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君ではないキミ–2–

第二話です。

 姿を現した西澤 芽衣……と思われる人物に対し、疑惑の眼差しと恐怖心を向ける。


視覚が、嗅覚が、西澤 芽衣本人であると脳に伝達する。しかしどうしても、あの夏に消えた人物が突然現れたことに困惑していた。




「やっぱりお前……芽衣じゃないだろ」




 声が震える。何故だろうか、嫌な汗が首筋を伝う感覚で再び思考を巡らす。


あまりにも無意識に出た言葉はやはり否定で、とにかく本人ではないとそう思ったのだ。


 再度否定で返された西()() ()()は、本人を思わせるように、少し長く茶色に近いボブヘアーから覗く茶色の瞳を、不気味に光らせる。


そしてあざとく首を傾げながら、先程僕の名前を呼んだ時と同じように話し出す。




「……ちゃんと芽衣(・・)、だよ?まあ、ずーっと居なかったから篤人が覚えてないだけかも知れないけど……なんか、それは悲しいなぁ……」




 そう言う彼女は不気味そうに光らせていた瞳を伏せ、まるでショックを受けたかのようなリアクションをとる。


そんな彼女を再度見て、自分が何故咄嗟に彼女の存在を否定したのか、その理由が分かった。




「いや……もし西澤 芽衣だったら、少しは容姿や服装が変わっているはずだ。でもお前は夢で何度も見た、あの夏の日のお前と少しも変わっていない。少しもだ。まるで制服だって変わっちゃいない」


「……篤人に久しぶりに会うから、当時に寄せたんだよ。それなら——」


「そう。その可能性もある。でもお前は違う……その確固たる証拠として、西澤 芽衣は僕のことを篤人(・・)とは呼ばない」


「……へぇ?」


「その上でもう一回聞く。お前は一体誰なんだ」




 多分、こんな揺さぶり。きっと本人ならすぐに気がつくだろう。むしろ彼女は、僕のことを篤人としか呼んだことがない。


 建物の影が地面や空気を支配し、刻々と夜へと近づく。その自然なまでの不気味さを纏う彼女にはピッタリの情景であった。


汗ばむ僕の右拳とは裏腹に、彼女は不自然に涼しい顔をしながら、やがてゆっくりと口を開き、声を発する。




「……ごめんなさい」




 彼女が小さく謝る。やはり他人であったのだ。そう、やはり彼女は、僕が望んだ夢は、夏の儚い夢であったのだ。


そのことに落胆しつつも、何故こんな真似をしたのか。そして何故彼女が西澤 芽衣と僕のことを知っているのか。そのことに興味があった。




「なんで君は、こんな真似を……」




 聞きながら少し、怒りを覚える。そのせいか声が震え、握っていた手も震えている。


それを察したのか、目の前にいる彼女が少し慌てた様子で弁明を始めた。




「あ、あのですねっ!ホントは、こんな感じにするつもりは、無くて……素直に、謝りたかったんです……」


「?どういうこと……?」




 一変して、今までとは別人のようにたどたどしく話す彼女に驚いた。声こそ、本当に西澤 芽衣であるが。




本当の彼女(西澤 芽衣)なら、こうすると思って、それで、その……」




 そう言う彼女ではないカノジョが、最後は消えいる声でそう言った。


 彼女のことをよく知っている。それがまず感じたことだ。でも何故、彼女のことを……?




「君は西澤 芽衣ではない。それは事実で合ってる?」


「いえ、その……なんと言えばいいか……」




 彼女の歯切れの悪さに、何かふわっとした疑問があったが、それよりも。


彼女になりすまし、あまつさえそのことに傷心している僕にこのような真似をしていることに、無性に腹が立った。




「彼女のこと、知ってるんだよね?それに僕と彼女の関係も。なんで、こんなことをっ……」


「い、いえその!別に傷つけるつもりは——」




 一陣の風が吹く。その勢いに乗せられてか、今までに出したことのない、声帯が悲鳴を上げるような声で、風に掻き消されないように、叫んだ。




「いったい僕がどんな気持ちでっ!彼女の再会を望んでいたかっ!!……やめてくれよ、こんなのって……」




 身体の震えを抑えるように右手で肩を抱きしめ、伸び続ける影を見ながらうずくまった。


常に視線は地面だ。そうしてうずくまっていると、彼女ではない存在が、まるで彼女のような声音で、仕草で。近寄り僕を慰める。




「……大丈夫です。何もかも話すから。だから——」


「それ以上芽衣みたいに喋るなぁ!!!」


「ひっ!?」


「……頼むから、もう……一人にしてくれ……」




 限界だった。自分でも気づかないうちに、まさか彼女への気持ちがこんなにも、溢れていたのだ。


この女が現れてから、それをよく思い知った。いや、知らされた。


 遂に陽が落ち、夜の気配がより一層強くなる。既に黄昏時が終わろうとしていた。


しかし彼女は消えない。幻やまやかしの類ではないことに少し安堵し、叫んだことで心へと安寧が降ってくる。


 気づけば彼女は自分から少し距離を取りつつも、それでも目の前から消えまいと、身体を若干震えさせながら立っていた。




「お話、させてくれませんか」


「……もう話すことなんでないだろ。君は彼女じゃない。それだけのことだろ」


「……違うんです」


「違うもなにも、ないじゃないか。声や仕草、姿かたちは彼女同然だよ。それは間違いない。でも君は——」


「違うんですっ!!」




 何が違うと言うのだ。中身はまるで別人だと言うのに。


相手の往生際の悪さにまた腹を立て始めていたが、先程強く言いすぎた自分を戒めつつ、冷静さを保って、耳を傾ける。




「……が、……したんです」


「……え?」


「私がっ、殺しちゃったんですっ!!」


「は?」






 そう彼女が叫ぶと同時に、彼女の背中や腹部から赤黒い、触手と呼ぶに相応しい、得体の知れないモノが飛び出た。






「……はっ!こ、これは……その……」


「どういう、こと……?」




 ソレを見た瞬間、今まであった怒りや悲しみが風と共に流された。


……え?なに、これ……?


 彼女はすぐさまその触手のようなものを体内にしまい、何事もなかったかのように、こちらに近づく。




「こ、これには事情があって——」


「っ!?く、来るなぁ!?化け物!!」




 そう叫び、背後走りで距離を取る。すると彼女は、座り込んで丸くなりながら泣き出してしまった。




「うぅっ……うわあぁぁん!!!はなしっ!ぎいてもらいだいだげなのにぃ!!!」


「ええっ!?と、とりあえず……悪かった!いきなり叫んだりして!!話聞くから!ね!?」




 訳がわからない……先程の彼女を殺した(・・・・・・)、という言葉の真相や彼女の触手のようなナニカが何であるかを聞くために、場所を移して話を聞くことにした。

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