15話 魔王を辞める者再び
「では!」
……っ!? まさかこのパターンは!
「ちょっと待……!」
「ふん!」
「わあぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁっ!」
こいつもグレイバルト同様自分の胸に右手を刺した。
やめて!? その見た目のまま胸に手を刺さないでくれっ!!
「ぐっ……、ここら辺か……」
「こ、こいつ。自ら魔王を辞めるとは……。妾よりも強さに貪欲じゃ……アホじゃ……」
「お師匠様……こいつ本当に……」
「あのドラゴンが……」
このあり得ない状況にグレイバルト達も近づいている。グレイバルト動けてるじゃん……。
「小僧……こいつ貴様と同じじゃな……」
「お、オレと一緒にしないでください」
いや、俺からしても同じだよ。
「しかしこいつが魔王を辞めるとなれば……!」
「魔王様! これはチャンスです!」
ジェミラと2人で目を輝かせ始めるグレイバルト。
こいつら、まさか狙ってるな?
「お兄さん……」
ユリアもその事に気づいたのか俺の裾を引っ張る。
「わかってる」
俺はその瞬間に構える。
「ぐっ……うっ……ぐぉぉぉぉっ!!」
そして、ドラゴンメイドの胸から黒い球が引き抜かれた。
やっぱりこの瞬間はグロい。
メイド服の胸元がはだけているが何もエロさを感じない。
「はあ、はあ、はあ……これを……」
「今です! 魔王様!」
「わかっている!」
その瞬間グレイバルトとジェミラが動く。
「させるか!!」
俺もその瞬間を逃さず動く。
一瞬だ。
「……くっ!」
「……勇者っ!?」
「そんな見え見えな行動。渡すわけないだろ」
そして俺はグレイバルト達が取る前にドラゴンメイドから魔王玉を奪う。
普通に考えて今のグレイバルト達より俺の方が断然早い。
「……あっ」
「くそっ! 流石にこの体では取れんか!」
「勇者よ! それを渡してもらえないか!?」
ジェミラが意味不明な提案をしてくるが。
「渡すわけないだろ? なんでわざわざ魔王を目の前で作らせないといけないんだよ? 素直に他の魔王を倒して来い!」
「くっ、諦めるぞジェミラ」
「……はい、魔王様」
当たり前である。
「お兄さん、ありがとうございます」
「おう!」
ユリアも安心した様だ。
さて、あとはこいつを破壊するだけか。
「はあ、はあ……主、それは……」
「ん? 魔王を辞めるんだろ? 持ってるついでに俺の手で破壊させて貰おう」
「……あっ」
そして俺はグレイバルトに見習って魔王玉を握り潰した。
それもしっかりと潰したと皆に見える様に。
魔王玉は俺の手の中で粉々になり、崩れていった。
俺も中々の握力である。完全に人間離れして来たな。
「これで、魔王がこの世界からもう一体消えたわけだ!」
そう俺は満足して顔でドラゴンメイドの方を向いたのだが……。
「ふふっ……」
……ドラゴンメイドが笑っていた。
「これで我は……」
そう呟く。嬉しそうに。
魔王を辞めたのは俺が言ったからだ。だったら別に辞めたかったわけではない筈だ。
でもどうして目の前で魔王玉を破壊されたのに嬉しそうなんだ……?
「主よ、嬉しいぞ!」
「……えっ?」
思考を巡らせている中。ドラゴンメイドが俺の前で跪いた。
「主は魔王を辞めさせるよう我に言った。それは我を殺すためだと疑っていた。しかし、これ程の強者に殺されるなら本望だ。だが主は、我から命ではなく魔王玉だけを奪った。そして……」
「……ん?」
魔王玉だけを奪ったって……俺ならグレイバルトぐらい魔王になったとしても倒せるだろうが、目の前で魔王になるのを見逃すわけないだろう。後々めんどくさいし。
しかしこいつの目が語るのは……。
「我の魔王玉を自分の物だと言わんばかりに見せびらかし、主自らの手で破壊してくれた。これは我の事を離したくないと言う意味だと!」
「……は?」
「つまり我を連れて行ってくれるという、そういう意味だと!」
そして熱っぽい目で俺の事を見る。
「そうだろう! 主!」
「……」
やばい、この目はやばい!
さっきまで人間の様だった瞳が俺を見つめる事で爬虫類の様に細くなる。
これは友達の家にいたトカゲと同じだ。獲物を捕食する時の目に似ている!
しかもこの言い方は違う意味にも聞こえる気が……。
「そうだろうっ!」
「い、いや待て! 俺は……」
「お、お兄さん……?」
「スノハラ……」
ユリアとアルデが何故かじと目で見ている。
「いや、違うから!? そんな理由ないから! ユリアが言ったから奪ったんだぞ!?」
「わかってますけど……お兄さん簡単になびきそうですし」
ユリアにそんな人だと思われていたの!?
「それにそのドラゴンの目が、凄いので……」
ああ、振り向きたくない……。
さっきの目からわかる。こいつに獲物として見られている。狙われている。
と、とにかくユリアとアルデにに助けを求めてみよう。
「ユリア、俺はどうしたらいいんだ……?」
「どうしたらって……お兄さんが考えてくださいよ!」
「妾は嫌じゃぞ!」
「そうだよな、アルデはあいつ嫌いだもんな?」
アルデはかなり嫌がっている。それを理由に。
「だったら、放っておくしか思いつかないんだけど……」
「放っておくって……魔王ですよ? もう元魔王かもしれませんが、できるんですか?」
「……どうだろ?」
「無理じゃな……。あのトカゲは気に入ったモノがいると捕まえるまで永遠に追って来るぞ?」
「だったらお兄さんが面倒見るしかないですよね……。幸い懐かれている様ですし……」
「……アルデみたいに?」
「妾はみたいとはなんじゃ! それに妾は絶対に嫌じゃぞ! じゃったら、あいつを消滅させるべきじゃ!」
嫌がるアルデが物騒な事を言う。
消滅って……いや、魔王だしそれがいいかもしれないか。
どうするか……。
「どうした主? 我を連れて行ってくれな……ぐっ!?」
そしてドラゴンメイドが苦しみだした。
読めていた事だけど、魔王玉を壊してから少し時間がたったもんな。
パターンだ、しかも今日2回目だし。
「ぐぅっ……!!」
そしてグレイバルト同様、光り始めた。
そして黒い霧の様なモノが天へと登っていく。
まさかだと思うが、こいつももしかして人間になるのか……?
幼女、初老ときたら次は何が来るんだろうか?
魔王が魔王ではなくなる瞬間を2回見た俺はもう驚かないと思うけど。
「がぁぁぁぁぁっ……っ!!」
最後の苦しみを終え、光が消えていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……。これが魔王では無くなった感覚か……」
目の前に元魔王のドラゴンメイドが見た目を変え……。
「変わってない……?」
全く変わっていなかった。
小さくなったり爺さんになったりしてない。見た目はドラゴンメイドのままである。
「なんであいつらは変わったのに、こいつは変わってないの? 魔王ってなんなんだ!?」
「スノハラ、当たり前じゃろ? 妾と小僧は元々人間じゃが、このトカゲは元からドラゴンじゃ。それも高位のな? 魔王を辞めたぐらいで姿形は変わらん」
「……なるほど」
その説明に理解して……いや、わからない。
アルデは魔王の前はエルダーリッチーだったはずだが?
しかし、アルデの言う通りだと考えると、ドラゴンが元ならそのままなのか。
……ん? だったら……。
「なあ、お前ドラゴンの姿になれるの?」
「はぁ、はぁ……主? ああ、なれるが……なった方がいいか?」
「いや、いい……」
なれるらしい。
つまり、こいつを従えたらドラゴンの部下ができるわけか。
そうなると……あの憧れていたドラゴンの背中に乗れるわけか!!
「……あ、主?」
ちょっと待て、春原勇! しっかり考えろ、さっきも同じことを考えただろ!
ドラゴンといっても元魔王。
それにバトルジャンキーだ。常に戦いを挑まれるかもしれない。それは鬱陶しいかもしれない。
でも、魔王を辞めたこいつなら余裕で倒せるし……魔王の時でも倒せたからいいんじゃないのか? 別にいつでも倒せる相手なら近くに置いておいても……いや、良くないぞ!?
やばい、俺の思考がドラゴンの背中に乗りたい事で埋め尽くされる!
「主、これなら我を連れてってくれないか? 我は魔王を辞めたぞ!」
そう、こいつは魔王を辞めたわけだ。
俺が言ったことを守ってくれたわけだ。勝手に辞めただけだけど……。
しかしそう考えれば、言う事を聞かないアルデより楽かもしれないか? お腹が膨れた瞬間襲いかかってきたアルデに比べれば……。
そう思ってアルデを見ると、何故か俺を睨んでいた。
その瞬間俺の思考が固まった。
「私を主に従えさせてくれないか!」
「わかった!」
俺はその言葉を肯定した。




