表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

1,運命の結婚式前夜

 のどかな5月1日。私は今日で29歳になった。私の隣にいる彼、海音(かいと)くん。今日は私が病み上がりだったため、家でお祝いすることにしたのだった。海音くんは、「すず、お誕生日おめでとう。」と言って、2人には大きすぎるケーキとオシャレで小さな箱を渡した。


  

 「プレゼントの中、見てみて。」

 彼は瞳を輝かせながら言った。


 

 私の前では飼い主をずっと待っていた子犬のようになるのだ。そんな彼も職場では、クールで有名らしい。海音くんは、潤んだ茶色く青みがかった瞳で私を見つめる。


 本当にまつ毛が長いなぁ。私は子犬のような笑顔も、見つめてくる真剣な瞳も大好きだ。


 彼がくれたプレゼントをそっと開ける。中にはブレスレットが入っていた。本当に綺麗でこんなにも美しいものは初めてだった。



 「今年はブレスレットだけど…、その来年は…。」

そう言って、海音くんは顔を赤くした。


 「来年は、…指輪にしたいんだ。」



 彼が真っ直ぐに見つめてくる。瞳に吸い込まれてしまいそう。私も今年で29歳だ、いつ結婚してもおかしくはない。以前、私は彼にそれとなく結婚の話をしたことがある。すると彼は、「すずが30歳になったら必ずしよう。」と言って、なぜか私の”30歳”に拘るのだった。

  

 さほど、気にしてはなかったが。

 

 私が次の言葉に迷っていると、彼はそっと私の口にキスをした。



 しっとりと優しいキス。

 彼は泣いてしまった。


 

 その茶色く青い瞳は今にも零れてしまいそうだ。そんなに緊張していたのだろうか。キスは初めてじゃないのに。



 「ありがとう、嬉しい。でも、緊張しているの?泣かなくても…。」 

 彼が泣くなんて珍しい。



 「絶対に幸せにするから、後1年、後1年…、楽しもう。」

彼は涙を浮かばせながら、震えた瞳を私に向けた。



 「うん!楽しもうね。」



 と、私は一言伝えたのだが…。なんだか、最後の別れのようだ。




 


  ー1年後ー


 4月30日。明日は私の誕生日だ。今、2人で有名な和食屋さんに来ている。向かい合って夕食を食べている海音くんと私は明日、結婚式をあげる。私は緊張と楽しみで胸がいっぱいだった。



 「明日で家族になるね。僕と一緒になることを選んでくれて本当にありがとう。大好きだよ、これからもずっと…。」

 

 

 海音くんは、じっと私を見つめる。



 「海音くん、ありがとう。嬉しいけど、そういうのは明日言うんだよ。」



 私は、海音くんのストレートな甘い言葉になんだか恥ずかしくなって、「私も大好きだよ!」なんて、言えなかった。ほんの一瞬、海音くんの目が微かに潤んで悲しい目をした。海音くんはいつだって私を気遣ってくれたし、今みたいに、甘くて温かい言葉をくれた。



 3歳年下の彼だけど、私の方が素直になれなくて。それでも、彼は真っ直ぐに私を見てくれた。

 やっぱり、大好きって伝えなきゃ。





 「じゃあ、帰ろうか。」



 海音くんは冷え性の私の手を握り、お店を出た。私と海音くんの家は反対方向だったけれど、彼は何も言わず、2人で私の家の方へ向かった。



 「ありがとう。」と言うと、「暗いからね。」と言う。



 結婚前最後の2人の時間を過ごすつもりだった。このお店から私の家までの距離は、歩いて15分くらい。 

 


 本来ならば、何事もなく家に着くはずだった。

 それなのに…。

 



 急に私は激しい目眩を起こした。

 身体が勝手に動く…、意識が遠のく…。


 握っていた彼の手を思いっきり振り払った。私の身体は操り人形のように、暗い道路へと飛び出した。



 「すず!!!」



 …と…いと…、海音…、海音くん!…ねぇ…、やだよ、海音…。




 道路へ飛び出した私をとっさにかばい、海音くんはトラックにぶつかった。



 

 海音くんは,一瞬でこの世を去った。



 海音…、海音くん!海音くん!…お願い、海音くん…。




 私を掴んでいた海音くんの腕が、ゆっくりと冷たくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ