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11話 エミリとユリア②



「もうそろそろお金も貯まってきたし、渡したいんだけどなー……ん?」


 あれから1週間が経った。最近はエミリとユリアにいつもの場所でも合わないし、連絡もない。どこにいるんだろうか。


 そんなことを考えながら夕方の屋台までの小遣い稼ぎのクエストを終えギルドから出ると、何やら大通りの方が騒がしかった。

 門から近いギルドの建物から大通りは良く見える。


 気になり、近くにいた冒険者の男に声をかける。


「なあ、何があったんだ?」


「あ? って、なんだスライムさんじゃねーか」


 はぁ……その呼び名は俺の中で終わってるんだけどな。今は串カツのお兄さんだ。世間では常識だぞ。


「で、何があったんだ?」


「なんだよ、知らないのか? 勇者様が帰って来たんだよ。それもボロボロでな」


 へー、勇者が帰って来たのか。そう聞くとそこら辺から勇者について話している声が聞こえるな。


「おい、勇者様だって! 魔王討伐から帰ってきたってよ!」

「まじか! 今回は早いな。もしかして魔王を倒したとか?」

「いや倒せてないが魔王を瀕死の状態にしたみたいだぞ」

「あと一歩か、そりゃ凄いな。でも、勇者でも倒し切れないのか」

「それにかなりの深手を負ったらしいぞ。腕を一本失ったとか」

「まじかよ!? それはエグいな!」


 勇者の情報に耳を傾けていると、所々に俺の知っている勇者との共通点が聞こえてくる。

 まあ、魔王が死んでないってことは、違う勇者だろうな……ん? いや、あの魔王を確実に俺は仕留めた……のだろうか? 確認する前に転移したからな……。今思うとちょっと心配になってきた。


「おい、スライム! 勇者が広場にいるってよ! 見に行かねーのか? 俺は見に行くぞ」


 そう言って走って行く冒険者。

 広場にいるのか。どんな勇者か気になるし、俺も見に行ってみようかな。俺が知っているのはケンジって勇者だっけ?


 俺もこの街の中心にある広場に向かう。

 広場は門から伸びる大通りの中心地でわかりやすい。近づくにつれ徐々に人が多くなり騒がしくなってくる。


「んー、見えない」


 広場に着いたが人が多すぎて見えない。無理やり進み、何とか人込みを掻き分け最前列近くにたどり着く。

 中央で何かをしているみたいだ。


「勇者様とその御一行。今回は無事とは言い難いですが、魔王軍をほぼ壊滅状態にし、それに加え魔王を瀕死の状態にまで追い詰めたこと。本当に大儀でした」


「「「はっ!」」」


 目に写ったのはこの前魔王の所で会った勇者達だった。


「やっはりあの勇者か……ん?」


 しかし、その勇者に声をかけている人物が気になる。

 ちょっと待って? 聞いた事がありすぎる声が……。


「すみませーん、あそこにいるのって……」


 隣にいたおっさんに声をかける。


「あ? って、串カツのスライムさんじゃねえか。あんた、知らないのか? 勇者様だよ。あれだよあれ、あの3人組の剣士の方だ。実は魔法剣士らしいんだが……って、今は剣を持ってないみたいだが」


 俺の呼び名が色々混じってしまっているのは置いておこう。

 おっさんが指差す方を見る。もちろんそこには知っている顔の3人組がいて、勇者という事はわかった。

 でもそれじゃなくて、その勇者達の前に立っている2人の少女が気になる。っていうか、見たことがありすぎる。


「いや、勇者じゃなくて……」


 いやいや、あの2人が……? ないない! だって話し方もフランクだったし、2人で行動していたし、そこまで高価な服を着ていなかったし、俺にはお金を貸してくれるし、串カツ食べるし……。ないだろ。あいつらが……ないだろ……。


「あの勇者の前にいる2人の少女なんだけど……」


「……はあ? あんたこの街、いやこの国に居て知らないのか!? 王女様だよ、王女様! それに後ろの茶髪の女性は王女様の側近だよ!」


 ……ですよねー。あそこにいるって事はそうですよねー。

 やばい、俺ってかなり無礼な事してたんじゃないか? ……まあ、知らなかったことは仕方ないし、もし処罰を受ける事になっても、スライムをけしかけられない限り、逃げ切る自信はある。

 と言うか、エミリもユリアもそんな事はしないだろう。


 しかし、冒険者の格好をしてこの街を歩いてたのに、今まで周りの人間はどうして騒ぎ立てなかったんだろ? 王女様が冒険者ってありえないだろうし……いや、この国は王女様の冒険は当たり前なのかな? 勇者がいるぐらいだし、王道ファンタジーでは良くある事なのだろう。

 そんなことを考えながら見ているとユリアと目が合った。とにかく手を振っておこう。


「っ!?」


 ん? なんかすごい反応したな。驚きながらこっちを見ているし。なんだろ? あれか、こんな所で油売ってないで油で揚げてろってか? そういう事なら見せてやろうこの大金をな! ちょっとは貯まったんだぜ! 日本円で言うと30万円ぐらい! この1週間ぐらいで頑張っただろ? 本気で冒険者せずに串揚げ屋しようかと思っているぐらいだ!

 そんな感じで銀貨が入った袋をお腹の高さまで上げて指を指す。


「っ!!」


 ん? また驚いているぞ? 今度はユリアの驚いた声が気になりこっちを向いたエミリまで。とにかく手を振っておこう。

 また驚いてる。驚きすぎだろあの2人。そんなに稼いでいることに驚いたのか。そうだろ、そうだろ。俺も頑張ったんだぜ!


「あの、王女様?」


「……んんっ! いえ、失礼いたしました。では、その右腕と怪我はすぐに国最高の回復術士に治させましょう。それと報酬はどうなさいますか? お望みの物を差し上げましょう」


 へー、いいな。俺もお望みの物が欲しいな。武器と力はあるし、あとはー……金か。いや、ソースと醤油が欲しい。


「うれしいですが、実は先に謝りたいことがあります……」


「? どうなさいましたか?」


「実は、授けていただいた剣を無く……いえ、壊されてしまいました」


 へー、壊されたんだ……。そういえば、今のあいつは剣を持っていないな。まさか俺がパク……拝借させてもらったあの剣だけだったのだろうか。そうなると、壊されたっていうか……。


「なる程、今手元に無いのはそういう事だったのですね」


「はい。この右腕と共に……」


 ん? この勇者は何をきれいなことを言っているんだ? 右腕と共にって、魔王ともまともに戦えてないのに。俺がいなかったら死んでただろ。それに剣は俺に盗まれたんだろ。そして俺が壊したんだけどさ。


「そうだったのですか。まさか、あの宝剣が魔王に壊されるとは……」


 周りがざわめく。

 ……ん? ちょっと待てよ。あの剣って、俺が壊した剣って、宝剣だったんですか!? 


「すみません王女様。あなたから授けられた宝剣を失ってしまい、謝っても済む訳ではないと分かっているんですが……本当にすみません。どうしたらいいか……」


「大丈夫ですケンジ様。まさか宝剣が……と思う所もありますが、仕方ありません。武器はいつか壊れるものです。あの宝剣では魔王を倒しきれなかった、それだけです」


 うんうん、武器はいつか壊れるもの。俺が壊したからって、国宝級の武器を壊したからって、仕方ないことなのですよ。よし、絶対俺が壊した事は話さないでおこう。

 そう考えたらあいつもいい嘘をついたな。


「では、新たな武器を勇者様に授けましょう」


「あ、新たな武器ですか?」


「はい。実は今回わたくし達がここに来た理由の一つとして、勇者様に剣を授ける目的もあったのです。ユリアリア持ってきなさい」


「エミルアリス様、ここに」


 ん? ユリアリア? エミルアリス? 名前が違う……?


「勇者様、これもまたこの国に代々伝わる宝剣です。名前は「グランダム」。魔王を打ち倒すのに力を貸してくれるでしょう」


 健治はエミリから渡された剣を片手で器用に鞘から抜き、目を見張った。


「この輝きは! 本当にいいんですか!?」


「はい。勇者様が使う為に在るのが宝剣です。使ってください」


「ありがとうございます!」


 そう言い勇者とその一行はエミリの前で跪いた。エミリが王女様で、エミリじゃなくエミルアリスだったんだ。名前を変えてたのか。


「この剣で次こそは魔王を討ち取ってきましょう!」


 新たな宝剣を渡された勇者はやる気で左手を握っている。しかし宝剣って装飾が凄いイメージしかなかったけど、あの剣はまともそうな感じだな。

 いいな、俺も欲しいなー。でも、勇者の連れは少し渋い顔をしているけどな。どういう感情なんだろ?


 そんな事を思いながら話を聞いていると、ユリアが……いや、ユリアリアが話し始める。


「では、勇者様と御一行。少し移動しますが、王都へ向かいましょう。今回は勇者様が帰ってこられるとお聞きしたので、私達が迎えに上がりました。エミルアリス様の護衛もいます。申し訳ございませんが、あと少し勇者様御一行には動いて頂かないといけません」


 魔王と戦って帰って来た勇者を休ませずに移動させるなんて鬼畜ですね、ユリアリアさん。勇者達も「えっ?」って顔してるよ。


 あと貴方達、勇者のためにここに来てないだろ。この1週間で何があったかわからないけど、元々この街には冒険者の格好で来てたし、確実にお忍びだったよな? まあ今は立派な高級そうな衣装に着替えているけど。

 あっ、口ではそう言ってるのに罰が悪そうな顔をしてるユリアリアさんに、周りの騎士に常に見張られてるエミルアリスさん。ここから見てるとそういう構図だとわかるな。なる程、あの時逃げたのは騎士達からか。でも、捕まってしまったわけで……可哀想に。


「ご存じの通り王都までは馬で1時間程度で、襲われる事も無いと思いますが、王都に着きましたら最上のおもてなしを用意してあります」


「……っ!」


 あ、ちょっと勇者達の顔に生気が戻ったみたいだ。俺も付いて行きたいな。


 そんな感じで話を聞いているとエミルアリスと目があった。何か訴えかけたそうな顔をしているけど、なんだろう? 全然わからん。俺の能力に独身術は含まれてなかったし。まあ、何かあったら何らかの手段で連絡してくるだろう。命を助けてくれたから、お忍びぐらいは手伝ってもいいからな。


 でも、王女様にとって俺の価値なんてもうないか。暇つぶしみたいなものって言ってたし。スライムに負けるお兄さんだし、お金もあの金額なら大した事ないだろうが、借りたものは返すのが礼儀だし、これを渡して終了かな。

 エミルアリスは俺に伝わらないと分かったのか、俺から目線を外し勇者達に声をかける。


「では、勇者様参りましょう。ユリアリア」


「はっ! 皆のモノ。勇者様一行に盛大な声援と……」


 そうエミルアリスとユリアリアが勇者達に声をかけた時だった。


「……っ!!!!」


 遠くから激しく爆発音が鳴り響いた。


「な、なんだっ!?」


 その瞬間、


「っ!!!!」


 門の方から激しく、より大きな爆発音が響き渡る。

 そして勇者達の話を聞いていた人達も、俺もその方向を反射的に見る。


「おい」


 透き通っているが、生物の動きを止める様な威圧混じりの声が響いた。

 声の先、跡形も無く崩壊した門だった場所に何かが立っている。


「ここに勇者がいると聞いたが、どやつじゃ?」


 門からここまでの距離は遠い。

 しかし、そいつから発せられる威圧と声は目の前にいるように感じさせた。

 その声に一斉に全員が固まる。


「妾は魔王アルデミス。あの『剣魔の魔王』を瀕死にさせた勇者と、戦いに来た」




魔王登場! 

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