14話 「不死の魔王」②
相殺された魔法は衝撃波も出さず、目の前で消えた。
「ふっ、ふはは、ふははははっ! 我の極大魔法をも相殺するか! 極大魔法を無造作に使っていただけあるという事じゃな!」
高笑いする魔王。
「妾は『不死の魔王』エルダーリッチーのアルデミス。それ故魔力が枯渇する事がないのじゃが、それに対応できる貴様の魔力は計り知れんな! 人族の若造と思っていたら足元をすくわれる!」
やっぱりリッチーだったか。
で、魔力は枯渇しないのか……って、はぁっ!?
まじか、これはやばいぞ!?
俺の魔力の限界がどれぐらいかわからないし、枯渇することが無いって永遠にこれが続くってことか!?
それはやばい。俺は魔力も剣技も使うのに限界はあるだろう。
レベルアップした事で少々の魔法や剣技を使っても限界は来ないだろうけど、魔力が枯渇しない魔王相手なら時間の問題になる。
どうにかして、勝てる糸口を見つけないと……。
「知っておるだろうが、妾には魔法が効かないのじゃが、剣技となるとのう……少し回復させてもらうぞ。『闇世の猛毒』」
魔王の周りに黒い霧が舞う。
回復って言ってたけど、全然回復って感じがしない。闇っぽい魔法で回復している……。
「妾の回復を待つとは、貴様も戦いたいのじゃな?」
何か言っているが反応はしない。
しかし、魔法が効かないなら剣技で倒すしかない。
少しのダメージでは回復されるから確実に一撃で倒す技しかない。
そうなると「死の斬撃」か「龍轟一閃」になる。
「じゃが、これでわかったであろう? 貴様が妾に勝てる術はない。魔法は効かん、剣技も知っておる。それも避けるか防ぐかすれば、すぐに回復ができるのじゃ」
その一撃だけで倒れるのか? 前の魔王も一撃では倒せなかった。連続で攻撃したから倒せたわけだ。
だったら今回も回復の隙を与えなければいい……ん?ちょっと待て、エルダーリッチーって、リッチーの上位互換だとしてもアンデットだよな……。アンデットって、神聖に弱い、はず……?
「ふっ、ここまで妾を追い詰めたのは褒めてやろう! 中々楽しめたぞ! 褒美に貴様の死体は妾の一番のアンデットとして使こうてやろう!」
試してみよう。
「次は避けれるレベルではないぞ! 妾が生み出したオリジナル魔法!」
魔王が俺に向かって手をかざす。
それに対して俺は魔王が放つよりも前に魔法を放つ。
「受けるが良い! 冥……」
「くらえ! 『ハイ・ヒール』!」
「ぬなっ!?!? ぐっ、ぐぁぁぁ!!!!」
その瞬間、黄緑色の光が魔王を襲った。
襲ったって言うより回復なんだけどな?
この世界の回復魔法は神聖魔法に属しているらしい。「だったら試してみる価値はある!」そう思い発動させてみたが、思っているよりダメージを受けている様だ。「ぐぁぁぁ!」って言ってるし。女性が発する声じゃない。
まあ、これでアンデットには神聖なパワーが有効なのだとわかった。
「ぁぁぁぁぁ……」
しかしそれだけでは魔王を倒しきれない。それは分かっている。
「……はあ、はあ、はあ。貴様、回復魔法まで使えるじゃと……」
これも全部、前の魔王……えっと、「剣魔の魔王」のおかげです。ありがとうございます。
しかし、魔王でも回復魔法が使えるとは意外だった。
「じゃが、所詮中級魔法! そのレベルの神聖魔法では妾は倒せんぞ!」
分かってる。ただの中級魔法で倒せないのは当然だ。
「ここまで色々と驚かされたが、流石に貴様もこれで手詰まりか?」
手詰まり? そんなわけないだろ。俺はチート能力者だぜ。
「ふっ! では勇者よ、楽しかったぞ! これで終わらせるとしよう! 冥……」
「手は詰まってない! 『完全蘇生』!」
魔王が魔法を使う前に魔法を発動する。
「なぁっにぃぃ!! ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」
さっきの黄緑とは違う、とても神聖な白い光が魔王を襲う。襲うって言っても回復なんだけどな?
「ぁぁぁぁぁっ」
この魔法は「司教」の一度しか使えない能力。死者をも生き返らせる神聖魔法。ただの回復魔法じゃない、この世界で最高の極大神聖魔法だ。
そして、さっきよりもひどい「ぐぁぁぁ!」だ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
見る見るうちに魔王が浄化されていく。
途中でキャンセルされた魔法ごと黒い霧の様なモノが天へ昇っていく。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ぁ……」
そして濃かった黒い霧も薄くなっていき、
「……」
とうとう綺麗な光となり、消滅した。
流石の「不死の魔王」でもエルダーリッチでも、死者蘇生の魔法は耐えきれなかった様だ。
「ふっ、これで終わったか」
そしてその場には魔王アルデミスが着ていたであろう黒い服の塊だけが残っていた。
「ふぅ、流石の俺も今回の魔王は手こずった。でも、「剣魔の魔王」以上に良い収穫が出来たのは良かったな」
魔王との戦いが終わり一息着くために、この戦いを思い出す。
うん、中々の戦いだった。特に色々な魔法を知れたのは大収穫だ。
最後のオリジナル魔法は見てみたかったが、魔王が使う極大魔法だ、死ぬ可能性があったと考えるとこれで良かっただろう。
しかし、驚いた事にこの世界には魔王が2人いたようだ。今回の魔王は倒せた様だけど、「剣魔の魔王」は倒しきれていなかったようだし。
それに、この世界に来てから魔王との連続で出会うなんて、ハードモード過ぎないか?
転移した場所に大抵ヤバいやつが居る。今思えば大きい移動は全て転移だし……。まともに歩いたのはこの街に入った時ぐらいだ。
ああ、今は普通のモンスターと戦いたい。ゴブリンとかオークとか普通のモンスターでスライム以外のモンスターがいい。
「さてと……」
魔王との戦いを振り返りながら、魔王が消滅した跡に向かう。
ただの黒い服だとしても魔王が着ていた服だ、割と良い能力がついてるかもしれない。
別にモンスターだとしても美女が着ていたから拾うわけではない。戦利品は頂く主義なのだ。
そんな事を頭で考えながら黒い服に手を伸ばそうとしたが、
「……ん?」
動いた気がした。
一瞬だけど、動いた様に見えた。
「いやいや、待てよ。この下に魔王の成れの果てが有るとか嫌だぞ? そんなグロいもの見たくないぞ」
成れの果てなら動くことなどないだろうが、何かありそうに感じる。
そんな想いを抱きながらも恐る恐る黒い服を取ろうとした瞬間、
「ぷっ、はぁぁっ!!」
「うおあぁっ!!」
その服から何が飛び出てきた。
「はぁ……アレはびっくりしたのじゃ……って! な、なんじゃ! 身体が縮んどる!? 動きにくいのじゃ!」
「えっ、えっ……!?」
その黒い服から顔が生えている……。
いや、まさかな。ないだろ、ない。可能性が……こいつがまさか……。
「ん? なに見ておるのじゃ、勇者?」
まじかこいつ。まじかよ……。
俺の頭の中はパニックだ。
「お、お前、さっきの魔王か……?」
「何を言っておる? 当たり前じゃろ?」
「……うわぁ」
その場には魔王が6、7歳ぐらいの少女となって目の前に座っていたのだった。