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10話 俺的異世界生活の始まり



 そして俺の異世界生活が本格的に始まった。

 これからの未来に想いを寄せ、異世界生活を楽しもうと思っていたのだ。

 異世界を楽しむと言ったら、冒険だ!

 エミリやユリアに冒険をするなって言われても一番稼げるのはモンスターと戦う事だ。俺はスライム以外には負ける要素がない。だから、直ぐにでも冒険で大金を稼げると思っていたのだが……、


「へい、らっしゃい!!」


 ……そう思っていたのだが、冒険をせずに、今俺は大通りの端で屋台を出していた。

 そして、串カツを売っている。


「さあ、俺の故郷の名物! 串カツだ! 一度食ってみてくれー!」


 そして串カツは飛ぶように売れていた。


 なんとも食べ歩きがしやすいのとザクザク感がいいらしい。

 初めて見る食べ物と言うのも注目される事の一つだろう。


 ……えっ? どうして串カツを売っているのかって? まあ俺も串カツを売るとか思ってなかったよ。でもそりゃ、串カツを作るための材料が目の前にあれば誰だって作るだろ? まあ本当は討伐クエストを受けられなかったからだが。

 俺はスライム以外なら倒せわけだけど、モンスターの討伐クエストを受付に持っていくと、あの受付のお姉さんに度々止められたわけで……、


「兄ちゃん、俺も一本くれ!」


「まいどー!」


 何度か挑戦しても討伐クエストを受けられない俺はついに諦めた。仕方ないから渋々街の中の安全なクエストを受けた。そして、数々のクエストと言う名の雑用を行ってきたが、ついにあるクエストに出会ってしまったのだ。


 そのクエストが、大量に購入してしまったという油の移動作業だった。


 あの量は衝撃だったな……普通では見れない量で、依頼者の顔も蒼白していた。「こんな量買うつもりじゃなかった!」って自分でも言ってたし。

 まあ全て運んだのだが、何の油なのか気になり最中に1つ樽を開けたところ、それがなんと質のいい植物性油だったのである。匂いと味が知っている油と似ていたのはラッキーだった。

 それにある人も言っていた「揚げると大体のモノは食べれる」と。油へピョーンだ。

 その瞬間俺のテンションは爆上がりだ。


「やべー! まじで美味いぞこれ!」


「ありがとうございます!!」


 じゃあ、油で揚げると言えば何だ? それは一つしかない! 串カツだ! 俺の好物でもあり、ソウルフードでもある串カツだ!

 見たところこの街では揚げ物は売っていなかったし、食事処でも素揚げやソテー、ムニエルはあったけど、パン粉をまぶして揚げる料理は主流ではなかった。ギリあったカツレツっぽいものでもとんかつには及ばないものだった。

 串カツはこの世界に存在しない。だったら作るだろ? 俺が食べたいだろ? 


 そして、作った。味付けは塩と胡椒。胡椒は高かったが、働いた全財産を使い諸々の材料を購入。ソースはなかったが、それだけでも十分美味かったわけで。このレベルなら売れると思い、屋台や露店がある通りのおっちゃんと話し、隣の空きスペースを貸してもらうことに成功。そして売り始めて、今に至るわけだ。

 ちなみに、味が薄いと思われる方には自家製トマトソースで代用。中でもやはり鶏肉や豚肉が人気だが、奥様方には野菜が人気である。


「熱っ! でも、出来立てが最高だな!」


「ありがとうございまーす!」


 隣の八百屋のおっちゃんが「そんなに油を使う料理は勿体ないな。俺じゃあ作れないぜ。あんた金持ちか?」って言っていた。

 その通り油は高いのだが、5000個もの油の処理は大変だろうと安く譲ってもらっている。はっきり言って相場の半分以下だけど、余るよりかは全然いいだろう。

 あのおっさんは油屋じゃないのに、初めての商売で油を仕入れた事が悪い。


 そして俺は異世界で食べ物チートを果たしたのである。ちなみに、ここまで来るのに油と出会ってから3日。異世界に来て約1週間。俺の行動力に驚きである。


「串カツ5本ください!!」

「こっちは野菜の串カツをくれ!!」


「少々お待ちください!!」


 ああ、儲けが出るのは中々楽しい。串を揚げる事がこんなに楽しいとは知らなかったぜ。


 そして今日も俺は串カツを売り、満足な1日が進んでいく。


 ……ん? なんか忘れている気がするが?




 路地裏で懐から金を出す。


「きょっ、今日はこれで勘弁してくださいませんか……」


 俺は目の前にいる少女にお金を渡す。


「はぁ……これっぽっちしか用意できなかったの? もっと働いてもらわないと、こっちも困るんだけど?」


 俺のお金を受け取り、ため息をつく金髪の少女。


「す、すみません! 次は持ってきますから。今日はこれでご勘弁を!」


「まあいいわ。次もこれぐらいだったら許さないから。わかった?」


「はいぃ!」


 俺は少女の言葉に返事をし、少女はその場から立ち去ろうとする。


「って、2人とも何してるんですか……」


 すると後ろから違う女性の声が聞こえた。


「えっ? カツアゲごっこだけど?」


「そうだよ? カツアゲごっこ、割と楽しいからユリアもやる?」


「やらないよ!」


 ……と、俺とエミリのやり取りに呆れたユリアがツッコミを入れた。


「はぁ、そんなどうでもいいことしてないで、仕事してくださいよお兄さん」


「そうですよ、おにーさん!」


「いや、ちょっと待って!? 面白そうだしやろっ! て言い出したのエミリだから! なんで俺が怒られてるの!?」


「そんなの関係ないよ?」


「関係あるから!?」


 と、冗談は置いておいて、ユリアが元々の話に変える。


「で、エミリ。お兄さんから今日の分のお金は返してもらったの?」


「もらったよー。今日の分と言わずにね。割とおにーさん稼いでるみたいだよ。ほら?」


 そう言ってエミリが俺がさっき渡したお金が入った袋をユリアに見せる。


「ホントだ。後は自分の必要分は残してるとしても、この金額は……稼いでますね。凄いですよお兄さん。あと少しで貸した額は返ってきますね」


「おお、そうか、そうか。もっと褒めてくれ」


 これも全て串カツが売れたおかげだけどな。この数日間で屋台の方の稼ぎは上々である。

 あと少しで出会ってから数日の食費と宿泊代は返せそうだ。


「噂は聞いてましたけど、やはりあの串カツって食べ物ですよね? 冒険者ではなくて食事処でもしたらいいんじゃないですか? ……まさか、もしかしたらこれがエミリが言ってた凄い事……?」


「その可能性はあるね」


 ドヤ顔で少し笑いながらユリアの疑問に答えるエミリ。

 もしこれがユリアの勘だったら残念過ぎるけど。


「まあ、串カツは売り続けるけど、冒険したいな、せっかくだからさ」


 そう冒険をする事を忘れていたのだ!

 異世界に来たらどう考えても冒険をしないといけないだろう。せっかく職業も「冒険者」なのだから!


「せっかくって……。まあ、私達が落ち着いたら一回ぐらいは一緒に冒険行ってあげますよ」


「おっ! それいいね、ユリア!」


「えー、俺は1人でも大丈夫なんだけどなー」


「「それは駄目!」」


 2人揃って否定される。

 いいさ、いいさ! 金が返せて貯まったら良い武器と防具を買って、勝手に冒険するから! 俺がこの世界に来たのは屋台をするためではないから!


「まあ冒険って言っても、おにーさんは大人しく付いて来るぐらいだけどね?」


「えー……」


 エミリに笑顔でそう言われると、従わないといけない様に思ってしまう。しかし、俺はブレない男である。絶対に冒険は……ん?


 話している途中だけどユリアが違う場所を見ている事に気づく。そしてユリアがエミリにこそっと耳打ちした。


「ちょっとエミリ、あれ」


「ん? どうしたのユリ……あっ……」


「ここまで来たみたい……」


「はぁ、今回は割と早かったね……」


「バレないって言っても、流石にここまで探しに来るのは……エミリ、逃げる?」


「もちろん。逃げるよ。あと少しだけ」


 エミリとユリアが路地を歩いていた女性を見て声を潜めて話す。

 逃げるって、何かあるのだろうか。


「すみませんお兄さん。今日はちょっとこれから用事がありますのでこれで。明日……も難しそうなので、また後日に。どうにかして連絡はします」


「あ、ああ。わかった」


「ごめんね、おにーさん。沢山稼いできてねっ! じゃあ!」


 エミリが手を上げて笑顔で言う。

 そんないい笑顔で言われるとお兄さんは頑張っちゃいます!


「おう、稼いだる、稼いだる! おにーさんに任せなさい! で、そっちもどこ行くかわからないけど気を付けて。何かあったら俺も頼ってくれていいからー」


「大丈夫でーす。この事でお兄さんを頼るなんて、ありえませんから」


「おにーさんは危険なことはしちゃだめだからねー。屋台は頑張ってね、私また食べに行くから」


「おー、来たら割引するぞー」


 そして2人は足早にこの場から去っていった。

 まあ、頼ってって言ってもまだ頼れるような大した事は出来ないんだけどな。魔王は倒せるけど。


 まあいいか。さて、今日は屋台は夕方からにするから、それまでクエストでも受けに行くか。もちろんクエストは冒険じゃなくて雑用なんだけど。



  

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