幕間 串カツを作りたい!②
「八百屋のおっさん! 本当に助かりました!」
「いい、いい。金は払ってくれたし、若い奴の商売は応援したくなるからな! 頑張れ!」
「ありがとうございます!」
気前よく俺の肩を叩く体格の良い八百屋のおっさんに俺は頭を下げる。
今俺は屋台街にいる。そして準備した物は油と鍋。
つまり、俺は串カツを作る事に成功したのである。自分で言ってはなんだが地元人が作る串カツは美味い。
この世界で俺に勝てる串カツニストはいないだろうと言えるぐらいに自信がある。
だからこそ、勝負しようとしている。
「しかし、兄ちゃん。その道具で何を始めるんだ? まあ、この屋台街で食べ物は何でも売っていいんだが、そのセットは……鍋か? 昼間から鍋って、初めてにしちゃぁ冒険しすぎじゃねーか?」
「いいんですよ。まあ、見てて下さい。度肝抜きますから」
「度肝抜くって……なにしでかすつもりだ……」
そう言いながら俺は「アイテムポーチ」から機材を出し始める。
「「アイテムポーチ」の魔法か……。それ便利そうだな?」
「便利ですよ。何か運ぶものがあったら言ってください、運びますから。ここを貸してもらったのは本当に助かりましたからね」
「そうか? じゃあ、そう言うなら今度頼むわ」
「はい」
はっきり言って屋台街に店を出すのは大変だった。
1番は場所が無かった事だ。屋台を出すエリアは決まっているから、俺が入る余地がなかった。
そこで一軒一軒お願いして回った結果、この八百屋のおっさんが良いと言ってくれたわけだ。
あれは本当に嬉しかった。
「おお、見てて楽しいな。簡易だが、厨房が出来ちまったよ」
簡易だが焜炉を完成させる。
まあ、火が出て鍋を熱せる様にすれば良いだけだからな。ガスコンロがあれば楽なんだけどな。
そして、材料を並べていく。
まずは肉と野菜。卵に片栗粉にパン粉。そして油を鍋に入れる。
「はあっ!? 兄ちゃん、鍋に油か!? そんな大量に入れてどうするんだよ!?」
「見てて下さいって」
油を入れた鍋を火にかける。
鍋に油を大量に入れた事に驚く八百屋のおっさん。
ここではこの料理が珍しい筈だ。
揚げ物はあるにはあるのだが、大体が素揚げだ。それも下準備に使う事が多いらしく、大量の油を使うことや衣という概念は少ないらしい。
見たところこの街では揚げ物は売っていなかった。
俺が行けるレベルの食事処では素揚げやソテー、ムニエルはあったけど、パン粉をまぶして揚げる料理は主流ではなかった。ギリあったカツレツっぽいものでも「とんかつ」には及ばないものだったから。
もちろん屋台街には無い。
「これぐらいかな?」
熱された油に混ぜた衣を垂らす。パチパチと良い感じに弾ける音がする。
その音を聞き今までの記憶が蘇る。
ここまで来るのに金はかかった。今までコツコツ貯めた全財産を注ぎ込んだ。
まあ、全財産をと言っても1週間ぐらいガチで雑用した金だけど。
「さて、これを揚げますか!」
「あ、兄ちゃん……一体何を!?」
そんな八百屋のおっさんの声を背に、串に刺さった肉に片栗粉と卵とパン粉をまぶし、油に投入する。
「……っん!!」
そして弾けだす油。
揚げ始めた串カツは、視覚、聴覚、嗅覚に激しく作用する。
「な、なんだ、この香ばしい匂いは!?」
「ふふっ……」
にやける。ヨダレと笑いが止まらない。
良い感じに狐色になってきた。
タイミングを見計らう。
「……ここだ!」
そして、串を油から取り出す。
やばい、良い匂いだ! 待ちきれん!
「ごくりっ」
喉が鳴る。
味付けは塩と胡椒。胡椒は高かったが、串カツに金は惜しまない。
ソースがないのは仕方ないが、無いならまた作ればいい。
油を切った串カツを目の前に掲げる。
「ふふっ、あははっ。完璧だな、これ!」
「……お、おい。兄ちゃん、それ……」
八百屋のおっさんの声が聞こえる。しかし、俺の目は揚げたての串カツしか見ていない。
「いただきます!」
そして、串カツを口に入れ、噛む!
「……んんんんんっ!!」
噛んだ瞬間に聞こえるザクッとした食感。それに続き溢れ出す旨味が閉じ込められた肉汁。噛めば噛むほど解ける肉。
味付けもただの塩胡椒だけなのに、肉の脂の旨味と交わりいい塩梅になっている。
そして、飲み込んだ瞬間の熱。胃に落ちたのにまだ余韻が残る旨味。
「うーーめぇーーー!!!」
その美味さに勝手に俺の口が叫ぶ。
これだ! この味だ! これが俺のソウルフード! 串カツだ!
良かった、あの時この油に出会って、本当に良かった!
まだ、最高傑作には程遠いが、これでも充分美味い!
「お、おい、兄ちゃん……う、美味そうだな……!!」
俺が串カツの余韻に浸ってると、八百屋のおっさんが話しかけてくる。
見ているのは俺が食べている串カツだ。
「それは、なんなんだ!? 香ばしく食欲をそそられる匂いは!? しかもあんなに美味そうに食べられたら……ごくりっ」
「ははっ! これは串カツだ! 俺のソウルフードであり、世界に好まれるソウルフードだ!」
「クシカツ? そんな食べ物聞いた事ないがないが……すまん! 俺にも食べさせてくれないか!!」
そう懇願する八百屋のおっさん。
ふっ! この串カツの匂いからは逃げられないのが人間だ!
俺は串カツを愛する人間は拒まない。
「いいですよ! 二本揚げてたんです! どうぞ!」
「お、おお! ありがとう。では、いただくぞ」
八百屋のおっさんが串カツを口に運ぶ。
「熱いので気をつけて下さい」
「ああ……熱っ!! ……っ!! う、美味い!! な、なんだこれ! ここまで凝縮された肉の旨味の塊は!! 初めて食べだぞ!」
その串カツの味に目を見開き、激しく語り出す八百屋のおっさん。
「当たり前ですよ? 串カツですからね!」
串カツは美味い。一般常識だ。
「それに、これもどうですか?」
「……これは?」
「玉ねぎです」
串カツを食べ終えた八百屋のおっさんに新しい串を渡す。
「た、玉ねぎ? 玉ねぎも同じようにしたのか!?」
「はい。騙されたと思って、食べてください」
俺はぐいっと串揚げを持つ手を口元に向かう動作をする。
「あ、ああ……。あむ……っ!! な、なんだこれは!!」
八百屋のおっさんが玉ねぎの串揚げを食べた瞬間絶叫した。
「こんな玉ねぎ食った事ねえ! まだ、ほのかにシャキシャキ感が残っているのに、生で食べるより甘くて、美味い! 玉ねぎだが、玉ねぎじゃないみたいだ!!」
「ふっ! これが串カツ、そして串揚げです!」
「クシカツにクシアゲ……」
八百屋のおっさんの美味さに戸惑う顔……。
「これは、勝てるな!」
この瞬間俺は確信した。これは売れると!
「んー? あれ、おにーさん? こんな所で何してるんですか?」
「本当ですね。お兄さん。クエスト受けずに何しているんですか?」
そんな確信を得たところ、目の前にエミリとユリアが通った。
「おっ、エミリにユリア! いい所にきたな! よし! お前らも食っていけ!」
エミリとユリア用の串カツを揚げ始める。
「えっ、なんですか? 食べていけって、なにを……ん? 良い匂い?」
「んんっ! 良い匂いだね! 何してるの?」
「これは串カツを揚げてるんだよ。美味いから少しだけ待ってて!」
「クシカツ……?」
そして串カツを揚げ終え、エミリとユリアに一本ずつ渡す。
「さあ! 食べてみてくれ!」
「……えっと、これは初めて見ますね」
「だね。でも、香ばしくて食欲をそそる美味しそうな匂いがするよ?」
初めて見る串カツに戸惑うユリアと、好奇心で串カツをまじまじと見るエミリ。
「熱いから気をつけてな」
「いただきまーす! あむっ!」
「あっ! エミリっ!」
エミリが躊躇なく食いつく姿にユリアが止めようとするが、遅かった。
「あっつー! けど、美味しい!! これ、美味しいよ!」
「えっ!? 美味しいんですか? この茶色いものが……」
「うん! ザクザクの食感に中からじゅわーっと肉汁が出てくるの! 食べた事がないよ!」
その串カツの美味しさに饒舌になるエミリ。
「だろ? 美味いだろ? そりゃ、串カツだからな!」
エミリの言葉にドヤ顔になる。
「さあ、さあ、ユリアも食べてみ? 美味いぞ?」
「そうそう。ユリアも食べてみ?」
「……なんですか、その口調。まあ、美味しそうな匂いですし食べてみますけど。……あむっ……っ!! 美味しい!」
ユリアも続き美味しそうに目を見開く。
「でしょー?」
「これは、塩胡椒だけですか? 他に味付けは?」
「してないぞ」
「……これだけでこの味。普通油で揚げると油っぽくて食べにくいのですが……この衣が美味しいんですね?」
「おお、良いところに目をつけたなユリア。そう、串カツは衣が命。まあ、本当はまだ未完成なんだが、それでも充分に美味い。ってことで、売れると思うか?」
「うん! 売れると思うよ! さすがおにーさんだね!」
「……エミリの言う通り売れるでしょうね。この串がいいです。食べ歩きしやすそうで」
「そうだろ、そうだろ?」
俺はその言葉に満足そうに頷く。
「って事で、もう少し食べていくか? 特別にタダにしておくぞ?」
「ホント!! やった! じゃあ3つください!」
「ちょっと、エミリ……まあ、私も頂けるなら」
「はははっ! 了解! ちょっと待っててくれ!」
エミリもユリアも串カツの美味さに負けたようだ。
少し多めに串カツを揚げる準備をする。
そして揚げ始めた瞬間叫ぶ。
「さあ、いらっしゃーい! 俺の故郷の名物、串カツだ! 外はザクザク、中はジューシー! 一度食ってみてくれ!」
その言葉に歩いている通行人がこっちを見始める。それに加えて、
「んんっ! 美味しい! やっぱり美味しいね!」
「そうですね! ちょっと止められないです」
美味そうに食べる少女に釣られて興味が向き始める。
「なんだ、なんだ?」
「なに、凄くいい匂いなんだけど?」
「おっ! 美味そうだな!」
「なんだこれ? 初めて見るな? でも、美味そうだ。一つくれないか」
「美味しそうですね。私も一つ頂けないでしょうか?」
「はい! 毎度あり!!」
そして集まる人たち。
エミリとユリアがいい感じに広告になったわけだ。
「んっ! 美味いぞ!」
「美味しい!」
「こっちの野菜も美味しいよ!」
「初めて食べる味です!」
嬉しい言葉が飛び交う。
はははっ! 素晴らしい、上々だ!
そして今から巻き起こる串カツ旋風。
そして、俺の串カツは飛ぶように売れた。
つまり俺は、異世界で食べ物チートを成し遂げたのである。
串カツ話終わり。
食べ物チートって言ってもまだまだですけどね。
次から2章開始です!
1日開けます。すみません。




