31話 これからの決意
「でも本当、無事に間に合って良かった」
ティオルに乗りゲンダルフィンの夜の上空を飛び、エンスラッドに向かいながら俺は呟く。
「だね。少し怪我はしたけど、回復魔法で十分なぐらいだったし。何も問題なく帰れそうだね」
「そうだね。お兄さんもありがとうございます」
「いいよ。エミリとユリアからは色々と助けられたからさ。俺はこんな事しか出来ないし」
そう言いながらも、お礼を言われるのは少しむず痒い感じがする。
「そんな事って、何言ってるの? 側から見たら魔王から助けてくれた英雄だよ! ねっ、ユリア!」
「う、うん。そうだね……」
「あれ? ユリア?」
エミリが「だよね!」って同意を求めた先のユリアは少し俯きながら頷く。
でもまあ、今までに受けた恩恵に比べたら俺ができる事は出来たと思う。それに少しは格好つけられただろうし。
「さて、今日は帰ってゆっくりしようか。まあ、もう夜だからあまりゆっくりできないかもしれないけどさ」
俺も店がどうなっているか気になる。アルデはハマさんとサッさんに伝えて来たと言っていたから1日ぐらい休んでも大丈夫だと思うけど。
「本当だね、すっかり暗くなった」
自称魔王を倒したり、クレナリリスを召喚したりとしていたら思っているより時間が過ぎていた。
空には金色に光る満月と無数の星空が光っている。
下を見ると草原が広がっているはずなのだが、暗くて景色があまり見えない。
「ん? なんだろあれ?」
夜だからティオルもそこまで高く飛んでいないから、下を覗いて見ると、複数何かが光っている。
焚火だろうか? 光が揺れたり大きくなったり小さくなったりしている。
「どうしたんですかお兄さん?」
「いや、あそこ、複数光が見えるだろ? 何かなって?」
「んー……あっ、ホントですね」
「……あっ! あれってもしかして……。おにーさん、ここってエンスラッドに割と近づいている感じだよね?」
「ん? ああ、あれから数十分立ってるな。多分そろそろセンリスクに着く頃だと思うけど」」
ゲンダルフィンを出てから30分ぐらいは経っているはずだ。
「……だったら、多分あれは、エンスラッドの軍だよ」
「えっ?」
エミリの言葉にユリアが首をかしげる。
「エンスラッドの軍? それはないと思うけど……。私を助ける意味が国には無いし、軍を動かすなんてないでしょ?」
「いや、多分あれは私を追いかけて来たんだと思う……」
「なるほど、エミリなら可能性はあるね」
あいつらエミリを追ってきたのか。
あの国もエミリの事だったら動くんだな。
「じゃあどうする? 目の前に降りるか? 面倒臭いならこのまま城に戻ってもいいだろうけど」
「……いや、私もユリアも無事だと伝えた方がいいと思うから降りて欲しいかな。それに今ゲンダルフィンに行かれると面倒臭い事になりそうだからね。今の状態のあの国に行けばどうなるか」
そういうエミリの顔は真剣だ。
ユリアを助ける前に色々とあったからな。はっきり言ってあの国王は駄目だ。俺なら見限るところだが、エミリは王女様だし、出て行く事もできないだろうしな。
「わかった。ティオル、ゆっくりあの複数の光の前に降りてくれ」
「了解した」
ティオルが旋回しながらゆっくりと下降し始める。
「……ん? なんだあれは?」
「どうした?」
「いや、月に浮かぶ影がさ……は?」
「……っ!? おいおい! どんどん近づいて来るぞ!」
「おいお前ら! やばいぞ! 何かが! 何かが近づいてっ!!」
「嘘だろ……? あれって……ど、ドラゴンじゃねえか!?」
「っ!! ど、ドラゴン!?」
「ドラゴンだぁぁぁ!!」
「「「わぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」」」
という声が、降りていったら聞こえてきた。
なんかデジャブな感じだわ。
「貴様ら! 体制を整えろ!! ここで死ぬわけはならないぞ!!」
誰かがパニックになっている現場に走って来て指示をし始める。
「陛下は必ず守り通せ!!」
「「「はっ!」」」
騎士たちがバラバラだが、陣形を取り始める。
その間にティオルが地面に降り立った。
「おにーさん、私が降ります」
そう言ってエミリがティオルから飛び降りる。
「待って、エミリ!」
ユリアもエミリに続いて降りる。
「王女様、ユリアリア様! 俺も付いて行きます!」
2人に続き健治も降りていく。
「俺も降りるわ。アルデとクレナリリスは待ってろ」
「うむ」
「わかったわ」
そう言ってアルデとクレナリリスを置いてティオルから飛び降りる。
「貴方達、待ちなさい!」
近づいて来る兵士達に向かってエミリが声をあげる。
「っ!? その声は、エミルアリス様!? ならそのドラゴンは……ケンジ様も一緒で! それと……ユリアリアもか……!?」
「はい、カルデム」
エミリに続きユリアと健治が前に出る。その後ろに俺は付く。
「と言うことは、ユリアリアを救出したと言うことか……。あのゲンダルフィンを相手に……」
「そうです。カルデム、陛下はここにおられますか?」
「……はい、エミルアリス様の事が心配で、ドラゴンに乗って飛び出されてからすぐに隊を編成して出陣致しました。陛下も付いて来られております」
「わかりました。なら陛下の下に連れて……」
「エミルアリス!!」
とエミリが王の下に向かおうとした時、奥から王が走って来た。
「……陛下」
「エミルアリス無事だったのか! 良かった! 本当に良かった!」
そう言いながらエミルアリスに駆け寄り、肩を掴む。
「怪我はないな!? 何もされていないな!!」
「安心して下さい、大丈夫です。それと無事にユリアリアを連れ戻せました」
ニコッと笑いながらエミリはそう言うが、
「っ!! ユリアリアをか……」
そう言った王はユリアを見た。
しかしそれは一瞬だけでエミリに向き直る。
「……いや今はいい。無事にエミルアリスが帰って来ただけで良いのだ! よし、帰るぞ! カルデム、準備をしろ!」
「はっ!」
王の言葉でカルデムが周りに命令をし始める。
「しかし、其方には色々と言いたいことがある。城に帰ったら、わかっているな?」
「はい。それは承知の上です」
「それと……ユリアリアには追って処罰を言い渡す」
一瞬耳を疑った。
処罰って言ったかこいつ?
「……陛下? 処罰とはどういう……」
「おお! 勇者ケンジもいるのか!」
エミリの声を遮って、王は健治を見る。
「勇者ケンジ。此度は無事にエミルアリスを連れ戻してくれて感謝する! 其方がいたからこそ連れ戻せたのであろう?」
そう確信を持って健治に声をかけた。
しかし健治はそれを否定した。
「……いえ、今回の事は全て春原さんのおかげです」
「……は?」
そう言って健治は後ろにいた俺を見る。
「ユリアリア様が殺されず助けられたのも、王女様を無事に連れて帰れたのも、この春原さんのおかげです。俺は何もできていない……」
そう言って健治は申し訳なさそうに王の顔を見る。
「な、何を言っておるのだ? 其方ではなくそこのクシカツのスライムがだと!? そいつは余を殴るに飽き足らずエミルアリスを連れ去り敵国に乗り込んだ男だぞ! 勇者がそれを言っては……」
「それは違う! 春原さんは……」
「陛下? 陛下こそ何を仰っているのですか?」
王の言葉に健治が文句を言うより先に、冷たい声でエミリが声をあげた。
「……エミルアリス?」
「陛下にわかる様にはっきりと言いましょう。スノハラ様がいなければ私は一人で勝手に行き、確実に命を落としていたでしょう。それにユリアリアを助ける事も出来ず、ただ戦争を与えるきっかけを作っただけでしょう。ですが、スノハラ様が無事に全てを収めてくださりました」
おお! エミリが俺を褒めてくれてる! 凄く嬉しいんだけど!
「私がユリアリアを助けるために勝手に行動した事は反省しております。処分は受ける所存です。ですが、先にユリアリアを見限ったのは陛下……この国です。しかし、ユリアリアを助けずにゲンダルフィンの行動を見送ればこの国にとっては大きな痛手となっていたでしょう。違いますか?」
「何を言っておる……」
「……私はそんな事もわからず自分の国の為だと言っていた陛下の代わりに行ったのです。今回無事に終わったことで、エンスラッドにとっていい方向に進むでしょう。これもスノハラ様がいた事でできた話です」
「しかしそいつは……」
「陛下? そいつは? とは、どう言う意味でしょうか? 私の意志を尊重して連れて行ってくださったスノハラ様をその様に言わないで頂きたい!」
エミリはそう言い切った。
「エミルアリス……しかし、ゲンダルフィンと戦争することになれば……」
「大丈夫です。もう戦争は起こりません。それに私が向かったことでこの様に軍を編成したのでしょう? ならなぜユリアリアを助けるために出さなかったのですか?」
「それは……ユリアリアではなく、エミルアリスが行ったからで……」
「はぁ……まだ理解ができないのですか? ユリアリアは私の一番の側近ですよ? 国の重要機密も知っている者です。その者が他国に攫われたとなればどうなるかわからないのですか? それに私とユリアリアが一緒に居る事は多く、国民達も知っています。もしユリアリアがいなくなったと、他国に攫われても助けに行かず戦争を回避するだけの負け犬の国だとわかればどうなると思いますか? 何も考えず、ユリアリアだからだと、私だからだと仰るのであれば、陛下は王を止められた方がよろしいかと存じます」
「……っ!!」
そう激しい感情を隠しながらも乗せた言葉は王にダメージを与えたみたいだ。
おお、すげー。言い切ったなエミリ。
「エミルアリス様、そこまでに……」
「駄目ですユリアリア。陛下は何もわかっていないみたいですから。しっかり伝えなければならない事は伝えなければいけません」
言いすぎだと言っているユリアに対しても遠慮なく言う。
まあ、思う所はあるけどな。ユリアも助けられた立場で強くは言えない事はあるだろう。
「今回の陛下の選択はどうだったのか、考えてください。ユリアリアを助けに行かなかった事で国民や周りは、他国はどう考えるのか。もしかすると、私の方が間違っているのかもしれません。ですが、今回は私の為に軍を動かして頂いたので、形でも見せられたのではないでしょうか? そして無事にユリアリアも助けられました。なら、他国にも、国民にも示しがついたと思いませんか?」
「しかし……」
なる程なとは思ったけど。これって俺がいての行動じゃね? だったら、元々俺を巻き込むつもりだったんじゃ。
そう思っていたらエミリが振り返りニコッと笑った。
まあ、いいんだけどさ。自分が率先して動いているから俺は手伝えるところは手伝うよ。
でも今日でユリアも怖いと思っていたけど、エミリも怖いと認識したわ。
「ケンジ様もしっかりユリアリアを助けるために動いてくださいました。しかし、スノハラ様の功績は大きいと考えてください。今回のユリアリアが攫われた事にはユリアリアには何も落ち度はなく、助ける存在だったと理解してください」
「そ、それでも……」
「それでも、ですか? 一つ言い忘れていたのですが、陛下は連れ去られたのはユリアリアだから何も動く事は無いと仰っていましたが、もしあの時私が連れ去られていたらどうなったと思いますか? ゲンダルフィンのセルドスとクレアを城に入る許可を下したのは陛下、貴方ですよ? それにその様な相手に側仕えのみで騎士も付けずに城の中を歩かせた騎士団長の落ち度もありますが? それをどうお考えなのでしょうか?」
「……っ!! そ、それは……」
「理解されましたか? 私にも反省点、悪い点は多々あります。それは反省し、処罰も受けます。しかし、陛下もしっかりと自分の立場を考えていください」
その言葉に王は目を伏せる。
王は何も言い返せないみたいだ。所々自分の反省する箇所も交えているが、ここまで相手に自分の意見を伝えられ、説得力を持たせられるのは、上に立つ存在としてはかなりの才能があるだろう。
「では、私はとても疲れておりますので、ユリアリアと先に城に戻っております。陛下はゆっくりと考えてお戻りになってください」
エミリはそう笑顔で言い切り、王に背を向けた。
「ユリアリア、ケンジ様、スノハラ様、帰りましょう」
「はい」
「わかりました」
「帰るかー」
笑顔でエミリが先に歩きティオルに向かっていく。
その後ろでは驚きのあまりに声を出せずにいた王が手を伸ばしていたが、その手は空を掴んでいた。
「では、ティオルちゃん、お願いします」
「はははっ! 中々爽快だったな!」
そう言ってティオルに俺達は乗る。
「エミリ……あれは言い過ぎだったんじゃ……」
「いいの。あれぐら言わないとわからないから。多分あれでもわかっていないよ」
「……それはそうかもしれないけど」
「大丈夫。今回で私は本気になってるから。この国はお父様達には任せられない。私がどうにかしないとって」
そう決心したエミリの目は真剣で、遠い先を見ている様だった。
そんなエミリを乗せて、俺達は王達を残しエンスラッドの国に帰るのだった。
決意したエミルアリス。ここから、エミリの王への道が始まる。
それは後々語られると思いますが……。
次回の更新は日曜日の昼ごろです。
3章終わりまでラスト1話! 実質この話が最終話みたいなものですけどね。




