ヒステリック癖をなおしたい
「あら、ゆうくんのお母さんじゃない。いつもお世話になってます」
話しかけてきたのは息子を預けている保育園のママ友さんの山本さんだった。
「どうも、かなちゃんのお母さん。お迎えですか?」
「ええそうなの。あらゆうくん来たわね」
かくいう私もパートと家事をひと段落つけた後に迎えにきたところだ。
「ほら、ゆう。かなちゃんのお母さんに挨拶して」
「こんにちは。かなちゃんママさん」
うむ、我が息子ながら快活な挨拶をするよい子になったと感じながら息子の手を握る。
「はい、こんにちは。帰りも気をつけてね。」
「はーい!」
ママ友の挨拶が終えて帰ろうとした時、もう一つの挨拶が聞こえた。
「どうも、園長さんこんにちは。いつもお世話になっております。」
園長さん!?
そういえば、コロナが流行って直接顔を合わせた挨拶は良くないと言われてたっけ。それきり挨拶出来ていなかったから丁度いい。
「園長さんですか?初めまして。ゆうたの母です。どうぞよろしくお願いします。」
見るとクレ○んに出てきそうなコワモテのおじさんがそこに居た。
「いやいや、どうも。こちらこそ」
手短な返事だ。
どうも話を長続きさせないタイプの方だろうか、挨拶もほどほどに引き上げようか。
そんな考えを巡らせていると、横のママ友が親しげに会話を広げる。
「赤ちゃんはどう?ちゃんとミルク飲めてる?」
あら、下の子供が小さいのかしら。
結構お年を召してるように見えるけれど、若いのね。
「いやぁ、どうも。若いのと一緒に寝ずの番ですよ。だいぶ大きくなってきたんで、あとは放っておいても大丈夫でしょう」
なんてこった。若いのって、この人何者だろうか?園長さんなんだよね?ここに預けて大丈夫かな。
そもそも赤ん坊を他人に任せるって!
いやいや、放っておくって!
「失礼ですが、子育てを他人に任せるのはいかがなものかと思いますが?寝ずの番はご苦労様ですが、それをやってこそ親でしょう?」
我慢ならずに言ってしまった。
コワモテが素っ頓狂な顔をしている。
「いやいや、どうも。それでこそ私はやりませんよ。猿だって子育てはできるんですから」
「猿に子どもを任せられるわけないじゃないですか!育てる責任があるでしょう!?そういうお仕事されてるんでしょう!?」
声を荒げてしまう。ヒステリック癖があると思われたらどうしようか。手を繋いでいるゆうたは笑っているから大丈夫だろうか。
「いやいや、奥さん。落ち着いてください。責任はもちろんありますとも。だからこそ手を離す時が必要なんですよ。」
園長さんは落ち着いた返しをしてくる。
「どうしましたか?」
奥から男性がやってきた。
大きな声を出してしまい聞こえてしまったのだろうか。
「どうもこうも、この園長さんが無責任なことを...」
「これはこれは、ゆうかちゃんのお父さん、ゆうたくんのお母さん、いつもお世話になっております。」
還暦が近そうな男性は私を落ち着かせるためか、ゆっくりと挨拶をしてきた。
「ゆうたくんのお母さんは初めましてですね。ここの園長をしている、長野の申します。」
「長野さん聞いてくださいよ、この園長さんが...」
もう何も語るまい。
ひとしきり笑われてから、これでもかと頭を下げて
顔を真っ赤にしながら、爆笑する息子を連れて家路についたのだった。




