102話 見猿聞か猿言わ猿で切り抜けろ
レーニン・ガロリングの使者が再び、ゼンショウジ砦へとやってきていた。
「マーガレット様は、いらっしゃるか?ガロリング卿の勅使である」
「これは、これは、よくお越しくださいました。こちらへどうぞ」
「うむ。失礼する」
通された場所で使者は早速、マーガレット・ハインリッヒを呼ぶように横柄な態度で接する。
「して、マーガレット殿を早く呼んでくれんか。こちらも暇ではないのだ」
「それが。いやこれは言えないのでした。言ってしまえば、こちらの士気に関わりますから」
「突然、口を隠してどうしたのだ。待て、士気に関わるだと?何!?それはどういうことだ!まさかマーガレット殿の身に何か。いつまで口を隠しているのだ。話せ話すのだ」
そうレーニン・ガロリングの使者に言われたルルーニ・カイロは、今度は耳を隠して、言う。
「あの、何も聞こえないのですが。何か言いましたか?」
「貴様、さっきから舐めているのか!耳を隠しているから聞こえんのだ!さっさと、話せ!」
するとルルーニ・カイロは、再び口を隠して、モゴモゴと言う。
「こへは、ぜっはいに、いへにゃいのでふ(これは、絶対に言えないのです)」
「貴様、また口を隠して。俺が位の低い貴族だからと舐めているのでは、無いだろうな」
また耳を隠すルルーニ・カイロ。
「何言ってるかわかりませーん」
「ふざけるのも大概にしろ!さっさとマーガレットをここに連れてこい!」
再び口を隠してルルーニ・カイロはモゴモゴ言う。
「まーはれいとしゃまににゃにがあっはのかは、くひがしゃけへもいえましぇん(マーガレット様に何があったのかは、口が裂けても言えません)」
「この、マーガレット殿のお気に入りだからと舐めた真似をしおって、叩き斬ってくれる。おい、こっちを見ろ!貴様ーーーーー!」
ルルーニ・カイロは、目を隠して、何もみてませんというアピールをする。
まぁ、今帰るなら許してあげるよみたいな感じだ。
しかし、馬鹿にされたことで怒りが沸点に達したこの使者はあろうことか剣を抜いたのである。
「はぁ。ずっと忠告はしましたよ。言えない。聞けない。見てないことにすると。しかし、貴方は剣を抜いてしまった。その意味はわかりますよね?」
「先ほどと違い偉く饒舌に話すではないか。何が言いたい?」
「剣を抜いたからには、殺されても文句が言えないということですよ」
「ヒィッ!?」
「どうしたんです。突然、腰を落として、そんなへっぴり腰で、殺せると思われるとは、これこそ舐められたというものでは?」
「す、すまなかった。貴殿がマーガレット殿のことを何も話してくれないから。ついカッとなって」
「だから話せないから聞くなとアピールしたでしょう?」
「そのようなこと理解できるわけがないだろう!」
「はぁ。こんなのを使者に立てるからガロリング卿よりもマーガレット様の方が良いと言われるのですよ。全く、この事は、ガロリング卿に抗議しておきますので」
「待ってくれ。そんなことをされれば、俺にはもう後がないのだ。どんなことをしてでもマーガレット殿をレーニン様の元に連れて行かねば」
「へぇ。それは興味深い。一体、どうしてマーガレット様をガロリング卿の元に連れて行く必要が?」
「そ、それは」
「成程、そちらも言えない事があるのに、こちらのことは知りたかったと。全く、馬鹿にされたものだ」
「言う。言うから。マーガレット殿に何があったのか教えてくれ」
「それは言えませんから話さなくて結構ですよ」
「何故、言えないのだ?」
「察すれば、良いでしょう」
「まさか、既にタルカが」
「どうして、そこでタルカの話が出てくるのです?怪しいですねぇ。よもや、ガロリング卿は、オダを守るための戦いだと言っておきながら他所に売り渡すつもりではありませんよね?」
「我が主にかかって。そ、そ、そ、そんなことあるわけないだろう。馬鹿馬鹿しい」
「そうですよねぇ。でもだとするとますますおかしいですね。タルカだけでなくナバルやチャルチにマリーカまで動くなんて、よほどガロリング卿は人望があるのですね?」
「と、と、当然だろう。我が主人は、サブローから攻められる事がないようにしようとしているのだ。タルカもナバルも支援するのは当然であろう」
「支援ときましたか?物は言いようですね。マーガレット様を戦略の道具に使おうとしているの間違いでは?」
「貴様、一体どこまで?いや、そんなことしては、オダが滅びるではないか。ハッハッハ。そのようなこと我が主人がするわけなかろう」
「そうですか。ではもう良いでしょう」
血のついた短剣を出し、話を続けるルルーニ・カイロ。
「マーガレット様は、昨日自室にて自害なされました。疑うのならこの血を調べると良い。それに遺書もありました。お父様のことを信じていたのに裏切られたと。この大馬鹿者どもが!貴様らのせいで、マーガレット様は死んだのだ!」
「そんな馬鹿な!?ガハッ。一体何を?」
「秘密を知った人間を生かしておくとでも?だから言えないとアピールしたところで帰るべきだったんだよ君は」
使者を殺した後、ルルーニ・カイロは、ため息を吐く。
「はぁ。これで3日は時間稼げるよな。全く、嫌な役回りだよ。これも惚れた弱味かな」
勿論、マーガレット・ハインリッヒは死んでなど居ない。
自室に篭って、ここ数日の疲れが出たのか大事を取って、スヤスヤと眠っていただけである。
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