105話 スエモリの戦い(中編)
スエモリ城に無事に辿り着いたサブロー・ハインリッヒは、軍議に移った。
「皆を家族の無用な戦に巻き込んだこと心苦しく思う。ここスエモリ城を治めるのは我が祖父レーニン・ガロリングであり、反乱軍の副当主。いや、表に飾りの母上を立てた実質的な支配者である。そして、我らが倒さねばならぬ敵だ。ワシのことを気遣う必要などない。爺様を。いや、このような戦を仕掛けた木偶の棒であるレーニンを打ち取るのだ。良いな?では、軍議を始める。レイヴァンド卿よ。スエモリを攻めるには如何するべきと考える?」
「はっ。サブロー様が作ったこの破城槌なるものの有用性は、グロスター卿が証明してくださいました。これを用いて、城門を破壊。動揺する敵兵力を各個撃破するのが良いかと考えます」
「であるか。それも一つの手であろう。マリーは、どう考える?」
「若様。このスエモリキャッスルは見た限り、木造建築が多いように感じます。人への被害を考える必要がないのであれば、火を用いて、焼き尽くせば、こちらの被害を最小限に甚大な被害を出せるかと」
「マリーよ。良いところに目を付けたな。ワシも火を用いるのが1番良いと考えておる」
そこまで言うとセル・マーケットが口を挟む。
「恐れながらサブロー様に申し上げます。敵とはいえ、罪なき民まで焼くのは禍根を残すことになります。ここは一度、レイヴァンド卿の策で城門を破壊するのが良いのではないかと」
「ほぉ。セルよ。どうして、そう考える?」
「逃げ道ができれば、戦を心から望まない民は逃げ出します。残ったものは、ガロリング卿。いえレーニンと志を同じくするものか逃げられない事情のあるもの。それに火を用いれば復興に時間を要することになります。それは最悪の手段と心得ます。使わずに済むのならその方が良いでしょう」
「成程、良い。此度は、セルの意見を聞き入れよう。レイヴァンド卿よ。破城槌にて、城門を速やかに破壊。城壁を占拠せよ」
「はっ」
「破城槌の防衛の任務は横綱に任せる」
「おいどんでごわすか?」
「どうした不安か?」
「いや、ただの一兵卒に任せるには、大役すぎると思ったのでごわす」
「ハッハッハ。そうだな。確かに大役だ。だが安心せよ。スナイプ、高さがあるがどうだ?」
「まぁ、狙えなくは無い。要は、ポンチョ殿を援護せよと」
「流石、当主の御母堂は元気か?」
「ゴホッ。ゴホッ。何故、そこで母が。いえ、サブロー様のお陰で、動物の被害で死ぬものが減り、ようやく父の骸を弔ってやることができました」
「うむ。母子2人なのだ。無茶をするでないぞ」
「サブロー様。承知しました。お心遣い感謝致す」
「良い良い。まぁそういうことだ。横綱は上にだけ注意を向けて、時折来る矢の攻撃から破城槌を動かす者たちを守るのだ」
「まぁ、スナイプ殿の腕前なら安心でごわすな」
「まぁ、下から上に向かって矢を射ることは中々無い。山なりに落ちるからな。それを遥か上に構えて射るわけだ。撃ち漏らしが多くなる。しっかりと防衛は任せるぞ。ポンチョ殿」
「承知でごわす」
「ウマスキよ。出番が無いと思って安心していたのでは無かろうな?」
「そ、そ、そんなことはありませんよ。私達は、ショバタキャッスルで火付という仕事をしましたから今回はお留守番かなって。アハハ」
「今回は、軽装騎兵を活かした輸送任務を命じる。スナイプに届ける矢が尽きぬように管理せよ。戦うのはまだ怖かろう?」
「サブロー様のお心遣いに感謝します。確かに戦うのはまだ怖いです。剣を握ったこともありませんでしたし。でも、サブロー様の作った女性だけの軽装騎馬隊を任されているのです。これからは鍛錬します。此度の輸送任務、謹んでお受け致します」
「うむ。これで全体の動きの通達は済ませた。レイヴァンド卿は、破城槌で城門を壊した後、間伐入れずに精鋭騎兵で、城下は雪崩れ込み、抵抗せぬものに被害は加えないとだけ伝えよ」
「はっ」
城壁の上に上がったレーニン・ガロリングは、大声で威嚇する。
「クソガキが思い上がりおって。その程度の兵力で、我が居城を攻め滅ぼせると考えるたか。返り討ちにして、貴様の首を討ち取ってくれるわ!」
「爺様のことは、本当に気に入っていた。だからこそこの国の階級制度がいかに可笑しいか気付いて欲しかった。このようなことになり残念だ。だが、こうなっては是非もなし。この手でその首、取らせてもらうぞレーニン!全軍、攻撃を開始せよ」
「防衛陣形、城壁の上から弓を射るのだ。敵を近づけさせるでないぞ」
「負けたらサブローは、貴族を容赦なく殺すぞ。お前たち、一歩も引くんじゃねぇぞ。城門を破らせるな。弓隊、構え。はな。グフッ」
「た、隊長の図上に矢が。一体どこから」
「下から弓が飛んできてるぞ」
「馬鹿な。下から弓を上に飛ばせるわけがねぇ。しかもあの距離から?」
サブロー・ハインリッヒの後方で城壁の上を狙うように一列に並んだスナイプ・ハンター率いる弓隊が試行錯誤しながら弓を射っていた。
「スナイプ様は流石だ。1発目で敵の隊長を討ち取られた」
「ダニエル、無駄口を叩いている暇があるのか?また外れてるぞ」
「す、すみません。すぐに修正を」
このような感じで風の流れを利用して重力を用いて、上に射った弓が重力を利用して落下してくる矢が突き刺さるように調整したのである。
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