表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/91

15話 アルデミス

魔王が幼女になりました……。



「しかし、妾がまだ生きてるとは……」


 俺の目の前で小さく……いや、幼くなった魔王が自分の身体を見ながら呟く。


「……アレを耐えれるとは思わなかったのじゃが。生きてると言う事は耐え切ったのか……さすが妾じゃな! 「不死の魔王」の名は伊達ではない!」


 黒の服に覆われながら、ぶつぶつ言ってる黒髪黒目の少女……いや、幼女だ。袖に腕を通そうとしているが全く通せずに顔だけ出ている状態だ。


「しかし、思う通りに身体が動かん」


 小さくなりすぎて元々着ていた服もまともに着れないのか、顔を出して以来、ずっともぞもぞしている。


「……」


 しかし、どういう状態なんだこれ? あの魔法で倒せなかったのは驚いているが、そんな事よりも今目の前にいる縮んでしまった魔王……いや、奇妙な幼女をまじまじと見てしまう。何故幼女になっているんだ?


「む? なんじゃ、何を見ておる! こんな無防備な状態で妾に攻撃せんとは……。情けをかけてるつもりか?」


 いや、何も情けとかそう言うわけじゃないけど、小さくなってる事に驚いてるだけなんだけど。


「ふっ、それが油断なのじゃ! この時点で妾の勝ちは見えたのじゃ! 魔法の構築の時間はたっぷりあったからのう!」


「……」


 こんな状態でも戦おうとするなんて、考えていなかった。しかし、そんな幼女な魔王の言葉に危機感は感じない。

 幼女な魔王がその場で立ち上がり、両手を上に向ける。服が大きいからか全くその手が見えてないんだけど。


「ではさらばじゃ! 極大ま……!?」


「ん?」


 自分の身体に違和感を持っているのか、言葉に詰まる幼女魔王。しかしもう一度魔法を放とうとして……。


「……極大魔ほ、う…………ばたっ」


 倒れた。

 魔法を撃たずに倒れた。

 まあ、はっきり言って魔法を放とうとしても魔力を感じなかったから危険視はしてなかったが、倒れるとは……。


「……おーい、大丈夫かー?」


 中身はアレだが、見た目は幼女だ。少し気にかけてしまうのは人間の本能である。

 俺が掛けた声に反応してうつ伏せ状態のままの魔王がかすれる声で反応した。


「……ま」


「……ま?」


「……魔力と体力が、ない……じゃと……。ばたっ」


 手を前に突き出し顔を上げ、振り絞った声を出し、もう一度倒れる。

 何がしたいんだ……。

 

「……くっ、なぜじゃ。妾はエルダーリッチー。「不死の魔王」にしてアンデットなのじゃ。体が動かないことなど今までになかったのじゃ……。魔力が減っている貴様なぞ、すぐにでも消滅できるはずなのじゃ! 少し待っておれ!」


「お、おう……」


 かなり威張っているが、この言葉も地面に顔面を付けながら発している。この姿に誰が見ても恐怖は感じないだろう。どう見ても五体投地だ。


「か、体が……動かん……」


「はぁ……」


 その幼女魔王の行動に俺は右手を額に当て空を見上げる。

 わけがわからない。あれだけ威厳があった美人のリッチー姉さんが、幼女になってしまった。どういうことなのか全く理解が追い付かない。

 しかし、こいつは魔王だ。幼女の姿になったとしてもさっきまで戦っていた「不死の魔王」である。倒すべきだろう。

 そう考えながら俺は右手を幼女になった幼女魔王に向ける。


「き、貴様何をするつもりじゃ! こんな弱っている娘に止めを刺すつもりか!?」


 さっきと矛盾することを叫んでいるが、聞かないことにする。

 えっと、リッチーだから普通の魔法は効かないから、神聖魔法の回復魔法を使うしかないか。こいつも弱っているみたいだし、極大魔法じゃ無くても倒せるだろう。


「おい、おい貴様! ちょっと、ちょっと待つのじゃ! やめ……」


「『ハイ・ヒール』!」


「ぬあぁぁぁぁぁっ!」


 そして俺は盛大に魔力をぶち込んだ中級回復魔法を幼女魔王に放った。


「ぁぁぁぁぁぁ」


 その魔法は、きれいな黄緑色の光を放ちながら幼女魔王を癒し始める。


 …………癒す?


「……ぁ?」


「……あれ?」


 魔法の効果が終わり光が消える。しかし、幼女魔王は消滅していない。それどころか、元気になっているようにも感じる。


「わ、妾に回復魔法は攻撃なはずなのじゃが……。なぜか、力が漲ってくるのじゃ!」


 幼女魔王が手を握ったり閉じたりしている。

 いや、待って? こいつってリッチーだよな? なんで回復魔法が回復魔法になってるの!? さっきまで「ぐぁぁぁぁ!」って言ってたよな!?


「ふっ、うれしい誤算じゃ! これで少しは体力が回復したみたいじゃな! これで貴様に近づける!」


「ちょっとまっ……!」


 そこまで距離がなかったが、幼女魔王がその場から飛び上がり、俺にしがみついた。


「おまっ、何して……!?」


「『生命吸収』!」


「なっ!!」


 そして俺から力を吸い取っていく。


「ほう! 流石最高の勇者じゃ! 少なくはなっているが、普通よりも豊富な魔力に体力。精神力まで多いのじゃ!」


「……くっ!!」


 触れられている所から異常な速度で力が吸い取られていく。


「ふははははっ! どんどん妾の力が回復していくぞ!」


 このままじゃやばい! 俺の力が幼女魔王の力となって、もう一度反撃されることになる。何か、何か対処法を……!


「これで形勢逆転じゃの、勇しゃぁぁぁぁぁっ……!?」


「『生命吸収』!」


 俺も幼女魔王に触れ「大賢者」の能力で今使われた魔法と同じ魔法を使う。


「なっ、なっ、妾の力がぁぁぁぁ……すわ、吸われ、る……。ばたっ」


 吸われた力を吸い取り返し、幼女魔王はその場で再び倒れる。


「……呆気ない幕切れだった」


 額の汗を拭い幼女魔王から手を離す。ちょっと焦ったが「大賢者」は偉大である。


「「生命吸収」じゃと……? 貴様が何故使えるのじゃ……妾の力を奪いよって……妾の力を……」


 地面に向かい叫ぶ幼女魔王。いや、その魔力とか元々俺のだから。返してもらっただけだから。


「くっ、無理じゃ……動けん……」


 それにこいつは色々な魔法が使えるし、油断すると形勢逆転れてしまう可能性がある。ここでどうにかしないといけないだろう。


「……ん?」


 ふと周りを見渡すと、元々こいつが倒れていた所に何か光っている物があった。

 気になりそれに近づき拾ってみる。


「これって……なんだ?」


 それは禍々しく黒色に光る野球ボールより少し小さいぐらいの球体。


「ぬなっ! そ、それは!?」


 俺の声に反応したのかうつ伏せで倒れていた筈の幼女魔王が顔だけ上げて叫んだ。


「ん? 知ってるのかこれ?」


「知ってるも何も! それは魔王玉じゃ! 魔王になる為の物じゃ!」


 ……魔王玉? ほう?


「……それより、何故それがそんな所にあるのじゃ!? それは妾の中にあるはず……っ!?」


「……へぇー」


 その瞬間、俺の口角が思いっきり上がる。


「なる程な。つまり、今のお前は魔王ではないというわけか」


「……っ!? ま、まさか……!」


 ……はっきりはわからないけど、これは魔王になる為の物でこの幼女魔王の中にあったわけだ。それが外にあるって事は……。


「今の妾は魔王ではない、と……。か、返すのじゃ! それは妾の……!」


「ふんっ!」


「ぬなっ!?」


 手に握っていた物を真上に投げる。そして。


「『死の斬撃』!」


 手に握っていた「傲魏」による「死の斬撃」で木っ端微塵にした。


「ぬあぁぁぁぁっ!?!?」


 木っ端微塵に砕け散った魔王玉らしきものがパラパラと落ちていく。

 そして幼女魔王はそのカケラを涙目になりながら呆然と眺めていた。


「わ、妾の……まお……」


 絶望の顔をする幼女魔王……いや、こいつはもう魔王ではないのか。


 そして俺は幼女に見えないように本当の魔王玉を「アイテムポーチ」にしまう。

 ちなみに投げたのはただの石ころだ。あんな状態であの角度なら何を投げたかわからないだろう。もしかすると、この魔王玉って何かに使えるかも知れないから、貰っておこう。


「……ん?」


 幼女の方を向くとうずくまっていた。うつ伏せの時点でうずくまってるという表現はおかしいが、そう見えるので仕方ない。かなり堪えた様で、動かなくなっている。

 ついでにそれに追い打ちをかけるように、俺は思っていた質問を投げかける。


「なあ? ふと思ったんだがお前って、今もリッチーなの?」


「……っ!?」


 幼女の顔が跳ね上がりこっちを見る。


「……り、リッチー……じゃ……」


「回復魔法で回復するリッチーって……もうアンデットじゃないよな?」


「な、なっ! そ、そんなわけ……」


 幼女が狼狽え始める。


「なあ。リッチーって元々人間なんだよな? 最強の魔法使いって言うし?」


「……う、うそじゃ……そんなわけ……そんな事が……」


 ぶつぶつ呟き始める幼女。もう一押ししてみる。


「実はさ、さっきお前が抱き着いてきた時、温かかったんだよなー。人間みたいに」


「……」


 顔を上げたまま固まる幼女。まあ、俺もこれはあり得ないと思うけど、これしか考えられないからな。


「そう考えると今のお前は生きてるってことだよな? つまり俺の「完全蘇生」で文字通りアンデットから蘇生しちゃったとか?」


「なっ、なっ……」


 ゆっくりと幼女の目が大きく見開く。


「つまりお前はもう、リッチーじゃないって事だ」


「う、うそじゃぁぁぁっ! そんなわけ、そんなわけ、あるわけなかろう!!」


 俺が最後の言葉を言った途端、幼女が絶望した顔で叫び始めてしまった。


「残念だが、これが現実だ。幼女よ」


「よ、幼女じゃないわぁ!」


「小さくなってしまい、魔力もなく動く事も出来ない、ただの幼女が叫んでも何も怖くない。むしろ可愛いぐらいだ」


「くっ……。貴様なぞ魔力が戻れば……」


「魔力がって言ってもなーリッチーは魔力が枯渇しないはずだし、やっぱり人間だよなー。それも幼女の戯れにしか聞こえんし。かわいいかわいい」


「人間ではない、人間では……。妾はエルダー……えるだー……りっ……りっ……」


 わからないが、地面に顔を伏せたまま動かなくなってしまった幼女。……嗚咽が聞こえるんだけど……。ちょっと可哀そうに思えてきてしまった。


「……うっ、うっ……」


「……」


 あり得ない出来事で困惑するのはわかるが……最強のリッチーがガチ泣きするとは……。

 しかし、元魔王だが見た目が幼女だとそれは反則である。幼女を泣かせているとか大人としてエグイ。こんな所を誰かに見られたら即逮捕されてしまうぐらいにやばい……。どうするべきか……。


 そう思考を巡らせていた時、


「ぐるるるるるっ……」


「……ん?」


 何かが鳴った。

 大きな音で聞き覚えがある音が。


「ぐるるるるるっ……」


 もう一度鳴った。そう、幼女の方から。


「……は」


「……は?」


「腹が減ったのじゃ……」


 こんな時でも腹が減るのが人間なのだろう。つまり、こいつの体は自分が人間だと認めてしまったわけだ。


「はら、が……」


 その幼女を見て懐かしい思い出が蘇る。食えなかった日々……遭難して10日目以降。食べるものも何もなく、木の実も魚も捕れない日々。草を食べたら腹を壊すがそれでも食べるものはそれしかない。何もなかった無人島を……その光景が……。


「はぁ……」


 腹が減るのはな……ちょっとな。アメーバー食ったら大変だしな。


「腹が減りすぎて……全く動けん、のじゃ……」


 口は動くが、体は動かない。そんな目の前で倒れている幼女。子供には救いの手を差し伸べてしまう。それはやはり前世の国の性だと思う。


「……仕方ないな」


 俺は「アイテムポーチ」から間食に食べようとしていた串カツを出す。


「……食べるか?」


「っ!!」


 その芳ばしい匂いに釣られたのか顔を跳ね上げる幼女。


「よ、良いのか……?」


「おう。いいぞ?」


「っ!!!」


 幼女最後の力を振り絞って起き上がり串カツを掻っ攫った。

 なんか道端で捨てられていた猫に餌をやる気分みたいだ。

 ちなみに串カツは保温に適してる袋に入れてたから、まだ少ししか冷めていない筈だ。まあ、俺の串カツは冷めても美味しい。お持ち帰りは確実だからな。


「あむっ……」


 そして魔王は串カツにかぶりついた。

 その瞬間、幼女が目を見開いた。


「……んんんんっ!? な、なんじゃこれは! 美味い! 美味いのじゃ!!」


 満面の笑みを見せる幼女。これがあの魔王と思えないほど、子供らしい良い笑顔だ。


「あむ、あむっ! ごくんっ! ぬ……」


 その一串を一瞬で頬張り、残った串を眺める幼女。


「美味かったか?」


「美味かったのじゃ! しかし、まだ妾の腹は……っ!!」


 俺はもう一本……いや、持って来ていた数本の串カツを見せつける。


「なっ、なっ……」


「食べたいか?」


「……た、食べたい! 食べたいのじゃっ!!」


 一串を食べて少し元気になったのか、全力で頷く幼女。しかし目は串カツから離れていない。

 そして俺はにやりと口角を上げる。


「いいぞ、いいぞ! でもその代わり……」


 幼女が俺が持つ串カツに手をかけ、


「……俺の言う事は聞いてもらうぞ?」


「……っ!?」


 俺の手越しに串カツを握りながら固まった。



   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ