レッスン開始
18時55分。魁人と約束した時間の5分前に、ジャージ姿の芽依は魁人の家の前に着く。
チャイムを押そうとした瞬間、玄関から出てくる魁人を見つけると、大きな声で魁人を呼んだ。
「魁人くん!こんばんは!」
「ああ、いらっしゃい。もうみんな来てるから案内するよ。こっちきて」
そう言って芽依をスタジオまで案内する魁人。
その後ろをそわそわしながら着いていく芽依。
スタジオが近付くほどに高まる緊張。
それを知ってか知らずか、魁人は後ろの芽依にのんきな声で話しかける。
「あのさ~、さっきね。ロスヴァイセが来たんだけど、デイジーまた来た瞬間に私達と契約してスタジオ貸してよ!って言ったんだ。どんだけそのセリフ好きなんだよって思わない?」
「え、あ、うん。そうだね。ねぇ、今みんな何やってるの?ホントに私が混ざっていいかな?」
「大丈夫だと思うよ。みんな今日どう進めるか話し合ってたし。見学だけってことはないと思う。あ、着いたよ」
嘘は言っていない。藍那が全力で頭を下げた後、今日の練習メニューを変更せざるを得ないということで、急遽ミーティングを始めたのだ。藍那以外は。
「そうなんだ…。あ、ちょっと待って、1回落ち着かせて」
立ち止まり、深呼吸をする芽依。
それを確認すると、魁人はスタジオの扉を開けた。
扉の向こうにはストレッチをしているロスヴァイセ。
魁人たちの姿に気付いたアイリスが、2人に声をかける。
「あ、お疲れ様、魁人くん。…あなたが、さきがけくんの同級生?私はアイリス・メーテルリンク、よろしくね」
「は、はい!佐々木芽依って言います!よろしくお願いします!!」
「アイドル目指してるんだって?いつか一緒のライブに出られるといいね」
アイリスと芽依のやり取りを見ていた他のメンバーもぞろぞろと集まって、芽依はいつの間にかロスヴァイセに囲まれていた。
「おいっす。エリス・パンテオン、今日はどれくらいできるか見させてもらうな?」
「初めまして、かな?メリッサ・ネクタールです。わからないことがあったら言ってね?」
「…ルナ・アルテミス。無理はしないようにね?」
「昨日ぶりね。改めて、デイジー・ヴァルキリーです。今日はできる限り協力させてもらうわ」
ロスヴァイセから挨拶をされて、感極まる芽依。
感動でいっぱいの顔で再度挨拶をする。
「佐々木芽依です。みなさんの練習にご一緒できて、本当にうれしいです。今日は精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」
1度頭を下げて、顔を上げるとそこにはロスヴァイセたちの笑顔。
ああ、迎え入れてくれた。そんな幸せに包まれて、芽依は導かれるままスタジオの中へと入っていく。
「さて、もう運動できる服装みたいだし、すぐ練習始めましょ。まずは発声系トレーニングからやっていきましょうか」
「じゃ、みんな並べー」
「佐々木さんは私の横ね。こっちおいで」
エリスの呼びかけにみんなは鏡の前で横一列に並ぶ。
どこに立てばいいか、わからない芽依をアイリスが自分の横に来るよう促した。
本日の練習内容は、基礎に帰る。
ということでメンバーが毎日家で行っているトレーニングから行うことにした。
「えっと、佐々木さん。今から肺活量を鍛えるトレーニングなんだけど。腹式呼吸ってわかる?」
「あ、はい。音楽の授業で習いました」
「それを使って肺活量のトレーニングをするの。まずはエリスを見てて」
「それじゃ始めるぞー…」
エリスが息を吸う。すぅー、という音が静かなスタジオに響き、エリスの腹が膨らむととあるところでぴたりと止まる。
数秒の後、ふぅー、と息を吐き始め、エリスの腹がへこむ。吐き終わった後再びエリスの動きが止まった。
「背筋を伸ばして立って、ゆっくりと限界まで腹式呼吸で息を吸った後、5秒息を止めるの。そのあとまたゆっくり限界まで息を吐いて。吐き終わったら同じように息を止める。これを5回繰り返すの。じゃあやってみましょっか」
こうしてロスヴァイセと芽依のレッスンが始まった。




