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はじまりー彼の約束ー

「んん…。」

「ん、ん…、ここは、どこ?」




 カイの歌声で眠っていた私が目を覚ますと、どこかのお家にいるようだった。隣には、カイが寝ている。ということは、ここはカイのお家?



「ん、ん、おはよ。スズ、よく寝ていたね。」


「カイのお家に連れてきてくれたの?」


「うん、スズの家の中、小人たちが騒がしくて…。」



 確かに、小人たちと暮らすのは楽しいけれど、熟睡が難しい。



「スズ、しばらくはここに居るといいよ。好きに休んで。…寧ろ、俺は居てくれると嬉しいから。」



 顔を背けたカイの頬はほんのりと赤くなっていた。



「小人たちが心配するかもしれない…。でも、もう少しここに居るね。」


「うん、ありがとう。」



 カイは、安心したように笑った。



「なんだか、まだ眠たい…。」


「いっぱい寝たらいいよ。」



 そう言ってカイは、私の頭をそっと撫でた。



「ありがとう。」



 私は、さっきより深い眠りについた。





 どのくらい寝ていただろう。ずっと長い間、寝ていた気がする。とても不思議で、少しだけ怖い夢を見た。小人たちが泣いていて、真っ暗の大きな何かが、この世界に迫ってきていた。メイドたちは絶望した顔で、他の皆んなも俯き、キャノル様も冷たい瞳で泣いていた。

 カイも泣きながら、私に何かを言っている。キャノル様が最期に、何か光を放って…。


 最期…?そんな言葉、聞いたことがないのに。



 ゆっくり目を覚ました。重い瞼を擦る。



「カイ…?」



 隣で寝ていたはずのカイがいない。私が寝てばっかりで、どこかに行っちゃったのかな。



「カイ!いないの?」



 カイは、どこかに出掛けたみたいだった。ずっと寝ていたせいか、体が痛い。なんとなく外の良い空気を吸いたくなって、あの野原へ向かった。


 野原は相変わらず、美しかった。



「あ、そうだ!」



 カイがお家に帰ったら、花冠をお返しにプレゼントしようと思った。

 カイは、喜んでくれるかな…?


 どんな花にしようか、黙々と花冠を作っていた。辺りは段々と暗くなっていった。




「あ、そろそろ、帰らなきゃ。」



ん、なんで?何だか、外が暗くなってきて、寂しくて、怖い…。

 カイ…、1人にしないでよ。

 


「スズ!!」


「カイ、来てくれ…。」



 カイ…?カイの体は、何だか薄く、今にも消えそうだった。



「スズ!やっぱり、ここに居たんだね。スズ、落ち着いて聞いて欲しい。」



 カイは、涙を一つ流した。



「もう、ここには…、居られない。俺たちの居場所は、奪われる。ここで、皆んな消える…。」


「どういうこと?」


「スズが見た真っ暗な未来、…真っ暗になるみたい。」


「え…。」


「俺たちは、もうすぐ消える。スズも、もう…。」



気が付かなかった。私の体も薄くなっている。



「…カイ!これ、作ったんだよ、花冠!カイに似合うと思ったの。」


 

 カイが、私を強く抱きしめた。手に持っていた花冠は床に落ち、カイは、鼻を啜った。



「ありがとう、ありがとう、ありがとう…。」



 その言葉を聞いて、カイを胸いっぱいに感じた。夢が、透視で見た未来が、本当に起こる気がした。




「ねぇ、カイ…、私たちもう会えないのかな?」



 カイが、泣きながら懸命に言葉を吐き出す。



「…キャノル様が、俺たちを、俺たちの心を違う星の”イキモノ様”に変えてくれるって!だから、きっと会えるよ!会えるよ!」


「”イキモノ様”?」


「俺たちよりも、ずっと苦しみを知っていて、だからこそ、美しくて儚いものだって。」



 真っ赤に泣き腫らしたカイが、震えた声で呟く。



「…だから、スズ、会えるよ、会える、絶対に。」


「そっかぁ…。カイと同じ”イキモノ様”がいいな。」


「…。」



 カイの脈打つ鼓動が微かに聞こえる。



「でもね、カイ、私ずっとカイに会えなくなる気がして…。」


「そんなの、そんなの…、知るかよ!」


 

 カイが、私を強く抱きしめる。とっても強く、大きな体で。

 


「ごめんね、会えるよね、そうだよね…。」



 カイ、いつの間に大きくなったんだね。



…会えるよ!会いに行くよ!俺はずっと…ずっと…約束…


カイ、ありがとうね。大丈夫だよ。


…。


カイ、笑って。一緒にダンスを踊ってロロに乗ってご飯を食べて、これからも私のお家に来てね。じゃないと、朝起きられないかもしれないから。


…。


カイ…。



 ゆっくりと暗闇に包まれていく中、私たちは小さな光の粒となって、遥か遠くへ消えていった。この世界の桃源郷は、真っ暗で何もない。無の境地へと変化していった。

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