あいつらをなめるな
すいません、メンタルバッキバキにやられたのとなんかやたら仕事が忙しくて更新止まってました。
「ねぇ、アイドルってどういうものだと思ってる?」
静かに、だがどこか咎めるかのような口調でそう話すアイリス。
その視線の先にいるアイドル達は、俯いて黙っているだけで何も答えない。
「あのさ、知名度が欲しいってのはわかるんだけど。それでも今のままじゃあんた達は何にもなれないと思う」
続けてデイジーがそう言うと、アイドルは顔を上げてデイジーを見つめる。
「声優になる。今の声優は歌も踊りもできないといけないから。有名なアイドルになる、その前に経験を積むために地下アイドルをやる。そうしたら誰かプロデューサーが見つけてくれて、事務所に入れてくれる。その後はレッスンを受けて、マネージャーがついて、仕事をとってきてくれて、憧れの仕事に就ける。そんなのはっきり言って空想的な夢でしかないわ」
「どういう目的でやるかなんて、人それぞれだからいいんだけどさ。客を馬鹿にするような店が繁盛するかって考えたら、わかるよな?だからそこまで止まりなんだよ」
「実力も愛嬌もない、ただ顔が少しいいだけ。そんな子が掴めるチャンスなんて何もないから」
次々と話していくロスヴァイセのメンバー。場の空気は最悪。
なんで、こんなことになったのか。
それは簡単なこと。
終演後の話の中で、美優がロスヴァイセとつるむようになってから少し人気が上がったように思える。
うらやましい、自分もファンを増やしたい、仕事がもらえないかと取り入ろうとした地下アイドルたちが話の中でアイドルを、ファンを馬鹿にしたからだ。
「与えてもらうのが当たり前になってんじゃないわよ。ファンを、アイドル…いや、表現者をなめるのもいい加減にしなさい」
イラつきながら放たれたデイジーのその一言で、腹が立ちながらも聞き流そうとした残りの4人も臨戦態勢になる。
場の空気が凍る。しかし、食い下がろうとしたアイドルが火に油を注いでしまい、ついにロスヴァイセが怒り、こうなった次第だ。
アイドルがファンを馬鹿にする光景というものはかなりある。
野外ライブで盛り上がりすぎて、プールに飛び込んで風邪を引いたファンを笑う、など穏やかなものだけならばどれほどいいかと思う。しかし、残念ながらそうはならない。
顔がなまじいいだけに、あからさまな適当さでも許されると勘違いした連中が目の前の小金に喜んで更に調子に乗る。
そして、逆鱗に触れ、干され、記憶から消されていく。
もちろんそれは新しいタイプだ、そんな子を推してる俺は一味違う、なんて勘違いしたファンも悪い。
そういった奴は退くに退けなくなって色んなところと問題を起こして消えていくか、そういうアイドルと付き合っていくことに疲れて別の場所に行ってしまうかの2つに落ち着くのだが。
「適当なことだけで、生き残れるほどこの世界は甘くない。実力がなかったら何が夢へ後押ししてくれるの?周りの人はもちろん、まず応援してくれるファンでしょ?」
こいつには何もしなくてもいい。蔑ろにしても、後回しにしても笑って許してくれる。適当なこと言っていれば与えてくれる。
そんな都合のいい存在だと潜在的に思っていて、それがふとした時にわかってしまう場合もある。
それはファンの心を深く傷つけるだけ。
傷つけたことを知り、謝ったところでゆっくり離れていくか、その瞬間に離れるかでしかなく。
いいよ、気にしないで。等の言葉はファンからの最後の優しさだ。
ファンというものは、時に推しのために自分を偽る。
どれだけ辛くても、苦しくても、何でもないようなふりをする。
悲しませないように、怒らせないように。
そうしたマイナスと、楽しかった思い出を天秤にかけて、大きくマイナスに傾いた時。
心と体に限界が来て、初めてそこで離れようとする。
とことん自分以外に甘くて、優しすぎて、だからこそ大切なのだ。
「ごめん、って謝っただけで全部許されるわけないじゃない。変わらずに接してくれるわけないじゃない。何かができなかった、その代わりに何ができるか考えた?」
メジャーだろうが地下だろうが、アイドルだろうが、声優だろうが、配信者だろうが関係ない。
「言葉だけの大切、をどれだけ重ねても響かない。行動だけが心を動かせる。例え何かしてしまって、その結果、離れてしまったとしても、わだかまりはなくせる。そう私は信じてる」
真剣なデイジーの脳裏によぎったのは、親戚の馬鹿。
時々変なこともするけど、まっすぐに自分を推してくれてる、だからこそ裏切れない。
こんな時だからこそ、無性に声が聞きたくなる、そんな馬鹿。
「そりゃさ、ファン達に傷付けられることもあるよ。もしかして同じこと思ってんのかもしれないよ。結局のところどっちもどっちだよ。でもな、私達は空いた時間にライブ入れるけど、ファンはそのために時間を空けるんだよ。会いたいって気持ちで、そうしてくれてるんだよ。なんでかって、好きって気持ちを伝えたいからじゃん。それを蔑ろにするんだったら、私達だって蔑ろにされるよ。私達が知らず知らずのうちにしたことであってもさ」
エリスがそう言い終わるとデイジーはふん、と鼻を鳴らして帰る準備をする。
「ごめんなさい、私達は何か特別なことをしてるわけじゃないの。ただ、自分達のできることを精一杯やって、目の前のファンの人達が少しでもまた会いたいって思ってくれるようにステージに立つだけよ」
「…お待たせ。帰りましょ」
キャリーを持って楽屋の出入り口に立ったデイジーが4人に声を掛けるとドアを開けて出ていく。
それを残ったアイドル達はただ見ていることしかできなかった。
今回の話はホント色んなところに通じるものがあるんじゃないかな?なんて思ってます。
いつか「ファンを付けるために最初にあるべき姿」なんて形でね、こういう子は人気が出てた、とか書けたらいいなと思います。
お待たせしてしまい申し訳ないです。
また次回もよろしくお願い致します。




