13話 「邪竜の魔王」②
ドラゴンに向かい歩いて行く。
深紅を越えた赤黒い鱗にできていた傷がふさがり始めている。流石ドラゴンの再生力。全てを燃やし尽くしてきた「超炎熱砲」の一撃で倒せないとは、ドラゴンはやはり想像通りの強さなのだろう。尚且つ「邪竜の魔王」とか言ってたし、かなり強いのは確かだ。
「おい人間! その魔力、お前かなりの強者だな? 炎魔法で私の鱗が貫かれるのは初めてだ!」
ドラゴンが吠える。
それを無視して俺は関係ない今の気持ちを連ねていく。
本当はドラゴンともっと一緒に居たかった、空を飛びたかったと言う思いを込めて。
「俺はドラゴンがかっこいいと思っている。そして今お前と戦う事にワクワクしている俺もいる。でも、すまないがすぐに終わらせる。その方がカッコいいと思うのでな。あと、ついでに俺の串カツ屋も潰させない!」
「ふん! アルデミスも言っていたがクシカツとは何か知らんが、お前がやる気ならこっちも全力で行かせてもらうぞ! 『竜王の咆哮』!」
「『絶永結界』」
アルデの極大魔法を相殺した咆哮を結界で遮りながら歩く。
「なっ! 我の咆哮が……!? なら!『嵐龍斬覇』!」
ドラゴンが飛び上がり翼を強く羽ばたかせる。その翼から嵐が吹き荒れ、空間を斬り刻むが、
「『堅凱の岩城』」
俺は岩の壁を形成する。
しかし、アルデが使う岩の壁とは違い、ただ真っ直ぐに建てるだけでなく、ドラゴンを包む様に構築する。
「なっ!?」
そのまま嵐の斬撃ごとドラゴンを閉じ込める。岩玉の完成だ。
これで嵐の斬撃はその空間の中で吹き荒れる事になる。そのままドラゴンにもダメージが与えられたらいいのだが……。
「がぁぁぁぁぁっ!!」
その声と共に岩の壁が破裂する。
「はあ、はあ、はあ……なんだそれは。我の極大龍技が上級魔法に防がれるだと……」
「『激雷の暴風』!」
出てきたところに間髪入れず、右手をかざし数百の雷を降らす。
「なぁっ!?!? 『岩龍凱騎』! ぐぉぉぉぉっ!!」
ドラゴンの硬質化が間に合うが雷が貫きダメージを与えていく。
「流石ドラゴンだ。俺の攻撃で致命傷になってないのか」
「はあ、はあ……上級魔法でこのダメージか!? お、お前本当に人間か!?」
「ん? 人間だけど?」
そう言い俺は右手をドラゴンに対して構える。
もう少しドラゴンとのじゃれあいを楽しみたいが、早く終わらせよう。
アルデとの戦い以来俺の魔力も体力もかなり上昇している感じがする。
ドラゴンの攻撃も上級魔法で対処できるのは魔力が多いからだろう。
今なら何が来ても倒せる気がする。
「じゃあ、これで終わらせようか」
右手に魔力を集中する。
ドラゴンは火属性に強いと自分自身で言っていたが、俺の魔法なら効くと先程証明されている。
だが、今は確実な方がいい。
アルデの得意魔法であり、本日3度目の魔法。
魔力の高鳴り。気温が下がり空気が凍る。
「お、お前! その魔力量は!! くっ……!」
ドラゴンが魔力を見て叫び何かを構築しようとしている。
しかし関係ない。
それすらも一撃で倒せる様に魔力を集中していく。
「す、スノハラ! 早く撃つのじゃ! そうでないと……!」
そんな時に離れているアルデが大きく叫ぶが、
「ん? 大丈夫一撃で終わらせるから」
そこまで焦る必要はない。俺が倒せると確信しているんだ。
なら、最大魔力の方がいい。
「スノハラ!!」
よし、溜まったな。
「ああ、これでいけるぞ!」
「『封魔結界』!」
魔法を放つ前に声が聞こえたが無視する。
「永遠に凍れ! 絶対零度!」
そして俺の魔法が放たれ……
……なかった。
「は、はははっ! 間に合ったか!」
む? 発動に失敗したか?
魔法の失敗は初めてなんだが。「大賢者」があるのにおかしい。
まあ、仕方ないもう一度。
「絶対零度!」
しかし魔法は放たれない。
「す、スノハラ……」
「はははははっ! これで何をやっても無駄だ! この空間にいる限り誰も魔法は使えないからな!」
アルデが口を紡ぎ、ドラゴンが高らかに笑う。
……は? 魔法が使えない?
「……どういう事だ?」
「この「封魔結界」はアンチ魔法結界だ。我が指定した範囲内で魔法は使う事が出来ない! 我も使う事ができないが、お前の魔法を封じる方が重要だ! はははっ! これでお前も終わりだ!」
「あ、アルデ……そうなのか?」
「……そうじゃ。じゃから妾は早く撃てと言ったのじゃ。あれだけ待たせたら結界の構築は終わってしまう」
アルデが真剣な顔で言う。
「妾がこいつを苦手な理由が唯一魔法が通用しなくなる相手だからじゃ!」
「それを先に言っておけよ!」
その言葉に俺は叫んでしまった。
「す、すまぬ。妾も頭に血が上っていたからのう……」
アルデが素直に謝った。
「はあ、仕方ないな。魔法は諦めるしかないか……」
「そうじゃ、魔法は諦めるしかないのじゃ……」
俺とアルデはそろってため息をつく。魔法が使えなくなるのは少し痛いのだが、仕方ない。
「なんだ……何故お前達はそこまで余裕の顔をしている?」
「ん? だってお前を倒せるのは魔法だけじゃないからな?」
「……は? なんだと! 魔法以外に私を倒せるだと!? いや、しかしお前は武器も何も持っていないでは……」
「ふふっ! 武器ならここにあるぞ?」
そう言って空間に手を入れようと……。
「…………あれ? アイテムポーチ! ……あれ?」
発動しなかった。「アイテムポーチ」が、全く空間が動かない。
「スノハラ、まさか……」
「……え?」
アルデが呆れた声で叫ぶ。
もしかして……いや、もしかしてもないのかも……。
「どうした何をしている? アイテムポーチも魔法だ。使えるわけがないだろう!」
「なっ……!?」
そうだよ! アイテムポーチも魔法だ! だったらその中に入っている「傲魏」は出せないじゃないか!
ちょっと待って! じゃあ今の俺って武器無しか!?
「なんだ? 武器はアイテムポーチにでも入れていたのか? はははっ! だったら残念だったな! どれほど強かったか知らないが、武器がないならその力も出せないだろ!」」
「いや、武器はあるぞ?」
俺の馬鹿な行動に安心した様に笑うドラゴンに、グレイバルトが声を挿む。
「……まさか、グレイバルト! お前っ!」
「勇者! これを使えばいい!」
そしてグレイバルトが俺に向かって剣を投げる。
「ナイスじゃ、小僧!」
空中を舞う赤い刀身の剣「煉獄」が俺に向かって飛んでくる。
「ふっ! いいことするじゃないかグレイバルト!」
安心だ。これで武器ありで戦える。ついでに「煉獄」は一度使ってみたかったからな。
そして飛んでくる「煉獄」を掴もうと俺が手を伸ばした瞬間。
「させんぞ! 来い!「煉獄」!!」
あと少しの所、俺の目の前で赤い刀がドラゴンの方に吸い寄せられていく。
「あれ!?」
「あ……」
「なっ……!?」
そしてドラゴンの手の中に収まる。
その光景に俺たちは固まる。
「はははっ! 残念だったな! お前らの唯一の武器が私の手の中にあるぞ?」
「な、なんでお前の方に飛んでいったんだよ!」
俺はその異様な出来事に突っ込んでしまう。
「どうしてかだと? 当たり前だろう。元々この剣は私達ドラゴンの物だ。ただそいつが昔に盗んで行っただけだ。だから私もそいつと戦っていたわけだが……」
「……そうか、だから毎回オレと戦いに来ていたのか……!」
その言葉に俺だけじゃなくて、グレイバルトも驚いている。
いや、なんでお前も驚いているんだよ!?
「当たり前だ! お前と戦うのは楽しいが、この剣を奪い返すのが第一の目的だ!」
「てっきりオレと戦いたいだけだと……」
「魔王様!? まさか、わかっていなかったのですか……?」
「ジェミラ、お前はわかっていたのか!?」
なんだかわからないけど、グレイバルトとジェミラが驚きあっている。そう言うのはこれが終わってからにしてくれ。
「さて、そう言う事だ。お前勇者なんだな? それほどの強さなら、お前を倒せば箔が付くわけだ! 魔法も使えない、武器もないお前など恐れるに足らん!」
まあ、今の俺は武器無しだからな、そう見えるだろう。
「あれほどの強力な魔法を使えることには驚いたが、アルデミスと同様に魔法は使えなくすればいい。そして、武器も常に携帯していなければここぞという時に使う事はできない! はははっ! 全て私の方が一手先を読んでいたようだな!」
武器は常に携帯する、普通は当たり前だ。
でも「傲魏」は身に着けていると魔力やら精神力やら吸い取られてしまうから、身に付けたくないんだよな。
「これでお前の勝ちは無くなった! 人間離れしたお前の強さには驚きはしたが蓋を開ければそれぐらいのものだ。さて、このまま戦うのか勇者よ! 我の勝ちは見えているぞ!」
武器もない、魔法も使えない。ならどうするのか?
決まっている、何もないなら身体がある。
俺は何も構えずそのままの状態でドラゴンに向かって歩いていく。
「はははっ! 構えもせず、無言のまま近づいてくるとは。戦う気力がなくなったのか? 素直に負けを認め、殺されにきたのか?」
「……」
「スノハラ……?」
「……お兄さん!」
「そうか。なら一思いに殺してやろう! 『竜王の断爪』!」
ドラゴンの爪が俺に向かい振り下ろされる。
その鋭利な爪が俺を一撃で殺しにかかる。
……はぁ? 俺が、これぐらいで殺されるわけがないだろ!
「『四豪連鬼』……」
俺は迫りくるドラゴンの爪に対し冷静に構える。
「『初撃・撃砕』!」
そして迫りくる爪に右拳を当てる。
その一撃は全てを砕く。
その瞬間、ドラゴンの爪が爆ぜた。
「……っ!? ぐおぁぁぁぁぁ……っ!!」
「……えっ?」
「……なにっ!?」
「なんじゃそれは!!」
ドラゴンが左腕を押さえながら叫ぶ。
「……な、なんだそれは!」
「『瞬動』」
一瞬でドラゴンの懐に潜り込む。
「おまっ……」
「『中撃・砕破』!」
その勢いを乗せたまま真上に蹴り上げる。
砕いた一撃は全てを破壊する。
「ぐぉぉぉぉ……っ!!」
蹴りの勢いで、ドラゴンが宙に浮く。
「『上撃・破断』!」
地面を蹴りもう一度ドラゴンを真上に蹴り上げる。
破壊した一撃は全てを断ち切る。
「ぐがぁぁぁぁ……っ!!」
俺は地面に降り立つがドラゴンは勢いよく真上に吹き飛ぶ。
「『縮地』」
そして一瞬でドラゴンの上に回り込む。
「……ガァァァァッ!! 食らうかぁぁ!! 『竜王の逆鱗』!!」
ドラゴンの尾による上段回転縦払い。
だが、避ける必要はない。
その攻撃ごと撃ち抜く。
「『奥撃・断滅』!」
最後の一撃は全てを滅する。
「ごっ、ぐごぉぁぁぁぁ……っ!!!」
右拳でドラゴンの尾ごと真上から地面に向かって突き刺す一撃。
勢いを殺す事なくドラゴンは地面に激突した。
そして俺も近くに降り立つ。
手応えはあった……のだが、やはりドラゴンはまだ倒れていない様だ。
「……ガァァァァッ!! はあ、はあ、はあ……」
ドラゴンが起き上がる。
「ちっ。仕留め切れないか」
俺は今ので倒し切れなかった事に舌打ちをする。
まあ、初めて使った「拳王」の能力でここまで出来たら上出来だろう。
次は「拳聖」の能力を使ってみるか。
「……な、なんだこの威力は……!! どういう事だ!? 何故魔導士の貴様が「拳王」の技を使える!?」
ドラゴンが振り絞った声で俺の異様さに声を荒げる。
まあ、それに返す言葉は決まってるんだけど。
「俺が最強だからだ」
「どう言う事なのじゃ!」
間髪入れず俺の言葉に突っ込んだのはアルデだった。
……ドラゴンではなくアルデに突っ込まれるとは。
「「魔導王」とか「大賢者」あと「剣聖」も俺が使える理由は俺が最強だからとしか言いようがない。だから「拳王」が使えるのは最強だからとしか言えない。一応「拳聖」の能力も使えるけど?」
説明しても嘘だと言われる可能性もあるし、うまく伝えられる自信もない。
後でアルデとユリアにはしっかり話すつもりだけど。
「……わ、わからん……。 今聞いた妾が馬鹿だった。其方は見えにくいからのう……。まあ、今はそいつをどうにかする方が先決じゃな……」
アルデが考えることを放棄したところ、俺はドラゴンに向き直る。
俺の4回の攻撃によりドラゴンの身体はすでにボロボロだ。
鋭く光っていた深紅を越えた赤黒い鱗は剥がれ落ち、全てを切り裂く爪は砕け散っている。
見るも無残な状態だった。
「はは……っ。そうか……これが勇者か……!」
満身創痍の状態で笑うドラゴン。
俺の攻撃は効いていたのだとわかる。
あのかっこよくて強いドラゴンが此処までの状態になっているとは、感慨深い。
「じゃあ、終わりだ」
アルデにいわれ、止めを刺すためにドラゴンに近づく。
これで終わりだと誰もがそう思っている中か、ドラゴンだけが何故か嬉しそうに笑っていた。
「ふっ、はははっ、はははははっ! ここまで私にダメージを与えるとは今までにない衝撃だ! 魔法だけでなく拳だけでこの強さ。今までに会ったことのない得体の知れない強さ。あの父上以上の強さを秘めている可能性。そして、まだ奥の手がある発言。つまりまだお前は本気でないわけか。強い……これが圧倒的強さ! 誰も寄せつけぬほどの力。やばい、やばすぎるぞ!」
……えっと、なんか急に流暢に話し始めたんだけど……。
「ドラゴンとは常に孤高の強き生物。巣立ったあとは自分の親と戦い縄張りから追い出される。そして強さを求め世界を回る。故郷に戻る為には最強の力を手に入れて自分の親を倒すしかない。親を超える事によって認められそこから始まるのが世界一の強さの探求。すべての生物の頂点に立つために生きるのがドラゴンの生涯。ただ単に強さを求めるのみ!」
「……お、おーい? ちょっと……」
俺が声をかけようとしても話し続けるドラゴン。
さっきまでそんなに喋ってなかっただろ?
「勝つことが正義であるが、負けることは悪ではない。自分より強いものがいることはまだ己が弱いと言う事! つまりまだ強くなれると言うことだ! だから我は非常に興奮している!」
「いや、だから……」
この時点で俺の歩みは止まっている。
喋るドラゴンの圧が凄い。
「つまりわかるか勇者よ! 我はここまで追い詰めたお前の強さを認めている! 小細工はもちろんの事、魔法や武器も使わず瀕死の状態までダメージを与えたこと、我はとても感動している!」
「いや、褒められても……って、今から俺はお前を……」
「まだ我は強くなれる! お前を見るとわかる! それの意味がわかるか、勇者よ!!」
「いや、だからわからないって……!」
いや、マジ何言ってるのかわからないんだけど。強さだけを求めるって……今の俺は串カツを求めているのだが……。
「いや、お前ならわかるはずだ! その強さを求め、磨き上げてきたのなら!」
全く磨き上げてないのでわかりません。なんかすいません。
本当にあなたの言っている意味がわかりません!
「だから、何が言いたいんだよ!」
「そうか、言葉にして欲しいのか! わかったぞ!」
そして、ドラゴンの空気が変わった。
えっ? なんかこれはやばい気が……。
「つまり我をお前の弟子に……いや、下僕にしてくれ!」
その言葉に空気が凍り、ただドラゴンの言葉が天井のない魔王城にこだました気がした。
ドラゴンが下僕って、強かったらなんでもいい。強くなれれば何でもいいってのが、ドラゴンです。
背中に乗りたい。




