表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

たまごの女

作者: 中尾よる

『たまごの女』を手に取っていただき、ありがとうございます!

1000字と短いので、最後まで読んでいただけたら光栄です。

 彼女と会ったのは二年前だ。ある朝、目玉焼きでも焼こうと卵を割ったらその中から現れた。長い黒髪、成熟した身体。背は僕よりも、少しだけ高かった。

「どうしてたまごから出て来たの」

「たまごが好きだからよ」

「たまごの中で、何してたの」

「たまごになってたのよ」

「……ふうん」

 彼女はそれ以来、僕の家に住み着いた。たまごになりかけていたところを僕に邪魔された彼女は、見返りよ、と言って朝昼晩僕の冷蔵庫のたまごを食べた。おかげで僕は、三日に一回たまごを買いに行かなければならなかった。

「なんで、たまごが好きなの」

「美味しいからよ」

 彼女はいつも、とても美味しそうにたまごを食べた。それは時にゆで卵で、目玉焼きで、オムレツで、卵焼きだった。口紅を引いたような紅くて分厚い唇で、たまごに触れ、その舌で絡め取る。飲み込んだ後、その白い喉仏が動くのを、僕はいつも見ていた。

「君は、たまごしか好きじゃないの」

「たまごしか、好きじゃないわ」

「……ふうん」

 彼女は朝も、昼も、夜も、たまごを一つ食べるだけだったけれど、全然痩せてはいなかった。その胸はいつも、下着から(こぼ)れそうだったし、きゅっとしまったお尻は、今にもジーンズをはち切りそうだった。そのくせ腰は(くび)れ、手首も足首も驚くほど細い。黒い髪は、油でも塗ったのかと思うほど艶やかで、綺麗だった。

「たまご、飽きない?」

「飽きないわ」

 僕は、彼女がたまごを食べるのを見るのが好きだった。たまごを食べている時の彼女は、本当に美しかったし、なんだか艶かしかったからだ。

 ある日、スクランブルエッグを食べていた彼女の舌が、スプーンからたまごを受け取りきれず、唇から溢したことがあった。僕は思わず、彼女の口に唇を寄せた。半熟のたまごを、彼女の口元から吸い取る。それはとても、甘い味がした。

「なにするの」

「なにって、キス?」

「だめよ、あなたはたまごじゃないもの」

 そうか、彼女の唇に触れるのは、たまごじゃなければいけないのか。

 それから僕は、彼女と同じくたまごだけを食べるようになった。僕は一日三個じゃ足りないので、毎日買いに行く必要があった。

 ある朝、僕は身体が少しおかしいことに気がついた。なんだか濡れていて、溶けそうに柔らかい。

「ねえ、キスしてもいい?」

「いいわ」

 彼女の唇が、僕に近づいてくる。僕は悟った。ああ、僕、とうとうたまごになれたんだ。彼女が愛するたまごに。

 そして、僕は彼女の中に入っていった。

最後までお読みくださりありがとうございます!!

よかったら、感想、アドバイスなどいただけたら嬉しいです!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 独特な世界観に惹かれました。 純文学がお好きと書かれていますが、正に純文学ですね……! 私もたまご好きです笑。 主人公は好きな彼女と一体となれて、きっとしあわせだったのでしょうね。 中尾さん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ