20話 串カツのスライム
「いらっしゃーい! 揚げたての串カツですよー! もちろん野菜もありますよー! 隣の八百屋で好きな野菜を買えば、なんと! 半額で揚げさせて頂きますよー!」
「野菜も美味いが、肉も美味いのじゃ! おっ其方、食べて行くのじゃ!」
「お嬢ちゃん元気だね! じゃあ、肉5本とこの野菜でいけますか?」
「毎度ありなのじゃ! スノハラー肉追加じゃ!」
「おう! 毎度ありー!」
そんな感じで串カツ、串揚げの売れ行きは最高である。
「おっ? 嬢ちゃんも手伝いか? 頑張ってるなー。じゃあ俺も串カツセット一つ貰おうか!」
「アルデちゃん、私も満腹セット貰おうかな」
「アルデちゃーん、こっちもいいー?」
「アルデちゃん可愛いよ!!」
「毎度ありなのじゃ!」
一番の驚きはまともに接客をしている幼女、もといアルデミスだ。あの黒のローブを脱ぎ、町娘の格好をさせて、今や串カツのアルデちゃんとして、かなりの人気者になっている。
あの元魔王でエルダーリッチーが今や串カツを売ってるとか、誰が想像できようか。
「スノハラー、満腹セット追加じゃ!」
「おう! 毎度ありー!」
あれから数週間経ち、俺の店も大きくなった。八百屋の隣の空き場所でさせて貰っていたが、しっかりと隣に屋台を持った。そして、屋台の前には軽く食べれるように椅子と机まで置くレベルだ。もうそろそろ店舗も構えられるんじゃないかと思えるぐらいの売れ行きである。
あの祭り以来串カツが飛ぶように売れる。商売人としてはうれしい事である。
「アルデー、これ持って行ってくれー!」
「わかったのじゃ!」
そして串カツを売って、1日が過ぎていく。
◇
「今日も上々の売り上げだなー」
暗くなり人通りが少なくなって来たので、屋台の中を整理しながらお金の計算をする。
「そうじゃの! 妾のおかげじゃな!」
胸を張りドヤ顔で言うアルデ。
「まあ、お前のおかげも少しはあるかもなー」
「少しどころではないのじゃ!」
そう言って胸を張る幼女。
いや、売ってる串カツをつまみ食いしているから少しだろう。
「よし、スノハラ。今日も串カツを食べるぞ!」
こいつは昼も夜も串カツで飽きないのだろうか。
しかし、今日は俺も串カツである。とっておきを用意している。ついにアレが完成したのだ!
「わかった、ちょっと待ってろ。お前に特別なものを食わせてやろう」
そして俺は厨房から500ミリリットル程の壺を取り出す。
「なんじゃそれは?」
「これは串カツの真髄だ」
「串カツの真髄……じゃと……?」
そう言いながらまじまじと壺を見るアルデ。
そこで俺は質問を投げかける。
「なあアルデ。串カツは美味いか?」
「ん? 何を言っておる? 美味いに決まっておろう? これを妾に食わせたことは感謝しておるぐらいじゃ。そうじゃな、勿論これだけでも美味いぞ? しかし妾はトマトソースがお気に入りじゃな」
そう満足そうに言うアルデに対して俺は否定をした。
「ふっ、わかってないな」
「む? どういう事じゃ?」
俺の言葉に少し顔を歪めるアルデ。
「串カツとは何かわかるか?」
「串カツとはじゃと? ……ふむ、肉か?」
「ふっ、わかってないな」
「なっ……!?」
否定する言葉に不満な顔になるアルデ。しかし俺は続ける。
「串カツは美味い。そのままでも美味い。お前の言う通りトマトソースをつけても美味い。しかしそれは邪道だ」
「な、なんじゃと……!?」
自分が上手いと言ったトマトソースを邪道と言われて驚きと不満が入り混じった顔をする。
「トマトソース……。まだ俺がひよっこの時に作った、奥様受けをどうするか考えた苦肉の策だった。苦肉の策……そうただの繋ぎだ」
「ただの……繋ぎ、じゃと……?」
その言葉にアルデは驚きを隠せていない。
「幼女よ、もう一回聞くぞ? 串カツとは何だかわかるか?」
「そ、それは……こ、衣か?」
「ふっ、違うな。お前はまだわかっていない」
「な、なんじゃと! 妾が揚げた串カツは其方にも引けを……」
「はあ、そんなことを言ってるから、まだ一人前の串カツニストにはなれないんだ」
「なっ!!」
「ちょっと待ってろ」
揚げていた串カツを手に取り、持っていた壺の蓋を開ける。
「わかっていないお前に答えを言ってやる。ここに揚げたての串カツがここにある。そしてこれに……漬ける!」
「なっ、何を……!? な、なんじゃそれは!? その黒い液体はっ!?!?」
その行動に驚くアルデ。
「ふっ。まだわからないのか?」
「ご、ごくりっ……っ!?!? こ、これは……!? なんじゃ! この甘酸っぱいが香ばしさを強調させる何とも食欲をそそらせる匂いは!?」
「ほらよ? 食えばわかる。二度付けは……禁止だぜ!」
俺は黒い液体を付けた串カツをアルデに渡す。それを受け取ったアルデは待ちきれないとばかりに串カツにかぶりついた。
「あ、あむっ…………っ!!!!!!!! う、う、美味いのじゃぁぁぁぁぁっ!!!」
アルデの歓喜の声が夜の屋台街に響き渡る。
「なんじゃこれは!? 今までの串カツも美味かったが、これはそれ以上に心を、魂を掴むほどの美味さじゃ!! 甘み辛み酸っぱみが程よく絡み、様々な旨味を凝縮させた濃厚な味。それがガツンと来る肉の脂の旨味と合わさり、この串カツを最強の、最高の一品に仕立て上げて……!! 美味い、美味すぎるのじゃ……!!」
そのままアルデは口の中の旨味に敗北し、その場に崩れ落ちる。それもとてつもなく幸せそうに。
「そ、其方……これは、これは何なのじゃ!?」
「これが串カツの真髄……串カツの全てと言ってもいい唯一無二の液体。ソースだ!!」
「こ、これが……ソース……!?」
初めて見た液体に敗北した幼女が口の端についていたソースを舌で舐めとり幸せそうな顔になる。
これで串カツ人生は勝ちと言ってもいい。いや、ここで満足する俺ではない。そして、その場で幸せそうに崩れ落ちている幼女に声をかける。それも大事な事を。
「で、ここからが本題だ。実は俺一人ではこのソースを作れる量は決まっている。大量に作ることができないわけだ」
「う、うむ……」
「そこで、大量に作るにはお前の力が必要になるだろう。つまり、わかるよな?」
その言葉に起き上がる幼女。
「ふっふっふっ! わかるぞ、わかるに決まっておろう! 妾の繊細な魔法操作技術が必要なのじゃろう!!」
そう。こいつは元魔王にして最強の魔法使い。魔法操作はかなりの技術で、エグいほど凄い。アルデは串カツを揚げる時も魔法を使っている。効率よく作るのでかなり助かっている。
「わかっているなら話が早い。ここからの俺たちは今まで以上に運命共同体だ! そう! 串カツ同盟だ!」
「ふっ。串カツ同盟か! 良かろう! 妾と其方でこの串カツを世界に羽ばたかせようぞ!」
満面の笑みで握手をする。今ここに、幼女と青年による串カツ同盟が結成したのであった。
「さて、今からこのソースの大量生産だ!!」
「おーなのじゃ!!」
そして、その串カツ、いや、ソースは馬鹿売れしていく。
◇
「ソース! 串カツはソースだー!」
「ソース自体は売ってないのですか!?」
「俺もソースが欲しい!」
「ソースは非売品です! ここだけでしか食べられません! あっ、そこ! 二度漬けは禁止です!」
「二度漬けは禁止なのじゃ!」
人がソースで叫ぶ。
「くそっ! 何で二度漬けは禁止なんだー!」
「だったら串カツをもう2本追加で!」
「いや、ソースの味を楽しむには肉だけではないぞ! 野菜だ! 野菜を生で頼む!」
「な、なんだと! そんな食べ方が!! キャベツ、キャベツをくれー!」
「アルデちゃん可愛いよー!!」
うるさいぐらいの売れ行きである。
ちなみに隣の八百屋の野菜も爆発的に売れている。
「スノハラー、ソースは売らないのか?」
「そうだな。まだ今は売らない。商売はタイミングだからな!」
そんなたわいも無い話でもにやけてしまう。ソースは後々売り出すが、売り出してしまうと作り方は速攻でわかってしまうだろう。今はまだ、この街の屋台で売れるレベルでいい。
「さあ、どんどん串カツを売ってソースを浸透させるぞ!」
「おー、なのじゃ!」
「お兄さん、凄い反響ですね?」
アルデと話していた処に、知っている声が久しぶりに聞こえた。
「……ん? おっ! ユリアじゃないか! 久しぶりだな!」
「久しぶりなのじゃ! お菓子はあるか?」
「はい、アルデちゃん」
「ありがとうなのじゃ!」
アルデにお菓子をあげるユリア。
幼女が餌付けされてるよ……。
って事で、やっとユリアがやってきた。あの魔王撃退祭以来会っていなかったわけだ。しかし、今日顔を出したと言う事は……。
つまり、ついに報酬を貰える日が来たのだろう!
「でも、ユリアだけで来るのは珍しいな? ちょっと落ち着いたのか?」
「そうですね、少し落ち着いたと言いますか……」
「……もしかして俺に報酬があるとかか?」
待ちきれず本題に入ってしまった。
しかし、ユリアの答えは思っていたのとは違った。
「……すみません。エミリも私もそうしたいと言っているのですが、国としてはケンジ様達が勇者であり、魔王を撃退したとなってしまっていて、国からの報酬は出ないことに……。すみません……」
「なる程なー……えっ? どういうこと!?」
全く意味が分からなかった。
勇者は健治だからそう考えるのが一般的だとはわかる。実際俺の戦いは誰にも見られていないわけだし。しかし全く報酬が貰えないと言うのは……。
「……すみません。私達も、ケンジ様もお兄さんに功績があると話してくださったのですが、王はケンジ様一択で何も聞いてくれませんでした。他の騎士達もケンジ様が撃退したとばかり……。あの場でお兄さんが魔王を吹き飛ばした瞬間を見た者は殆どおらず、ケンジ様が倒したのだと……私達の話を全く信じませんでした。目撃者が言ってもおかしいとの一点張りで……特にお兄さんだと伝えれば、その場にいたギルド長までも否定をしてしまって……」
「どういう事だよ……?」
意味が理解できなかった。
功績は俺にもあるとエミリ達が言っても信じられないって? まあ、スライムに負ける俺ならそう言われるのも納得するが、目撃者が殆どいないっていうのもおかしい。割と派手に吹き飛ばしたぞ? 俺じゃなくて、健治がしたって? どう見間違えをしたらそうなるんだよ?
「何度も言いましたが……すみません」
「いや、ユリアが謝る事じゃ無いけど……」
ユリアが頭を下げて謝る。
それを見て少し申し訳ない気持ちになる。
「すみません。だから、今日は報酬の話じゃないんです。この事も話す予定でしたが」
「じゃあ、今日は何の用事だったんだ? 串カツを食いに来たわけでもないだろ?」
「なんじゃと!? 串カツを食いに来たのではないのか!!」
「お前は黙ってろ! 新作のソースがそこにあるから舐めてろ!!」
「なんじゃと! 良いのか! ソースを舐めても良いのか!!」
「マイソースにしたら舐めてもいいんだよ!」
「やったのじゃ!!」
そう言って置いてあったソースの壺を取ったアルデは蓋を開け指を突っ込み幸せそうにしていた。
串カツの事しか頭にない幼女はここで排除である。
「で、なんの用事なんだ?」
「はい。実はですね……これはエミリと共にお兄さんが強いと認めているからこそのお願いなのですが……」
おお、やっぱりユリアとエミリは俺を強いと認めてくれてるわけか。この前確信してるって言ってくれたしな。
「……魔王討伐の依頼を受けていただけないでしょうか?」
なんとも本格的な依頼が来てしまった。
これで1章本編終わりです。次は幕間、串カツを作るためのお話です。




