24話 報酬の前に
2章最終話です。
「しかし、平和だなー」
アルデ達が客の相手をしているうちに注文があった串カツを揚げながら呟く。
あの魔王討伐パーティーから数日経った。
今の所何も起きず平和に過ごしている。アルデ達にハリセンを渡して遊ばせるぐらい余裕はある。
串カツもあの串カツ祭り以来これまで以上に売上がいい。嬉しい事に王都の方にも噂が回り、わざわざ買いに来てくれているようだ。
「平和は平和でいいんだけどなー」
平和なのはいい事だ。この街の近くに居た魔王がいなくなったわけだから余計平和になってしまっている。
まあ、はっきり言うとそこまで変わっていないんだけどな。
しかし、ひとつだけ心残りがある。
討伐はしてないが、あの剣魔の魔王グレイバルト討伐についてだ。
あの結果はまたもや健治の功績になっているが、それは百歩譲って俺のマイナス能力が理由だから諦めよう。次は健治がいない所ですれば良い。
今回はユリアからの依頼だったから仕方ない。
そう! 今回はユリアからの依頼だったのだ。
しかしユリアと約束した報酬をまだもらっていない。
串カツ祭りの後に討伐パーティーに行ったのだが、そこにはもうユリアの姿はなかった。健治達曰く、報告のために帰らなければならなかったらしい。
あれから数日、俺はユリアと全く会っていないわけだ。
つまり、ユリアがいつ来るのかと楽しみとドキドキと不安が入り混じっている状態が続いている。
何というかこう、モヤモヤというかヤキモキというか……。
「スノハラその顔は気持ち悪いのじゃ」
「ハリセンでしばくぞお前?」
見回りから戻ってきたアルデに突っ込まれる。
こいつ悩んでいる俺の顔を見るたび言ってくるからまじでうざい。このタイミングで突っ込まなくてもいいだろうが。
「しかし、このハリセンはいいのう! 妾が本気で叩いても誰も死なんのじゃ!」
「だろ?」
そう笑いながらハリセンを振り回している幼女。
そう言われて客を見ていると数人頭を抱えて倒れている奴がいた。
……痛そうだけど動いているから大丈夫だろう。
「主、これはいいぞ!」
戻ってきたティオルも満足そうにハリセンを握っている。
「そうかそうか。だったらお前らが暴れても周りは怪我しなさそうだな。良かった良かった」
「「っ!!」」
そのなんとなく言った言葉にアルデとティオルが固まった。
そして、2人が見つめ合い、何かを見つけたかの様に頷いた。
「成る程……この手があったのじゃ!」
「これなら周りを気にせず貴様をやれる!」
そう言って2人が屋台の外で距離を取り始める。
「ハリセンなら死人が出ん! なら、周りも気にしなくて良いのじゃ!」
「そうだな! 我が全力で叩いても貴様が死なないのは良かったな!」
「ふんっ! 逆に妾の一撃で貴様が死なん方が良かったのではないのか?」
「はっはっはっ! 幼女が何を威張っている! 子供が玩具を振り回してる様にしか見えなかったぞ?」
「誰が幼女じゃ! その口黙らせてやるぞ!」
2人が挑発し合い熱が上がる。
こう見るとティオルが言った様にアルデは玩具を持った幼女にしか見えないけど、どちらかと言うと見た目が美人でメイドのティオルがハリセンを持っている方が違和感がある。
「さっさと来い幼女!」
「ふんっ! 威張れるのも今のうちじゃ!」
「おっ! いいぞ! 2人ともやれー!」
「アルデちゃん頑張ってー!」
「ティオルちゃんもいいよ!」
「アルデちゃん天使だー!」
「ティオルちゃんは女神だー!」
盛り上がってきた……って! 俺は暴れるなって言ったんだけど?
まあ、盛り上がってるからいいか。ハリセンだし。
「程々にしろよー」
俺は2人を観ながら串カツを揚げる。
ここ数ティオルに日色々と教えてみたが、実は割と使える奴だった。
全くメイドではないが普通に賢い。長年生きてるだけあるようだ。
ちなみにアルデは今は幼女にしか見えないが地頭は良い。あれほどの魔法が使えるだけあって賢くない訳がない。
そしてティオルもアルデに負けず劣らずの賢さだと認識している。
まあ、こんな感じでいつも啀み合ってるからアホにしか見えないんだけど。
「やれー!」
「頑張ってー!」
「アルデちゃーん!」
「ティオルちゃーん!」
「ふはははっ! 声援は妾の方が上だな!」
「ふっ! 質は我の方が上だ!」
「なんじゃとっ!」
「貴様こそっ!」
何か自分の強さと違う所で争い始めたんだけど。
まあいいか、俺もこいつら観ながら串カツでも食べよう。
危なかったら俺が止めたらいいし。今のところ魔力を使う素振りはないからな。
そう思いながら自分用の串カツを揚げていた。
すると、
「これは何の騒ぎですか……?」
「ん?」
知ってる声が聞こえた。それも俺が待っていた人物の。俺のモヤモヤを膨らませていた人物の声だ。
「ユリ……ア?」
名前を呼びながらその声の方向を向いたが、そこにいたのは数人の騎士を連れ、冒険者の格好ではなく王女の側近の格好をしたユリアだった。
ユリアというかユリアリアである。
「こんにちはスノハラさん」
「こ、こんにちは……?」
スノハラさん……? どうしたんだろうか、初めて呼ばれたんだけど?
まあ、後ろに騎士がいるから仕事モードなのはわかるが、何となくその呼び方をされると距離があるように感じる。
「ユリアリア、こいつがクシカツのスライムか?」
「そうです、この方です」
「ふむ。勇者ケンジ様も言っておられたが、この冴えない男がドラゴンを従えていたと?」
そう言ってその男は俺を見定める様に上から下まで見る。
そして馬鹿にする様に笑った。
「ふっ、それはあり得んな! こいつからは何も気を感じん!」
あ? こいつは俺に喧嘩を売っているのか?
ドラゴンという言葉に反応したアルデとティオルもハリセンを止めてこっちを見ていた。
「しかし、これが勇者ケンジ様が認める男とは拍子抜けだな。なぜこの男を認めているのだろうか?」
おーし! 売られた喧嘩なら買いますが! なんならデコピン一発で倒しましょうか?
しかし、俺が行動する前にユリアが話を変える。
「ま、まあ……そして、今この方が揚げているものが串カツと言うものです」
「ちっ……で、これがか……?」
そう言って俺の目の前に置いていた揚げたての串カツをその騎士が一つ摘み上げる。
「あっ、ちょっと……」
そして食べた。
こいつ俺の断りもなく食べやがったぞ?
「ほう、これは美味しいな。揚げたてで肉汁が広がる感じ、それにこの衣がザクザクで美味い」
俺の串カツを美味いと言ってくれた事は嬉しいが、勝手に食べるとはどういう事だ。
「ちょっとお前、何勝手に食べてるんだ? それはうちの商品なんだけど? お金払ってくれるのか?」
「ほう? てっきり置いてあるから食べて良いものだと」
「……へー、それはわざとなのか?」
俺を舐めた目で見ているこいつの言い方が気にくわないんだけど。お貴族様ってやつか?
「ん? 何だその態度は? 貴族でもない人間が私に逆らうのか?」
「あ? 逆らうも何もお前が先に喧嘩を売ってきたんだろ? やるならや……」
「……す、すみません! スノハラさん。騎士団長が勝手に食べてしまい。お金は払いますので」
俺が売られた喧嘩を買おうとした時、ユリアが間に割って入った。
「……それならいいんだけどさ」
「ユリアリア……」
今回はユリアの顔に免じて許してやるが次は無い。
と言うか、こいつ凄く高そうな鎧を来て、見た目はおっさんだが良い所の出みたいな顔だ。何というか気にくわない。
それに騎士団長なら世間知らずにも程があるだろ。
「……ちっ。子供の時にエミルアリス様のお眼鏡に叶っただけのガキが、こんな下民に媚びを売りやがって……」
ん? こいつ何か言ったか?
はっきりは聞こえなかったが、ユリアの悪口だった気がするが。
「……まあいい。このクシカツとやらは美味しいからな、王に差し出す価値はある」
なんだこいつは? 少し絞めた方がいいんじゃないか?
「おい、クシカツのスライム!」
その行動を取る前に騎士団長とやらが俺の目の前に懐から出した封筒を突きつけた。
「貴様に陛下から召喚命令が出ている!」
「……は? 召喚命令?」
「近日貴様を陛下の御前に連れて行く」
陛下の御前? いや、それってどういう……。
急に突きつけられた言葉の意味が理解できないのだけど……。
「そしてこの出来立てのクシカツを陛下に献上しろ!」
「……は?」
その言葉の意味が分からなかったが、多分王様との面会が決まったらしい。
……また大きなイベントが舞い込んできたようだ。
2章はこれで終了。3章に続きます。
王様に呼ばれるほどの串カツってさぞかし美味いんだろうな。私も食べてみたいです。




