今まで動かなかったのにどうしてこのタイミングなのだ!」
ルルーニ・カイロに詰め寄るこの男は、レーニン・ガロリングに心酔している反乱貴族の1人、ワメク・イヌ男爵である。
「イヌ卿、マーガレット様が待っていた好機がやってきたと説明したはずですが?」
「好機かどうかを決めるのは、レーニン様でありマーガレットではない!」
「ハァ。この反サブロー連合の盟主はマーガレット様でありガロリング卿ではありませんよ」
「それは表向きであって、全てを決めるのはレーニン様だ。女のマーガレットは、それに従っていれば良いのだ!」
「それではまるでマーガレット様がお飾りのように聞こえますが」
「その通りだが何か?」
「言葉には気をつけられた方が良いですよイヌ卿。そのような言い方を私以外にはなさらないことです。この連合には、マーガレット様が上に立つから参加した貴族の方も多い」
「フン。おどしのつもりか?レーニン様が上だと言い切るのなら出て行くぞと」
「そんなことは言ってませんよ」
「相変わらず澄ました顔して俺を苛立たせる男だ」
「それは失礼しました。ですがこういう顔ですので悪しからず。それにガロリング卿に従っていたら今よりもっと酷い戦となっていたはずですが」
「今の方がよっぽど酷いであろうが!ハルト卿は、レーニン様の思い通りにならないクソガキ如きに討ち取られ、マルネキャッスルにナルミキャッスルだけでなく堅牢と謳われたオオタカキャッスルまで、クソガキ如きの手に落ちたのだぞ」
「そうやって、ハインリッヒ卿のことをクソガキなどと侮った貴方達に問題があるのでは?マーガレット様は、ハインリッヒ卿のことを油断しないようにと再三に渡って伝えたはずですが」
「フン。ああ言えば。こう良いよって。だからお前はムカつくのだ。俺より立場が上であることも気に食わん!」
「イヌ卿、立場が上だと思っているのなら従うべきではありませんか?」
「フン。俺は俺で勝手にやらせてもらう。ここから絶対に動かんからな」
「わかりました。構いませんよ」
こうして、ルルーニ・カイロは、時期を見計らって、ショバタ城を強襲。
兵も食糧も置いてないショバタ城は、無人であり簡単に落城させることに成功する。
するとゼンショウジ砦から血相を変えて、ワメク・イヌがショバタ城へとやってきた。
「カイロ卿、貴様はこの大変な時に何をしておったのだ馬鹿者!このような城、今となっては不必要だ!直ぐに下がれ!アヅチキャッスルと連携して、クソガキに対するのだ」
「イヌ卿、そんなに顔色を変えてどうされたのです?」
「お前は何も知らんのか!スエモリキャッスルにて、我らが主君、レーニン様がクソガキの教育係のジジイ如きに討ち取られたのだ!だが、マーガレットな奴が直ぐに取り返したらしく、クソガキがこちらに逃げ帰ってくるそうだ」
ワメク・イヌは、ロー・レイヴァンドのことをジジイなどと呼んでいるが確かに老け顔ではあるが歳はまだ30代後半であり、ジジイなどと言われる歳ではない。
「それなら、尚のことここを抑えておくほうが良いでしょう?」
「お前は馬鹿か!馬鹿なのか!お前程度で落とせる平凡なキャッスルにクソガキを閉じ込めたほうが良いに決まってるだろうが!」
「ならもっと平凡な後方に造られたキャッスルに行かせるほうが良いでしょう」
「やっぱりお前は馬鹿か!馬鹿なのか!後方のキャッスルはどんなカラクリか知らんが連合軍を撃退している。こんな安っぽいキャッスルより後方のキャッスルがクソガキの本命なのは確かだろうが!わかったらとっとと言うことを聞け!」
そこにサブロー・ハインリッヒの動向を探っていたであろう伝令が駆けつける。
「報告します!サブロー・ハインリッヒは、真っ直ぐに後方のキャッスルを目指し、入城したとのこと!」
「馬鹿な!?レーニン様が討ち取られたとの報告を聞いたのは昨日のことだ。いくらなんでも早い早すぎる。その話に、間違いないのか?」
「はっ!ロー・レイヴァンドに抱えられ、僅かに残った2千程の兵と共に入城するのをこの目でしかと」
「こうなってはやむを得まい。カイロ卿、直ぐに全軍で、後方のキャッスルを急襲する。良いな?」
ワメク・イヌの提案は、ルルーニ・カイロにとっても願ったり叶ったりである。
「良いでしょう。ここはイヌ卿の顔を立てることにしましょう」
「フン。最初から素直に従っていればよかったのだ」
こうして、ワシヅ砦へと進軍を開始することとなったのである。
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