…しらない
「いや、専用は無理だからね?たまに親父と母さんが使ってるし」
「うぐぅ!」
「ていうか俺のスケジュールも調整しないとダメなやつじゃん、これ。週何回使いたいのよ?言っとくけど、母さんに連絡したらいつでも使えるってのはナシだかんね?」
「ぐぬぅ…」
その言葉にこいつそのつもりだったな、となんとなく察する魁人。
しかしあえて口には出さない。代わりに口に出すのは疑問。
「そもそも、これって他のメンバーは知ってんの?だいたいこういう話ってみんなで来るか、アイリスさんと一緒の時にしか今までしてこなかったじゃん」
芽依のいる手前、あやめのことをあえてアイリスと呼んでおく魁人。
ちらりと横目で見ると当の本人は、うわー難しい話してる!と目をキラキラさせながら様子を見ていた。
「…しらない」
「じゃあ、今はダメ。最低でもアイリスさん連れてきて、こっちのスケジュールとのすり合わせができる状態になってからこの話をしよう」
「…わかった。私達明日ミーティングするんだけど、その時来てもいい?」
「明日何時?」
「19時から」
「わかった。明日は暇だし、開けて待っとく」
「ついでによかったら練習させてもらっていい?あの子も一緒でいいから」
そう言って、芽依を指さす藍那。
それを聞いて魁人は芽依に話しかける。
「…ということだけど、ささめさん。明日19時に家来れる?ロスヴァイセが練習一緒にどう?って誘ってくれてるけど」
「絶対行く!」
逢沢美優がロスヴァイセとつるむようになり、練習も一緒にすることで歌やダンスが上達したと聞き、一緒に練習をしたがる地下アイドルが以前増えたことがある。
実はその時も同じスタジオの室内でロスヴァイセはロスヴァイセで練習をし、美優は美優の練習をしていた。
2時間先に入って全体練習をしたロスヴァイセが美優を迎え入れ、個人練習へと移行する。
そのところどころでメンバーが美優の様子を見て、必要なアドバイスをしたり、振り付けがあっているかどうかのチェックをしたりしていた。
だが、それを他のアイドルともできるかと言われたらそれはスケジュール的にも厳しい。
ということですべて断っていた合同練習。それを聞かされていた芽依は大いに喜んで即答した。
「じゃあ、明日は…何がいる?」
芽依の返答を聞いて、魁人は藍那に尋ねる。
するとメンバーへと連絡していたのか、スマホを操作していた藍那はこちらへと顔を向け、こう答えた。
「とりあえず、飲み物とタオルでしょ?あと私服で来て、ここで練習着に着替えるっていうならそれ持ってくればいいんじゃない?」
「…だ、そうです」
「うん、わかった!あ、そろそろホントに帰らないと不味いかも。じゃあ、明日よろしくね!」
「駅まで送ってこうか?」
「うん、大丈夫!お兄ちゃんがそろそろバイト終わって駅着くし、一緒に帰るから」
「そっか、じゃあまた明日」
「またね!…デイジーちゃんも、また明日!」
「うん、じゃあね」
軽く手を振って芽依に答える藍那。
このまま見送りもないのはなんかダメな気がした魁人はこう申し出る。
「あ、玄関までは見送るよ。じゃあ、すぐ戻るからちょっと待ってて」
「ん。マンガ読んで待ってる」
そう言って立ち上がる魁人と、それを見送る藍那。
部屋の本棚に移動し、いつか読みかけたマンガの続きを取り出すと床に座り直して読み始めた。
そして2人は玄関へと向かう。
「今日はありがとね。楽しかった」
「こちらこそ。わざわざ来てもらって」
「…デイジーちゃんとのことは秘密にしとくから安心してね?」
「それはホントにお願いします」
「りょーかい。あ、明日もまた一緒にお昼食べようよ」
「うん、いいよ」
そこまで言ったところで芽依が靴を履き、玄関の扉を開けて会釈する。
「それじゃお邪魔しました~」
その後、しばらく部屋で藍那と過ごした後、愛依子が迎えに来たからと帰っていくのを見送り、風呂に入ってベッドに入る。
こうして色々あった1日は終わったのであった。




