自分なりの 正しい資質(Right Stuff)
今回で第3章終了です。
ちょっと精神的に参ることが続き、終わらせ方も浮かばず、更新空いてしまってすいません。
「みんな、いくよ!」
デイジーのこの一言で始まったロスヴァイセのステージは圧巻だった。
他の出演者とは盛り上がりが全く違う、異常な熱気に包まれる。
いつの間にか荒らした、出演者のオタクたちも混ざり、どんどんボルテージが上がっていく。
この騒動、を扇動した数人かのオタクは、それを後ろの方で苦々しく見ていることしかできなかった。
結局のところ本当にアイドルたちの言っていることを信じていたのはこの何人かだけであったのだ。
そこに加わったアイドル達。
お互い気まずそうに見つめ合うが、どちらかともなく話しかけ、いつの間にか始まる大喧嘩。
ここでついに残ったオタクたちも離れることを告げる。
アイドル達の怒りはさらにヒートアップし、怒鳴り声を上げようとしたその時だった。
ジリリリリリリリ ジリリリリリリリ
大きな音を立ててベルが鳴り、スタッフたちが音を止める。
どうやら火災報知器が鳴ったらしい。喫煙所の火の不始末? それとも何かに火が付いた?
何かに火が付いたのなら、とっくに大騒ぎになっているはず。
湯気の立つ客席をスタッフ全員で調べ、何も異常がない。じゃあ原因は何だ?
静かになった場内で、最前列で一際はしゃいでいた魁人がこう言った。
「ねぇ、めっちゃ湯気出てない?もしかしてさ、俺ら沸きすぎてそんでこんな湯気出るくらい熱くなって、火災報知機反応したとか?」
「いやいや、さきがけくん。火災報知器作動するくらいってかなりの熱さだよ?大丈夫?」
何言ってんのこいつ?ってロスヴァイセからの視線に応えるかのようにスピカがツッコミを入れると、スタッフからのアナウンスが入る。
『お客様にご報告します。今、全てのチェックが終わりました。色々確認しましたが、出火などは確認できませんでした。客席の盛り上がりによる熱気と、湯気で火災報知器が反応したと思われます。ですので、ドアを開けて換気の上、改めて3曲目からロスヴァイセのステージを始めたいと思います』
一瞬の沈黙、その後起きた大爆笑。ステージに立っているロスヴァイセもお腹を抱えて笑う。
それはロスヴァイセを敵視したアイドル達にとっても、それに従ったオタク達にとっても憧れる姿であった。
「…あ~、おもしろ。…ということで、換気をしてからもう1回今の曲やって再スタート!ひとまずこの湯気なんとかするためにみんな客席から出てね~。私達も1回楽屋戻りま~す。またあとでね、ばいばい!」
デイジーがそう言うと、楽屋へと戻っていくロスヴァイセ。
いいものを見た、面白い現場に出くわしたと客席から出ていくオタク達。
それを見送った魁人とスピカ。それと、件のオタク達。
臨戦態勢、といった言葉がぴったりなほど感情を抑えきれてない魁人と、それを抑えようとするスピカ。
話しかけたいけど、話しかけられない、そんな様子のオタク達。
そこに店長が入ってきたことで状況が一変する。
「あ~、さきがけくん?あとそこのお客さんたち、ちょっといいかな?」
店長の一言で全員が店長の周りに集まる。少し重い空気の中、店長の話が始まった。
「えっと、まずうちのブッキングやってたやつが意図的にロスヴァイセを干してた件なんだけど。話を聞いたら、今日のロスヴァイセ以外の出演者が前回もめた後に、ロスヴァイセが売れてるからって調子乗ってる。1回痛い目見せないと、って言い出したらしく。そもそもそんなの無視していいし、俺なら無視するんだよね。この箱の売上が大事なわけだし。ここでどうしても対応しなきゃいけない場合、本来ならロスヴァイセ側にも話聞いたあとに俺に報告上げて対応とる。まぁ出演イベントをかぶらないようにする、っていうのが正しい話だとは思うんだけど。それをせずに独断で干しました。この件が発覚した時にロスヴァイセ側には謝ってます。で、許してもらえました。その時になんでもめたか内容聞いたら、簡単に言うとロスヴァイセが逢沢さんとよく出るようになってから、逢沢さんが上にいったような感じに見えちゃって、あやかろうとごますってる時にオタクディスっちゃったのよ。笑って流せないレベルでね。逆恨みだよね。それに乗っかって、うちの馬鹿がやらかしちまったと」
腕を組んで頷いてる魁人とそうだったのか、と納得がいったような表情のスピカ。
呆然とするオタク達。それを見ながら店長は続ける。
「ちょっと前にそこのさきがけくんが話をしに来てくれてね。最近ロスヴァイセ出してくれてないじゃないですか~。ってところから色々忙しいのかも、とかそういうこと話してたらさ。他のライブハウスとかは相変わらずのペースで出てるし、そこに集まって動員も伸びてるからロスヴァイセとしては問題ないけど。ここだけ出演しないってことは、何かしら起きてるかも。って言われたのよ。まぁそしたらああ、こいつらやってんなって現場見ちゃって」
ぼかして言ったはずが、変に勘が鋭いオタクは全てを察する。
問題は誰がそうなった、かだ。
ロスヴァイセが正しくて、嘘に踊らされて騒動を引き起こしてしまった。
やっぱり離れて正解じゃないか。とも思いながら黙って話を聞き続ける。
「今日もさきがけくんから聞いたけど、そっちの人達にもいいかっこしたくて、干してやったみたいなこと言ってたみたいじゃん?絶対にありえないからね?もうあいつはブッキング担当から外してて、このイベントは俺がやったけど、来月あたりから別のやつが担当することになると思う。元々バンド箱で、アイドルやり出したのって最近の話なのよ。だから今までだいぶバンドに比べてかなり甘い条件だったんだけど。そこで色々条件とか変えさせてもらうから、たぶんロスヴァイセ以外の何人かはうちのイベント出なくなると思う」
バンドに比べて甘い条件、それはチケットノルマがかなり少ない、もしくはノルマがない、チケットバックが1枚目からちゃんと出ていた。ということ。
バンドだと通常1バンドあたり20枚のチケット販売ノルマが発生する。それを越えて初めて出演料、というものがもらえるようになる。
ここで難しいのがアイドルイベントは地域と主催者でかなり違ってくる。
しかし、だいたいこのような分かれ方をしているはずだ。
チケットノルマ、ノルマ達成後のチケットバック、物販手数料有り。
ノルマ、バック有り、物販手数料なし。
チケットノルマ、チケットバック無し、物販手数料無し。
ノルマ無し、バック有り、物販手数料なし。
ここで1番集客が多いロスヴァイセ以外、という言葉を出した以上、チケットノルマは必ず発生していくだろう。
「本気でやってる子は応援するけど、半端な気持ちでだらだらやって、地下アイドルって肩書きだけ作ってちやほやされたい子には正直チャンスあげたくないんだよね。誰とは言わないけど、今日のお客さんにも事務所の人いるし。終わってからたぶん話聞かれるから、名前出たらやめとけって言うだろうし。アイドルはよくわかんないけど。バンドでうちのイベントよく出てた子たちがさ、デビューしたりすんのよ。そう言う子たちって、自分なりのビジョンって持ってて、自分なりにデビューする人間の、正しい資質っていうか。こういうやつだからこそ力貸したいって思わせる何かを持ってんだよね。このあとイベント終わったらさ、同じ話をもっと詳しく出演者にも話すけど。うちとしてはだいたいこんな感じ」
そう言って客席から出ていく店長。
その後、お互い何を話すわけでもなく離れていき、ロスヴァイセのステージが再開される。
もう1回火災報知器が鳴ったらかなり面白いんじゃないか、という悪ノリをうまいことかわして、イベントが終了した。
しばらく経って、今回の騒動を起こした地下アイドル達にはさまざまなうわさが飛び交うようになった。
とあるアイドルは釈明に追われるも、近寄ってくるのは身体目当ての人間が多くなり、別のアイドルはイベントに出演せず、自称アイドルの状態が続く。
更にまた別のアイドルは卒業宣言をし、最後の出演イベントの集客は1人。
これが半端な気持ちでアイドル、を名乗った何物にもなれない人間の結末である。
次の第4章では、色々と個人的に思った法則やメソッドなどを話に絡めて、書いていけたらなと思ってます。




