1話 異世界と神様①
「知らない天井だ……」
……全く見覚えがないんだけど。
ある日目が覚めたら真っ白な空間だった……って、そんな事あるんだろうか。
しかも……、
「全裸って……」
顔を少し俯けるといつもなら来ているはずの服が見当たらない。
……全裸で大の字で寝てるって、意味がわからないんだけど……。
どういう状況なら全裸で寝てる事になるんだろうか。
いや、この前だって起きたら天井が青空だったし。よくあるのかもしれないよな……。
「いや、あるわけないだろ!」
そんな自分の考えに冷静にツッコミを入れる。
普通に考えてそんな事がよくあってたまるか。
しかし、それは置いといたとして、
「……で、何なんだここは?」
とにかくこの状況を把握しようと、寝転びながら首を動かす。
把握すると言っても見えるのはただの真っ白い空間ってだけだ。つまり、情報が少なすぎて何も把握しようがない。
それに、ふと思うと、ここに至るまでの直近の記憶が……ない。最後の記憶が……たしか、無人島に数人で遭難してたところまでか……?
はっきり思い出せないな……。
「……まあ、仕方ないか」
無理やり思い出そうとしても思い出せるわけでもない。後々思い出すだろう。
それよりも、今の状況を把握する方が先決だ。
なぜなら、この状況は……なんとなくだけど……。
「異世界転生……の可能性」
が高い。
あの状況からこの状況。青い空から白い空間。繋げるとその可能性が高いと思う。
いや、何を繋げたらって感じだけど、見たことが無い空間で、白くて、わけがわからない。
結論、あり得ない状況に出くわしているわけだ。
なら、異世界転生だと認識してもいいと思う。
まあ、転生というよりは、転生前の神様のいる空間ってやつだろうか?
「……ん?」
そんな事を考えていると周りの景色が徐々に変わり始めた。
白い空間に淡い水色の神秘的な光が差し込み、それと共に目の前に高級そうな椅子と、何というか安そうな木のイスが現れる。
「……なんだろな」
何が起こるのかと体を起こし見ていると、高級そうな椅子の周りには豪華な家具が現れる。
多分今から神様が現れるんじゃないだろうか?
まあ、木のイスの方は相変わらず、ポツンとそれだけが置かれている。多分それには俺が座る事になる気がする。
もう少し気を配ってくれたら嬉しいけど、相手が神様だとすればそれぐらいの差別は区別の範囲内だ。仕方ないから受け入れよう。
もしかしたら優しい女神様が来てくれるかもしれないしな。
そこで、今の状況を考えると……。
「……待て、待て! 女神様なら全裸はちょっとな……! 服を着ないと!」
寒くも暑くも無い良い温度だけど、現代人は服を着たい。それも、女神様と会うなら尚更だ。俺にだって羞恥心はある。
少しの混乱の中、そんな変わっていく光景を見ていると、
「来ていたか……」
上から低く歳めいた声が降ってきた。それと同時に目の前が青白く光る。
「あー、すまん、すまん、遅くなった」
そんな言葉と同時に目の前の高級そうな椅子に白い髭を生やした、如何にも神様な爺さんが座っていた。
「……」
その瞬間俺のテンションが少し下がった気がした。
女神様と期待していた分「まじかよ」と心の中で叫ぶ。
でもまあ、仕方ない。誰も来るのが女神様って言っていたわけじゃない。
しかし、この爺さんは神様だよな。
豪華な椅子に座っている爺さんは、神様が着るのに相応しい豪華な服を着ている。しかし、それが何故かとてつもなく嫌らしく感じる。これ見よがしに高級な装飾品を着けていて、成金……いや、成神様みたいな感じだ。
「……ふわぁぁぁ」
「……」
何というか、こんな爺さん神様なら、今の俺の状況でも羞恥のかけらも生まれない。
「おぬしが「スノハライサム」……あー、「春原勇」じゃな?」
欠伸をしながら俺の名前を言ってくる神様らしき爺さん。
なんでだろう? 神様登場ってもうちょっとテンションが上がる気がするんだけど、全く上がってこない。
あれか? 棒読みで、面倒くさそうにしてるからか? 全く態度が好きになれないんだけど。
ああ、女神様がよかったな。
「そうですけど、俺の名前を知ってるって事は、貴方は神様で間違いないでしょうか?」
「……はぁ? 何を言っておる? どこからどう見ても神にしか見えんじゃろ! この素晴らしい家具に服、純白の髭に鋭いも慈愛がある目! 如何にも神様じゃろ! 儂を見てわからんとは……あれか、馬鹿なのか?」
両手を広げて自分を見ろと言う様に示す神様。
なんだこいつは、勝手に怒ってるんだけど? うざい、一言目からうざいんだけど。怒ってる時点で慈愛とか感じないんだけど。
まあ、神様が登場した瞬間から、俺の事を見下している感あったよ。俺を見てなかったし、欠伸もしてたし。そりゃ、相手は神様だし、俺は全裸だし、仕方ないかもしれないけどさ。
……はあ。でも今のところは下手に出た方がいいだろう。あくまでも神様だからな。
「すみません。ちょっと質問しただけなんですが……」
「ふんっ、そんな質問をするなど、本当に人間は頭が悪い生き物じゃ! 鬱陶しい!」
……は? えっ……そこも怒るところなんですか? 沸点低すぎません?
「だからこの仕事は嫌なのじゃ! あの大神がいなかったらこんな事しとらんのにのう! 人間など関わりたくもないわ。とくに男なんて尚更じゃな、女がよかったぞ! 女が!」
ん、んん……? なんか、かなり威張ってるんですけどこの神様。愚痴も言い始めるし。
そんな事言ったら俺だって好きで全裸でここにいるわけじゃないんですよ?
「はあ……、面倒くさいのう……」
そして神様が足を組む。
……はあ。俺が想像していた神様とは違うな。神様だし失礼ない様にと思っていたけど、ここまで態度が横柄だとこっちも取り繕う気がなくなる。もういいか。
「そーなんですか、俺だって爺さんより美人の女神様の方が良かったですよ。まー、貴方が神様って事は分かりましたけど」
俺は耳をほじりながら話す。
「そうか、わかればいいのじゃが……なんじゃその態度は! 人間如きが失礼ではないか!」
「すいません、元々こんな感じなんで」
人間如きがって、ちょっと言い過ぎなんじゃないですか? そりゃ神様にしたら人間なんてミジンコみたいなものだろうけど?
あー、イライラしてきた……。
「ふん! 生意気すぎる! なんじゃ! この空間でおぬしを消滅させられないのがもどかしい! 傷つけることすらできないとはの!」
「……えっ?」
そいつが発した言葉に一瞬固まる。
「貴様なぞ、消滅するレベルじゃ!」
……は? 消滅って……えっ!? ちょっと待ってっ!? 怖! 怖すぎるんですけど!
「ふん、嫌な空間じゃな!」
お、おお……今、できないって言ったよな!?
良かった。まじで焦ったぞ。
「ふん! まあよい。人間がまともに話せるわけ無いしのう。とにかくそこに座れ。ちょうど良いイスがあるじゃろ?」
そう言いながら神爺……いや、ジジィは安そうなイスに座るように俺を促す。
一瞬怖いと思ったが、傷つけられないなら別に態度を変える必要はない。この短時間で馬鹿にされすぎた。フラストレーションが溜まる一方ですよ。
まあ、疲れたしとにかく座ろう。このジジィの言う事を聞くなんて癪だけど。
「儂も時間がないのじゃ。さっさと終わらせたいので話を始めるぞ。……おぬしなのじゃが、先ほど死んだわけでこれから異世界に転生してもらうことになる」
「はぁ、はい」
唐突に始まったな。
でも想像通りだ。この部屋に神様。転生要素はかなり詰まっていた。それと、やっぱり俺って死んでたんだな。
「ほう、驚かないのか。今思うと儂が登場した時も驚いておらんかったし、常に落ち着いとるのう。なぜじゃ?」
「え? まあ、なんとなくですけど? なんか問題があります?」
「いやいい、興味はなかった。それより、おぬし本当に儂を舐めておるのう! まあよい、人間如きにまともに話せと言っても無駄じゃ。まったく、大神がこんな設定にするからいけないのじゃ。人間など腐るほどいるのじゃし、大神が見込みが有る奴を勝手に連れて来たらいいのにのう」
そう言って、ジジィは優雅にコーヒーぽい物を飲み始める。
一服してずにさっさと話して欲しいんだけど。それとさっきから出てくる大神が気になるんだけど?
「で、問題あるんですか?」
「ん? いや、ないぞ。ただ儂の仕事が早く終わるだけじゃな。そう考えればマシな方かのう」
やっぱ仕事なんですね。
あっ、これ匂い的にコーヒーだ。俺も飲みたいな。しばらく飲んでないしなー。
「ふう、さっさと終わらせるぞ。これから儂は用事があるのでな」
そう言いながら口をつけたカップを机に置く。
用事があるから終わらせるって……俺にとってはかなり重大イベントなはずなんですけど。これからの人生を左右するんだけど。
いや、俺死んだから今の人生何も無いわけだけど。
「はぁ……どーぞ」
俺は話しやすい様に促す。俺もさっさと終わるには越した事がないし、このジジィにイライラが上昇している。
「ふんっ、一回しか言わぬからしっかり聞くのじゃ! おぬしは異世界にそのまま転生する。もしくは元の世界で記憶を消して赤子として転生するかになる。本当は選んでもらうのじゃが、強制的に異世界転生にする。決定事項じゃ!」
決定事項ですか……えっ? 選択肢あったのに選べないんですか……。じゃあ、話さなかったら良いんじゃ……。
まあ、元の世界に未練もないからいいんだけど。記憶があるなら異世界転生の方が楽しそうだからな。
「転生かー」
「転生と言っても、おぬしの元の体を回復させてそのまま異世界に持っていくわけじゃから、肉体はあるし、転移になるんじゃがな。まあ、そんな事はどうでもいいのじゃ。話を戻すぞ。とにかくその異世界には魔王がおって人間を襲っておってじゃな……」
「で、その魔王を倒せばいいんですか?」
「……その通りじゃが。儂の話を遮るのではない、鬱陶しい!」
へー、魔王討伐ね。パターンだな。
「その魔王どもを倒して人間世界を平和にしてほしいのじゃ」
「わかりました」
早口だったが、異世界モノの王道パターンだからわかりやすかった。
「む? やけに物わかりがいいのう? いや、馬鹿すぎて返事しかできんのか」
ははは? ちょっとそれはかなり失礼じゃないですか? 仏の春原さんと言われていた俺も怒りますよ。
「今からおぬしの後ろにある扉から行ってもらう。もちろんすべてのステータスは初期値じゃ」
「……ん? うおっ!」
その言葉で振り向くといつの間にか後ろに扉があり、開いていた。……中が光ってるよ。
ちょっとワクワクする。異世界って感じだよ!
「ふん! 儂としては今すぐにでも出て行ってほしいのじゃが……」
……えっ? このジジィは全裸で異世界に旅立てと言っているんですか? 無理ゲーじゃないですか? だったら、赤ん坊でもいいので元の世界に戻してください!
「……ここのルールで、おぬしに能力を授けて送り出す。この意味が馬鹿なおぬしでも、わかろう?」
「っ!!」
まじですか!!
その言葉に俺は180度態度を変える。
「本当ですか、神様! 俺……いえ、わたくしに力を授けて頂けるのですね! ありがとうございます!!」
その場に跪き頭を下げた後、手もみしながら、擦り寄る様に神様に近づく。今なら素晴らしい笑顔が出来てる自信がある。
「な、なんじゃ急に! 気持ち悪い! とにかくこのカードの中から欲しいものを1枚選ぶのじゃ。このカードはおぬしの適性に応じておる」
そう言う神様から数十枚のカードの束を渡される。
「ありがとうございます!! ああ、神様! 貴方に出会えてわたくしは幸せでございます!」
「お、おお……気持ち悪い……。まあ、よい。ほら、さっさと選ぶのじゃ」
「ありがたき幸せ!」
俺はカードを掲げながら、拝むように頭を下げる。
能力がもらえると聞いて俺も現金なものである。
そりゃ、能力もらえるってなると、へりくだるよね?
本日の昼頃に②を投稿します。




