122話 ハザマオカ攻防戦
サブロー・ハインリッヒがスエモリ城を急襲していた頃、ここハザマオカでは、タルカ郡の兵と小競り合いが行われていた。
ハザマオカの防将は、かつてナバル郡の将軍で、サブロー・ハインリッヒに降伏した降将のマッシュ・キノッコ。
副将の2人にサブロー・ハインリッヒから直々に名を与えられた元奴隷兵のヤスと士族として騎兵を率いるタンダザーク。
タルカの将は、デイル・マルの信頼厚く、将軍となったリゼット。
その配下の多くが使い捨てであり、両親や妻、或いは子供を人質に取ることで逆らえなくしていた。
「お前らの役目はわかっているな?」
「タルカのためオダの兵に殺されること」
「良くわかっているじゃないか。それがデイル様より与えられたお前たちの責務だ。タルカの民にオダへの復讐心を芽生えさせること。そのためにお前たちは選ばれた。逆らえばどうなるかわかっていような?」
「大事な家族や愛する者が殺される」
「そういうことだ。せいぜい、タルカのために捨て石になってくれたまえ。ハーッハッハッハッ。お前たちの死で、タルカはオダを憎み、もっともっと強くなるのだ」
高笑いして、後方を強力な盾兵により、徹底ガードしているリゼット。
逃げようものなら容赦なく殺して、その死をオダの仕業にする。
そういう構えである。
「なぁ、なんとからならないのかよ。どっちみち、俺たちはもう愛する人に会えないわけだよな?なら、向こうに亡命するとか」
「馬鹿を言うな。そんなことすれば母さんや父さんが責任を取らされて殺される。デイルとは残忍な男だ」
「どうすりゃ良いんだよ。妻の腹の中には俺の子が居るんだぞ。なのにこんなところで死ぬなんてよ」
「泣き言を言うな。ここに居る皆が同じ気持ちだ。だがこんなことに巻き込まれる相手側も可哀想なことに変わりない。せめて、我らの死がサブロー・ハインリッヒとやらのせいじゃなくデイル・マルだと明かせられれば」
「死ぬことは前提なのかよ」
「それは何をしようとも覆らない」
これに対して、マッシュ・キノッコはとんでもない奇策に出た。
「で、デイル様!ハザマオカの城に交渉を求める白旗が!?如何なさいますか?」
「そんなの無視して、奴隷共に攻撃させるのですよ。ククク」
「しかし、万が一、そんなことをしたことがバレれば、タルカのアイランド公国での立場はさらに悪く」
「馬鹿な宰相のせいで、もう底辺ですよ。陛下にオダによるタルカの討伐を飲ませた時点で。だから、今更そんな体裁など考える必要などありませんよぉ。さっさと攻撃を命じなさい。さて、俺は優雅なティータイムでもして高みの見物をしていますからねぇ」
マッシュ・キノッコのお陰で、助かったと思っていた奴隷たちに絶望が突きつけられる。
「全軍、白旗など見ていない。良いな。攻撃を開始せよ!」
「う、嘘だろ。向こうは交渉のための白旗を振ってくれているのに、無視して攻撃しろって言うのかよ!」
「おい、口を慎め。我らは所詮捨て駒、己の責務を全うするのみ」
「フン。そこのやつと違って、理解できているようだな。では、行け!」
その頃、ハザマオカ砦では。
「マッシュ様に報告!敵が攻撃陣形を組み前進を開始しました!」
「やはり、聞く耳持たんか。やれやれ、突っ込んでくる敵兵は、間違いなく捨て駒。どうしたものか」
「マッシュ将軍、サブロー様がかつて行ったように窪地に大岩で閉じ込めるのは如何です?」
「ヤスよ。目の付け所がよいな。確かに時間稼ぎとはなろう」
マッシュ・キノッコは、ヤスの作戦を受け入れて、窪地に誘導した奴隷兵を閉じ込めることに成功。
「上から岩が降って来るぞ。奥に奥に逃げ込め」
「押すな押すな。って、ここ行き止まりだぞ!引き返せ。って岩が道を塞いで」
「俺たちは一体どうなるんだ!?妻はどうなる?」
「事、ここに至っては、どうしようもない」
リゼットはデイル・マルからこう言う罠があると聞いていた。
それを踏まえて、正解ルートを教えていた。
なのに、その正解ルートが窪地に行き当たるという不思議な罠に目を丸くしていた。
「ば、ば、ば、馬鹿な!?デイル様から聞いていた情報通りならあそこは正解のルートのはず。なのにどうして?どうして、窪地に?」
「わかりません。ですがひとつ言えることは、奴隷共が誰1人として、死なずに捕えられてしまったということです。この状況で、人質を殺せば、彼らは問答無用で我らを裏切ります。どうしますか?」
「少し、黙っていてくださいよ!今、考えてるんですから!(まさか、あの罠は入る度に構造が変わるとでも言うのか?だとしたら正解ルートを導き出したとしても安全に抜けることはできない。だとしたらどうするべきか?声を張り上げれば、相手にも奴らが捨て駒と気付かれる。チッ、厄介な真似を。とっとと殺してくれれば良いものを。こうなったら交渉に応じて、あの奴隷共をどさくさに紛れて。それが良い。それが)交渉の白旗を上げるのです!」
「はっ」
こうして、マッシュ・キノッコとリゼットとの交渉が行われるのだった。
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