底辺を這いずる片足の少年と不思議な裂け目
人はどこでだって生きていけるようです。しぶとく、したたかに。
俺には名前がない。
捨て子だったからな。
汚い布切れにくるまれて貧民街の隅に捨てられていた俺を何の気まぐれか拾ったのが、元占い師の婆さんだった。
ヘソの緒もそのままだったというから、適当に産んで適当に捨てたんだろう。まさしくクソのような扱いだ。
誰にも望まれずこの世に生まれ『落ちた』存在。
それが俺だった。
で、俺を救ったこの婆さんだが。
なんでも昔は行列が絶えない人気の占い師だったらしいが、ある日、とある貴族に呼び出されて占ったところ、かなりの怒りを買ったのだとか。
占いの代金こそ払って貰えたが、追い払うように屋敷から出されたそうだ。
「理由? あたしが聞きたいね。まったく」
婆さんはしかめっ面で俺にそう言ったが、それは本当だろうかと俺は思う。
何かこう、占いの結果がその貴族の痛いところを突いてしまい、その反応を見て、不都合な真実を察したんじゃないのか。
でなきゃ、繁盛していた占い師の仕事をやめて、逃げるようにこんなゴミ溜めみたいな地域に移り住むわけがない。
婆さんはきっと貴族から口封じされるのを恐れたんだろう。
俺を拾ったのは、その一年後らしい。
そうそう。忘れてた。
さっき、俺には名前がないと言ったが、それは親から付けられるはずだったもののことだ。
婆さんが付けてくれた名前ならある。呼び名がないってのは何かと不便だからな。
ガル。
それが俺にとりあえず付けられた名だ。まあ悪くない名だと思う。ありきたりだがな。
ちなみに婆さんの名はセゲッドという。
そんなこんなで俺が運良く拾われ、このゴミ溜めで暮らすこと、十五年。
物心ついた時からやってる仕事はゴミの中から使えるものや売れるものを拾い集めることだ。捨てられていた俺にふさわしいといえばふさわしい仕事である。
だが、ほとんど金にはならない。
当然だ。
だからこんな地域に捨てられてるんだからな。
年上の奴らや裏社会のおっさん達はお目こぼししてくれてる。端金以下の稼ぎの上前を跳ねるのはみっともないにも程があるからだろう。
ゴミ漁りの拾い屋になんぞ関わりたくないと嫌がられてるだけの気もするが。
……しかし、時には掘り出し物が見つかったりもする。
高そうな花瓶とか、柄に模様が彫られた剣とか、金貨や銀貨の詰まった袋とかだ。
何かの手違いかそれとも手離さないとヤバい代物か。どっちにしてもここに捨てられればただのゴミだ。
いつものようにろくなものが見つからなかったふりをして、そそくさと家に帰って婆さんに渡す。
どんなツテがあるのか知らないが、婆さんはそれを売り払いにどこかに行く。
戻ってくると、俺の両手に乗るだけの金貨をくれる。ガキの俺でもわかるくらいのとんでもない大盤振る舞いだ。
なので、婆さんは言うまでもなく、俺もこの貧民街においてはかなり金持ちの部類だった。婆さんに至っては普段から薬草や薬の売り買いもしてるしな。
それを周りに悟られるとたちまちろくでもない輩に群がられるので、俺は毎日ゴミ拾いを無気力そうにやり続ける。小銭稼ぎしか道がないように見せかけ続け、つまらなそうにゴミを漁るのだ。
そうしていると、いつしか、ご近所や知り合いからは、片足のガルと呼ばれるようになっていた。
断っておくが、一応足は二本ある。
ではなぜそう呼ばれてるかというと、これは単純な話で、左のほうがろくに動かないからだ。
生まれつき左の足首から下がおかしいみたいで、どうにもこうにも感覚がない。針で刺しても痛くも痒くもない。なんで婆さんが作ってくれた杖を使っている。
それを知ると、呪われてるんじゃないのかとあざ笑う奴も一人や二人じゃなかった。
そういう連中は取っ組み合ってボコボコにしてやった。左足こそろくに動かないが、その分──というのも変な話だが──俺には生まれつきかなりの馬鹿力が備わっていたのだ。
中には距離を取って石だの空き瓶だの投げてくるズル賢い奴もいたが、そんな奴には逆にこちらも石などを投げ返してやった。
ただ、本気は一度も出したことはない。本気を出したら喧嘩相手を腕力だけで八つ裂きにするくらいは簡単にこなせる。
別に自慢してるんじゃない。
同年代の中ではまあまあ力のある方くらいに思われていたほうが、何かヤバいことになったときの隠し武器になるからだ。
十五歳になった今では、大の大人をそれぞれの手で一人ずつ掴んで軽々と振り回すくらいは余裕でできるようになっていた。
このことは婆さんにも言っていない。
「いいかい、ガル。いざという時の切り札ってのをね、一つは懐に隠しときな。絶対に誰にも知られないようにね。例え親兄弟にもだよ。ま、お前にゃ縁のない話か。ひひひっ」
婆さんが笑ってそう話していたのを覚えている。俺はその教えに従うことにした。今までもこれからもだ。
──そんな切り札をとうとう使う羽目になったのは、あの不思議な、異常な裂け目と出会った日であった。
「おい、片足の。そこで何やってやがるんだ?」
酒臭い息を吐きながら、髭面の中年がこっちに足を進めながら、喧嘩腰の一歩二歩手前くらいの口調で話しかけてきた。
ボーグンという名の男だ。それなりにこのゴミ溜めでも知られている男で、裏の世界にも通じている。
酒癖の悪さからあまり信用も重用もされず、次第につまらない汚れ仕事しか回ってこなくなったので、いつもふて腐れてはまた酒に逃げる。その繰り返しだ。
今では弟分も一人だけになり、金目当ての女も離れ、年をとって落ち目の商売女となかば夫婦のような関係になってるらしい。詳しく知りたくもない話だ。
「いや、地面に裂け目ができててさ。危ないなと」
「裂け目? どこにそんなもんあるってんだ? あぁ?」
「えっ?」
振り替えると、そこに──ゴミがそこら狭しとぶちまけられてる路地裏(貧民街ではどこにでもある光景)にあったはずの、不似合いな静けさと小綺麗さを漂わせていた地面の裂け目が消えていた。
「そんな馬鹿な」
見間違い?
いやそんな筈はない。あの大きさは人を余裕で呑み込めるサイズだった。
深さもかなりありそうだったし、さっさと埋めないといつ人死にが出てもおかしくない。出たとしてもどうでもいいけどな。
「確かにそこに……」
「やかましい!」
ガツンという衝撃。少しは固いが、さして分厚くはないものが割れる音。
俺の後ろまで寄ってきていたボーグンに、酒瓶で思いっきり殴られたのだ。
……後から知ったが、この時のボーグンは大きなしくじりをやらかして、裏社会での上司に当たる人物から随分と罵られた後だったらしい。
『お前みたいな能無しの酒樽をお情けで使い続けていた私が馬鹿だったよ』
年下の女上司にそんな事をネチネチ言われながら、周りに人がいる中で頭をしつこく小突かれたんだとか。つまり俺はその憂さ晴らしに選ばれたわけだ。
ポタポタと血が頭から垂れる。
こんな程度じゃ蚊に刺されたようなものだが、それでも腹は立つ。
「なんだぁ、その目は……! 誰に向かってガンつけてやがる!」
割れた酒瓶の尖った部分を突きだし、俺の顔面を刺そうとしてきたボーグンに先んじて、杖を離すと脂ぎった顔を掴む。
カラン、カラカラ……と、杖が倒れて転がる音が鳴る。
「な、何しやがる!」
周りに人の気配はない。誰も見ていない。
これまでも理不尽な暴力にさらされたことは何度もあったが、ここまでやられそうになれば俺ももう限界だ。
「は、離せっ、こら」
もう一方の手で、凶器を振り回す腕を掴み、力を込める。
めきゃり
「ぎぁああっ!」
小気味いい音を立てて、呆気なくボーグンの右手首を握り潰した。
そのまま、容赦なく頭をぎゅうっと握っていく。千切れそうな手首を離して暇になった手も動員して、左右から押すように。
「ぎ、ぎげ、いがががっ! ひぎぇえっ!」
おかしな呻きをあげてもがき苦しむボーグンの姿につい笑ってしまい、力が抜けそうになったので気を引き締める。
「ゅべっ」
次の瞬間、蛙が踏み潰されたような声というか音を出して、ボーグンの頭が真っ赤に弾けた。
まだ本気には程遠い力しか出してなかったのだが。
もろいな、人体ってやつは。
それはそうと、初めての人殺しだ。晴れて俺も殺人者の仲間入りとなった。
「……やっちまったな、とうとう。こんなところで生きてりゃ、いつかはやると思ってたけどよ」
人の命を奪ったという衝撃は、そこまでなかった。酒瓶で殴られた時のほうが上かな。いやどっこいどっこいか?
「……もっとこう、ガタガタ震えたりゲロ履いたりビビり散らかしたりするもんかと思ったが、どうってことないな」
なんて強がってはいたが、その時の自分の声はかすかに震えていた。裏を返せば、つまりその程度しか動じなかったって事だが。
「こっからどうしたらいいかな……」
やったものは仕方ない。後始末をどうするか考えよう。
いくら貧民街とはいえ流石に人を殺めればただじゃすまない。
ましてやボーグンは無能とはいえ裏社会に通じていた人間だ。こいつの上司は、手下を殺されたことで自分の顔と組織に泥を塗られたと思うだろう。何としても隠さなければ。
「あれ?」
周りをキョロキョロ見て警戒していると、あり得ない事が起きていた。
さっき消えた裂け目が、今度は俺のそばの足元に現れたのだ。年代物の汚れた石畳がざっくり砕けて、真っ暗な穴を覗かせている。
「そんな馬鹿な」
さっきと同じ言葉が口から出た。
これは見間違いとかそんな生易しいものじゃない。洒落にならない何かだ。今すぐここを離れるべきだ。でも死体はどうするか。ああ考えがまとまらない。
頭が潰れたトマトになっているボーグンを見下ろす。こいつのせいで俺は土壇場だ。クソが。
ダラダラと流れる血が、赤い小川となって裂け目へとこぼれていく。
それを眺めながら、俺はある案を閃いた。
「一か八か、か」
どうせ他に打つ手もなさそうだし、いつ誰が来るかもわからない。時間もない。
俺はボーグンの屍を裂け目に投げ込んだ。
「……後はここから離れて……それとこの手をどうするか……っ!?」
俺は自分の手を見て軽くのけ反った。ボーグンの汚ならしい血で塗れていたはずの両手は、何もなかったように綺麗なままだった。
「そうなると……」
下に目をやる。
「やっぱりか」
石畳は元のままだった。あの得体の知れない裂け目は腹ごなしにどこかへ行ったらしい。
全て悪い夢だと思って忘れる……のは無理だろうなと諦め、俺はこの場を離れた。
その数日後。
今度はボーグンといい仲だったという、例の年増の商売女に絡まれた。
あの人はあんたに八つ当たりしてやるとボヤいて家を出てった。それから帰ってこない。あんた、何かやったんだろ。うちの人をどうしたんだい。あたしはね、あんたがあの人にぶたれてるのを見たことあるんだよ。とうとうやり返したんだろ。ええ、何とか言ってみなよ。
こちらが答える間もないくらい勢い良くまくし立ててきた。
「知らないよ」
誰が素直に言うか。
「しらばっくれてんじゃないよ。なんなら、あの人の親方さんにでもこの事を洗いざらい言ってやろうかい?」
「………………」
また厄介なことを言うもんだぜ。
裏社会の住人は面子を異様に気にする。舐められたら落ち目になる世界だからな。
ボーグンは姿を見せなくなってまだ数日しか経っていない。だから今はまだ気にも止められていない。
だが、いつまで経っても消えたままとなれば、殺されて埋められでもしたと判断してもおかしくないはずだ。
俺みたいに疑わしい点がある者を適当に犯人に仕立て上げ、見せしめに酷い殺し方をするくらいは平気でやるだろう。実際犯人なんで正解だが。
……こいつも消すか……?
でもそれやると、さらに疑われそうで困るな。けどこの調子で動かれたらそれはそれで困る。
脅しも交えてしつこく食い下がるケバい年増を始末しようかしないか悩んでいると、年増の背後の地面に、何か見えた。
あの裂け目だった。おかえり。
タイミングを見計らったかのように戻ってきた裂け目を見て、俺も踏ん切りがついた。
一人殺すも二人殺すも同じようなものだ。
俺は旬を過ぎた商売女が油断したところを見逃さず、杖を足めがけて投げつけた。
バキッという音がして商売女の片足が折れ、たまらず倒れる。
俺は左足を引きずりながら距離を詰め、そのまま首根っこを掴んで生きたまま裂け目へ捨てた。
とんでもない深さなのか、 どんどん悲鳴が聞こえなくなる。
結局、重いものが叩きつけられる落下音はしなかった。底無しか。けど、なんにしてもあれだけ長く落ちたら助かるまい。
裂け目はその後、杖を拾おうとして目を離したら、もう消えていた。せわしない穴だ。
さらに一週間後。
今度は兄貴分に続いて姉御が行方不明となったと唾を飛ばしてわめく弟分が、投げナイフをちらつかせながら、俺と距離を取りつつ脅しをかけてきた。
ところが、だ。
「ぐげっ、な、なんだテメェ、どうして……!」
杖から手を離し、軽いステップであっという間に駆け寄り、喉をがしりと掴む。
窒息するよりはるかに早く首が折れた。血泡をぶくぶくと口からこぼす弟分。俺を的にしながら脅す予定だったんだろうが生憎だったな。
びくんびくんと身体が痙攣し、投げナイフが手から滑り落ちた。
こいつが驚いたのも無理はない。
なぜかはわからないが、俺の左足首から下は感覚が芽生えた。つまり歩いたり走ったり跳び跳ねたりできるようになったのだ。
「これはいい切り札が増えたぜ」
俺はこれまで同様、そばに来ていた裂け目に弟分の死体を落とす。杖を拾うと、いつものように裂け目は消えていた。
そして、何事もなかったように、必要のなくなった杖をつきながら、その場を後にした。
杖も使わずまともに歩けるようになった原因だか、やはり思いつくのは一つしかない。
「裂け目のご加護かもな」
ある意味、俺のやっていた事は生贄を捧げているに等しかったのではないか。そんな気がしてならない。
なら、もしかして俺はあの不思議な裂け目に選ばれた人間なのかもな。でなきゃ俺の都合にあわせて現れたり消えたりしないはずだ。
そんな風に考えていた頃、婆さんが血を吐いて死んだ。
「これもまた寿命さ」
婆さんは何故か笑っていた。悔いはないってことなのか。
「…………どうしようかと思ったが、やはり、教えておこうかね。あの世まで持っていくにはちと重すぎるからねぇ」
婆さんは、死の間際、ぽつりぽつりと語った。最期の力を振り絞って。
「あたしが貴族の怒りを買ったってのはね、嘘も嘘、大嘘さ。さらに言うなら……ゴホッ、その貴族が、お前の実の親なんだよ」
婆さんが言うには、自分の評判を聞きつけたその貴族──ゲルマルド侯爵家の当主は、 間もなく生まれる我が子の未来について婆さんに占わせたのだという。
そうして占った結果出たのが、
『その子は、恐るべき奈落の神に選ばれた男子である。神に選ばれた故に祝福と不具を持ち、人並み外れた力があるが、左足が死んでいる』
こんなとんでもない内容だった。
侯爵も半信半疑だったが、生まれた子が男子だと知り動揺した。それでもまだ信じられぬと……息子の左足の甲を、針で数度刺した。
その息子──つまり俺は、これっぽっちも痛がらず、念を入れて足裏を火で焙っても無反応なままであり、ついに侯爵も納得したらしい。
『毒を飲ませよ。息子は流行り病で亡くなったものとする』
で、それを仰せつかったのもまた婆さんだということなのだが。
「あたしが馬鹿正直に占ったせいで、お前が死ぬのは、不憫すぎる気がしてねえ……ゴホゴホッ。だから、仮死の薬を飲ませて、死んだように見せかけたのさ……」
しかし俺の親も酷いな。
まともな子に育つように教育したらよかっただろうにヤバいから殺すって冷酷すぎるだろ。
「本妻ではなく、妾の子だというのも……あったんじゃろうねえ。しかも……ゴフッ、本妻との間には、既に……二人も子がおったからのう……」
「あー……」
それでこれなら殺されるわ。むしろ正当な理由ついて気が楽になるまであるわ。
「あたしはここまでさ。後は……お前の、好きに…………」
「ああ、そうするよ。今までありがとな」
婆さんは満足したように笑うと、息が細くなり、やがて、静かになった。
これで天涯孤独の身か。
……おかしな話だな。本当の親は生きてピンピンしてるのに天涯孤独とは。
「お別れは済んだ?」
いきなり背後から声をかけられた。
振り向くと、寝室の扉が開いていて、そこに立っていたのは……清楚な衣装に身を包んだ、飛びきりの美少女だった。
聖女、という言葉が頭をよぎった。
「泥棒にしちゃ整いすぎてるな。いったいどこの誰だい?」
なんて言ってはみたが、泥棒なんて穏やかな者じゃないのは明らかだった。
いったいどこからどうやって家に忍び込んだのか。建て付けの悪くなった扉をどうやって音もなく開けて婆さんの寝室に入れたのか。
「私はリリス。奈落の神に仕えし闇の聖女。我が同胞たるあなたを誘いに来たの。いえ、こちら側に連れ戻しに来たというべきかしら」
「ふーん」
特に驚きはなかった。神がいるなら巫女や聖女がいても当たり前だろうからな。
「あら、動じないのね。何を血迷っているんだとか、矯正院から抜け出てきたのかとか言われるものかと思ってたけど、拍子抜けね」
「いや、本当なんだろうなと思ってな」
俺はリリスと名乗る美少女の後ろを指差す。
今の今まで、ちょっと板が剥がれかけた部分があるくらいの破損しかなかった廊下に、裂け目どころじゃない大穴がばっくり空いていた。
こんな破壊を一切の音も揺れもなくやれるはずがない。絶対に人間業じゃない。
「まだ名残惜しい? 心の整理がつくまで何日か待ってあげてもいいけど?」
からかうようにリリスが言う。
もしかしたら本当に同情してるのかもしれないが、本音は読み取れない。若い女と話したことなんてほとんどないしな。
「いや、行こう。まごまごしてるとかえって踏ん切りがつかなくなる」
俺は婆さんの手を胸の辺りで組ませると、一分くらい、これまでの暮らしを思い返しながら、床に跪いて祈りを捧げた。
おもむろに立ち上がり、リリスを見る。
リリスが差し伸べてきた白く細い手を取り、俺は奈落の神が造り出した暗黒の門へと身を躍らせたのだった──
この一週間後、侯爵家の屋敷が凄まじい轟音と共に丸ごと地割れに飲まれ、侯爵一族はおろか使用人に至るまで、地の底に消えたそうです。
不思議なことに、侯爵家の敷地のみが激しく揺れ動き、それ以外の場所はかすかな震動すら起きなかったとか。