114話 暗殺未遂
スエモリ城の城主レーニン・ガロリングが突如現れたマーガレット・ハインリッヒによって、討たれたことをロー・レイヴァンドから聞くサブロー・ハインリッヒ。
「であるか」
「何が、であるかですか若様!このまま、マーガレット様を討てば、この戦は終わりです。私の魔法で、一思いに」
「やめよ!母上の言う通りだ。ワシヅ砦のテキーラを助けに戻る」
「若、良いのですか?」
「レイヴァンド卿よ。母にも悲しむ時間が必要であろう。己が手で爺様を斬ったのだ。母にとって大事な父をな」
「!?若様、失礼しました。ですが今更テキーラ様の救援に向かっても間に合うでしょうか?」
「さぁな。それは、ワシにもわからん。だが、マリーよ。決して堅牢ではないワシヅ砦が何故ここまで持ち堪えられていると思う?」
「ナバルが思った以上に兵を集められなかったとかでしょうか?」
「まぁ、それも可能性として、無い話ではなかろう。だが、もっと簡単だ。ワシヅ砦を守る将の質がワシが思う以上に高かったのだ」
「あの日和見していた老将がですか?」
「うむ。そう思うのも無理はない。だが、ワシはテキーラと話した時、この男は信頼に値すると判断した。それゆえ、ワシヅ砦を任せたのだ。だが、それはナバルが動いた場合に備えて、捨て石となることも見越してのこと。テキーラならば、例え死んでも務めを果たしてくれるだろうとな」
「それが思った以上に持ち堪えてくれていると?」
「うむ。ワシは最悪の場合、スエモリ城とワシヅ砦の交換を考えていた。だが、未だに保っていることを見るに、ワシの見積もりよりもテキーラが優秀だったのであろう。若しくは、相当有能な軍師がたまたま紛れていたか。いやはや、これだから人材発掘は面白い」
「若、笑っている場合ではありませんぞ。スエモリキャッスルの奪取は失敗。ショバタキャッスルが落ちたとなれば、アヅチキャッスルに籠る反乱貴族の連中が勢い付くのは間違いないかと」
「アヅチ城か」
ワシが心血を注いで建立した安土城とそっくりな城がこの世界にあるのだから不思議なものよな。
都である京により良い近い場所に居を構えるにあたって、ワシ自らが琵琶湖の近くに建立した城だ。
遠くを見渡せるように初めて大型の天守を持ち、その頂上にワシ自らが居を構えるためにな。
まぁ、勿論それだけではなく、毘沙門天の化身などと恐れられていた男の上洛や越前・加賀の一向一揆に対して、警戒してのことでもあるがな。
まぁ、そんな戦略的なことも勿論だが何よりワシが掲げる天下布武を象徴して、一目で人々に知らしめるためでもあったのだがな。
「若様?」
「すまんマリーよ。少し、感慨に耽っていた」
「思えば若は、アヅチキャッスルを初めて見た時に涙を流しておられましたな」
「フッ。ロー爺よ。そんなこともあったな」
「何か思い入れでもあるのでしょうか?」
「いや、マリーよ。このせ。ゴホン。あれほど絢爛豪華な城が何故居城では無いのかと、そう思っただけのことだ」
「成程」
「確かにショバタキャッスルと比べると若がそう思うのも無理はありませんな。ですがアレは」
「ロー爺よ。位置が悪すぎるのだろう?」
「若の申す通りです。海にも近く、ナバル領やタルカ領にも近い位置にあります。監視のためにあんな大型な天守こそ配置していますが」
「牽制のための城、居城には向かないと父は判断したのだな?」
「!?その通りです。それゆえ、より中頃にあるショバタキャッスルを居城とされました」
「ん?2人とも少し、席を外せ。どうやらワシに客人のようだ」
ササッと音がすると顔を布マスクと仮面で隠し、手に小刀を持ち忍び装束を着た何者かがサブロー・ハインリッヒに斬りかかった。
「少し前から感じていた視線は、うぬであったか」
「やはり、油断ならない男のようだな。サブロー・ハインリッヒよ。しかし、その命、トガクシのカシラであるこの俺が討ち取らせてもらう」
「若!」
「若様!」
「2人とも離れていろ。こういう手合いには慣れている。そもそもワシを直接暗殺しに来るなど愚の骨頂よ。てつはうでも用意するのだな」
ここで説明しよう。
サブローの言うてつはうとは、火縄銃のことであり、織田信長は、火縄銃による暗殺を受け、命の危機に瀕したことがある。
1度目は、六角義賢に雇われた杉谷善住坊と呼ばれていた甲賀忍者・僧兵・雑賀衆の3つの顔を持っていたとされる男で、帷子の袖を打ち抜きかすり傷を負わせたとされる。
2度目は、伊賀忍者の城戸弥左衛門と言う男で、熱烈な一向宗の信徒であり、弾圧する信長に激しい怒りを抱き、ことに及ぶも付き従う家臣のお陰で、かすり傷を負わせることはできなかったそうだ。
「てつはう?何の隠語か知らんがその首は必ず頂戴する」
「取れるものなら取ってみよ。気配の消し方の甘い暗殺者よ」
「言ってくれるものだ。貴殿の危機察知能力が優れているだけのこと。これでも暗殺に失敗したことなど一度もない」
「であるか。褒め言葉と受け取っておこう。2人とも手を出すなと言ったはずだ!」
「若、しかし」
「若様に何かあっては困ります」
「信じよ。それに此奴は面白い。是非、ワシの配下に欲しい」
「若、何を?」
「若様?」
「これは面白い。自らを暗殺にきた俺を勧誘とは」
「ワシは、例え敵であろうと一方的に滅ぼしたりなどせん。歩み寄る姿勢は見せる。それに応えないのならやむおえないがな」
「フッ。面白い。だが俺には金が必要だ。ゆえに雇い主のため、貴様を斬らせてもらうぞ」
こうして、暗殺者と戦いを始めるサブロー・ハインリッヒであった。
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