表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 病ってなんだろう。私はばい菌と言われたこともあるし、病気だとも言われた事があるんだ。病気とばい菌って一緒のものなのかな。でもそんなことを聞いたら、お前は頭が悪いやつだなって笑われたよ。

 私はそんな風に、悪いやつなんだ。頭が悪い、形が悪い、育ちが悪い、親が悪い。だから私は病気なんだ。だから私はばい菌なんだ。

 病っていうのは、悪いやつのことだから。

 そして体の悪い所っていうのはずきずき痛むから、ずっと胸の所が痛いんだ。

 穴が空いたみたいに疼く胸を塞ぐために膝を抱えた。小学校の階段の下はかび臭かった。土の下に居るみたいで、元気に走り回るみんなの靴に踏みつけられて固められているみたいだった。みんなはそんなつもりがなくとも、私はその場に居るだけで蹴られているみたいだった。

 悪気はなかったんだって、笑っちゃうよね。

 みんなは健康だから、悪気はないんだ。悪気だよ。私に言わせればそれは病気だ。医者でもないのに風じゃないって鼻垂らしながら言ってるやつが居たら、きっとそいつは頭が悪い。

 笑い声で震える床を指の腹で撫でると、ひんやりしていた。指の皮にうっすら張り付いた埃はざらざらしていて、私は親指と人差し指でひたすらそれを揉んでいた。鑢で自分を削っているみたいだった。そうして零れ落ちた私の粉末がまた明日の埃になるんだ。

 捨てられたら、埃は一体どこに行って、どうなるんだろう。燃やされちゃうのかな、埋められちゃうのかな。どっちも嫌だな。でも捨てられる悪いものが悪いんだ。

 病気の私が悪いんだ。

 私は一体なんの病気なんだろうね。お前は病気だって学校で言われたから、私は病院に行った方が良いと思うってお母さんとお父さんに言ったんだ。そしたら二人は怒って、先生を怒鳴って、私を病気だって言った子とその親を怒鳴った。

 その時に、悪気はなかったって言われた。

 そして次の日、チクったなってぶたれた。

 ごめんなさい、私も悪気はなかったの。

 病気なら治さなきゃって思ったの。

 でもそこで言われたんだ。お前の病気は治らねえよ。馬鹿だもん。

 治らない病気なんてあるのかな。その時すごく怖くなったんだ。同時にようやく病ってものがなんなのか分かった。

 私が病気なんじゃなくて、病気の名前が私なんだ。私はばい菌なんだ。風邪のばい菌が風邪を治したいなんて言っても、無理だもんね。死ぬしかないもんね。

 私は病気だから、私なんだ。

 私は悪いやつなんだ。

 じゃあ良いことじゃなくて、悪いことをするべきだよね。

 頭が悪いと言ったつよしくんの頭はハンマーで割った。形が悪いと言ったあすかちゃんの顔は歯が全部抜けるまで殴った。育ちが悪いと言ったしょうくんの家に火を放った。親が悪いと言ったあだちくんのお父さんとお母さんを刺し殺した。 

 そして初めて病院に連れていかれた。

 先生に、ちゃんと病気だと言ってもらえた。

 やっぱりと思った。

 次の日、面会所のガラスの向こうで泣くお父さんとお母さんを見た。

 胸の所がずきずき痛んだ。

 やっぱりと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ