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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第3章「封惑の魔王」

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21話 悪魔の魔王セルゴラウス

ここからスノハラ視点に戻ります。



「ごめん、ユリア。かなり待たせたな」


 左手で剣を防ぎながら振り向き、ユリアに謝る。


「お兄さん……」


 その瞬間、ユリアの目から涙が溢れた。


「帰るぞ」


 それを見て咄嗟に出た言葉これだった。

 このタイミングで、こんなシーン絶対カッコいいはずなのに、出た言葉がこれとか残念すぎる。

 しかしユリアは……。


「……はい!」


 そう答えてくれた。


 よし。さっさと終わらせて帰るぞ!


「さてと……」


 やる気に満ち溢れながら、俺は剣を振りかざした男に向き直る。


 しかし危なかった。

 あと少しでユリアが殺されるところだった。ギリギリ、本当にギリギリ間に割り込む事ができた。

 これもエミリとユリア2人で少しでも時間を稼いでくれたからだ。


「き、貴様ぁ! 吾輩の邪魔をするのか!!」


 ユリアに届くはずの剣が届かなかった事で、男が見てわかるほど怒りを露わにしている。


 しかし俺にはその怒りが理解ができない。


「邪魔? 何言ってるんだお前? お前がユリアを殺そうとしたんだろ? 逆だ。お前こそ何しようとしたのかわかってんのか!」


 怒ってる?

 こっちも怒ってるんだよ!


「黙れ!! 吾輩が今日をどれほど楽しみにしていたか! それを貴様は!」


「そうかそうか、楽しみだったんだな」


「ふん! その腕ごと切り落としてくれるわ!」


 そして俺の左腕に刺さっている剣に力が加わる。

 しかし、


「……う、動かん!?」


 ピクリともさせなかった。

 痛い……いや、こんなクソ野郎の攻撃など痛くもない!


「くそがっ!」


 押しているだけでは埒が明かないと思ったのか、男は剣を抜きその場から少し離れた。


「ユリア!!」


「エミリ!!」


 後ろでエミリがユリアの下に駆け寄る。


「どうして私を押し飛ばしたの!? ユリアが、ユリアが死んじゃったら……!」


「ごめんエミリ……。エミリだけでも助かったらって……」


「それじゃ意味ないじゃん! ユリアがいないと私は、私は!」


「エミリ……ごめん、本当にごめん……っ!」


 エミリがユリアを抱きしめる。


「……でも本当に良かった……!」


「ありがとう……」


 泣き声と、笑い声と、そういう話声が後ろから聞こえてくる。


「お兄さん……ありがとうございます……」


「おにーさん、間に合ったね」


 2人で話していたのが終わったのか、話しかけられる。

 その声が聞こえて助かっていると安心させてくれるが、俺の中では反省する事が沢山ある。


「ああ、でも本当に遅くなった。ごめんな」


「うーうん。間に合ったんだから大丈夫だよ」


「はい、本当に……。来てくれただけでも……。でもお兄さん、腕がかなり……」


 ユリアが俺の左腕を見て目を見開く。

 思っているより血が出ている様だ。


「ん? ああこれ? 大丈夫繋がってるしな」


 ユリアにそう言ったけど、実は我慢してる。

 レベルのおかげでダメージは少ないが痛みは感じている。まず痛みを感じるなんてこの世界に来て初めてだ。

 魔法が使えないのは思ったよりも面倒臭い。


「本当ですか……?」


「大丈夫だって、それよりも今か……」


「なんだ貴様は!! 吾輩の剣を止めるとは……貴様、エンスラッドの勇者か! しかしあの国にはあの最弱の勇者しかいないはずだ! 何者だ!」


 あ? 俺とユリアが話しているのに邪魔しやがって! せっかくカッコつけようと思ったんだぞ!


「うるせーな! こっちは初めての痛みとかっこいい登場シーンをミスってイラついてるんだよ! いや、関係ないか。お前は存在自体が許されないわけだ」


 俺の怒りも湧き上がる一方なのだが。


「わかるか? ユリアを攫って傷つけた。それに殺そうとした事は許されないからな? わかってるか? わかってるか!」


「吾輩にうるさいだと!! 貴様は許さん! 吾輩の方が邪魔をされて苛立ってるのだ! 貴様は簡単に殺さぬぞ!」


「話がかみ合わないな。簡単に殺さない? そうか、やってみたら? 俺も久しぶりに苛立ってるから、手加減できないぞ?」


「ふっ、ふははははっ! 手加減ができないだと? 笑わせる! 吾輩こそ手減出来ないわ! 貴様をじっくりいたぶり殺したら、その小娘の能力を奪ってやる! 小娘もわかっているだろうな!」


 男が俺と後ろにいるユリアを見て叫ぶ。

 そうか、こいつはまだそんなことを言うのか。

 俺は怒りがわかる様にその男を睨む。


「ふん、何を怒っている? そんな能力しかない小娘は殺すことで価値が出るのだ! そんなこともわからん人間はどこまでも下等な生物なのだな!」


 価値? 能力だけが価値だと?

 その言葉に俺の怒りは振り切れた。


「あー、黙れ。お前はもう喋らなくていい。喋ったら殺す」


「ふはははははっ! できるものならやってみるが良い! 貴様ごときが吾輩に勝てるわけがない! この魔王セルゴラウスにな!」


「……っ!?」


 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。

 魔王だと? こいつが……魔王だと?


「はははっ! 驚くのも無理もない! 吾輩は悪魔の魔王だ! モンスターの中でも最上級の種族の悪魔でありその中でも最強の一角! 貴様如きが勝てるわけがない!」


「そうか、お前が魔王か……」


「そ、そうですお兄さん! その魔王はこの国を乗っ取っている悪魔です! アルデちゃんたちと同じ魔王です! だから、先にその腕の回復を……あれ?」


 ユリアが俺の左腕を見て疑問の声をあげる。


「ん? あっ、大丈夫。「自動回復」は発動するみたいだから」


 そう言って傷が消えている左腕を振り回してみる。

 ユリアが驚いて目を見開いているが、さっきからずっと左腕が緑色に光っていたはずだ。

 魔法は使えないけど、能力は使える。今使えないのは魔法と拳技だけだ。


「って事でユリア、エミリ。俺から少し離れていてくれ」


「えっ……あ、はい」


「わかった。おにーさん、気を付けてね」


「ああ、大丈夫」


 エミリとユリアが俺から離れる。

 部屋の中心からいつでも逃げられるようにか入り口付近に向かって走っていく。


 何も気にせずに戦いたい。今の魔法も拳技も使えない状態では近くに置いておく方が危ないだろう。


「ふっ! 本気で吾輩と戦う気か? 吾輩が魔王だとわかったのだろう?」


 しかし、こいつが魔王か……。


「なあ、本当にお前が魔王か? アルデミスやティオルリーゼと同じぐらいの強さってことか?」


 俺は無防備に魔王らしい男の前まで歩いていく。


「ふっ! 人間にはわからんだろが、今の吾輩ならアルデミスやティオルリーゼにも後れを取らんぐらいだ。しかし、その質問をするのはビビっているのか? ふははははっ! ビビる事は仕方がない。しかし貴様は楽に殺されるとは思うなよ?」


「……ふーん。アルデミスやティオルリーゼの方が遥かに強く感じるんだけどな?」


 俺がボソッとつぶやいた言葉に、反応する。


「なんだと!! どこの誰にやられたかわからないアルデミスとティオルリーゼよりも吾輩が弱いと言うのか!! そうかそうか! 人間が吾輩を前にした恐怖で正しく力量を測れて無い様だな! 吾輩を前にして虚勢を張れるその胆力は認めてやるがな!」


 俺は魔王らしい男の目の前で立ち止まる。


「まあ、いいけど。お前、喋るなって言ったよな? 歯食いしばれよ?」


「ふん、何を言っている! 人間が吾輩に命れ……っ、ぐばはぁぁぁぁぁっ!」


 そして魔王らしい男の顔面を全力で殴り飛ばした。

 吹き飛んだそいつは、そのまま壁にぶち当たる。


「やっぱり、これも防げないとかアルデより強いわけないわ。魔王じゃない、自称魔王だろ?」


 魔王と言うことは人間ではないわけか。それなら遠慮しなくていい。セルドスってやつと同じ悪魔だろう。思いっきりやる。


 俺は自称魔王に向かって走り出す。


「ぐふぅぅ……な、なんだ貴様は! 吾輩の魔法障壁を拳だけで破壊するだと!?」


「だから、喋るなって言ってるだろ!」


「ぐばはぁぁぁっ……!!」


 次は思いっきり右足で左方向に蹴り飛ばす。


「おいおい、本当にお前が魔王か? 俺はまだ魔法も使ってないぞ?」


 ……本当は使えないんだけど。


 左の壁にめり込む様にぶつかった自称魔王に向かって歩いていく。


「がはぁぁっ……くそがぁぁ!! あいつらは何してるのだ!!」


「あいつら? ああ、セルドス達か? あいつらはアルデとティオルが相手してるよ? えっと、わかりやすく言うとアルデミスとティオルリーゼが」


「なっ……!? アルデミスだと!? あいつは死んだはずではないのか!!」


「あ? 死んだ……いや、死んでたけど生き返ったっていうのが正しいか? まあ、そんなことはどうでもいいんだよ」


 そう言って俺は左手で自称魔王の胸倉を掴み、持ち上げて拳を構える。


「覚悟はできてるよな!」


「ぐっ……! 人間風情がぁ! 『煉獄の晩影』!」


 俺が殴ろうとした瞬間、自称魔王は両手を俺に向けて魔法を放ち、黒い塊が俺の全身を突き抜けた。


「お兄さん!」

「おにーさん!」


「ふははははっ! 貴様でもこの魔法なら食らう……っ!? なぜ手が離れん!?」


 俺に魔法は直撃した。

 でも、掴んでいた胸ぐらは離さない。


「……だから、覚悟はできてるって言たよ、なぁ!」


「なっ……」


 そして胸倉を引き寄せて、思いっきり反対方向に向かって殴り飛ばす。


「ぐばはぁぁぁぁっ……!」


 これで3つの壁に自称魔王が激突した後が残った。

 ユリア達に当たらないように調整しないとな。


「ぐっ、はぁっ……はぁ、はぁ、はぁ……」


 しかしこれでも生きてるとは中々頑丈な奴だな。


「くそがぁぁっ! もういい……あれを使う……!」


「ん?」


 その言葉と同時にボロボロになった自称魔王が空間に手を突っ込んだ。

 あれは「アイテムボックス」か?


「ふははははっ! 残念だったな人間。貴様がどれだけ強くともこの剣がある限り貴様は吾輩には勝てない!」


 そして俺に見せつける様に取り出したモノは、白に近い灰色で、光の加減により青白く光る精工に作られた美しい剣だった。


「絶剣「バルグレイド」! 持ち主の能力を最大限まで引き上げる最高の剣だ!」


 ……絶剣。

 自称魔王がそう言いながら剣を掲げる。




   

次回の更新は月曜日の昼ごろです。

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