事後承諾でいいですか?
みなさん、お盆いかがお過ごしでしょうか?
いつもとは違う夏です、いつもと違った楽しみ方で過ごしたいですね。
「今日も無事に終わって良かった~」
無事に物販まで終わり、デイジーを先に返したアイリスはそう言いながら荷物を車に載せようと駐車場まで運んでいく。
車に荷物を載せ終わり、料金を払って出ようと思った時。美優を見つけた。
思いつめたような顔をして歩くその姿を放っておけなくて、思わず声を掛けた。
「ねぇ、よかったら車乗ってく?」
「えっ……?」
「駅まででしょ?通り道だから送ってくよ?」
そう言って背中を押して自分の車に乗るように促すアイリス。
美優はそれにただ従うだけだった。
◇
「……なんで私に声かけてくれたんですか?」
車に乗り、駅まで送ろうと思った時に聞こえた電車が止まってるという声。
慌てて調べると事故の影響で電車の運行が止まり、復旧までに時間がかかるということでアイリスは予定を変更し、最寄り駅まで送っていくことにした。
その道中、美優がポツリとつぶやいたのがこの言葉だった。
「ん~……。なんでかしらね?なんか昔の私みたいな感じだったから、かな?」
「昔の……アイリスさん?」
「そうそう。ロスヴァイセのリーダーになる前の私」
アイリスは前を見て語り出す。
昔自分がソロで活動していたことを。そして、焦っていたこと。
事務所に入ればそれだけで安定した仕事が待っていると信じていたあの頃を。
それは美優にとっての現在で、まさに今感じていたことをアイリスもまた感じていたことに驚いた。
ロスヴァイセといえば地下でも名の知れた存在で、動員数だって多い。
メンバーも原石を集めて、レッスンをして、そうしてデビューした。
最初のうちはよくいる地下アイドル、だったかもしれないがすぐに頭角を現して人気になったものだと思っていた。
しかし、それは違った。
話を聞いていく度に自分の今までの努力はまだまだなんだ、そう思えるような濃い体験。
美優はその話にだんだん引き込まれていった。
「…っていうことで私達はフリーになったってわけ。だから焦らなくていいわ。逆に私達からすると今の方がそりゃオファーへの返事だったりとかやることはあるけど、自由度が違うもの」
「……なるほど。今の状況で何ができるかを最大限に考えないと次への道は拓けないんですね。それがわかっただけでもなんか楽になりました」
その答えに何かずれを感じたアイリス。メンバーには後で話せばいい、そう思って思い切って提案をしてみる。
「逢沢さん?逢沢さんさえ良かったらしばらく私達と一緒に活動してみない?合同レッスンしたりとか、同じイベントに出たりとか」
「……いいんですか?!私なんかで」
「ええ。どこまで一緒にできるかはメンバーに話してからになるけど、少なくとも一緒にレッスンはできるようにする」
アイリスからの提案に驚く美優だが、答えは決まっている。
あのロスヴァイセと一緒に活動できるのなら実力は上がるだろうし、あわよくばお客さんも何人か引っ張れるはず。
「よろしくお願いします!」
この時のこの決断が美優にとっていいものだったのか悪いものだったのか。
それはわからない。ただ、この時に美優がもし断っていたら。
すぐに地下アイドルの闇に囚われ、地下アイドルのまますぐに消えていったことであろう。
それでも全てを判断するのは引退した後だ。
色々な話をしている間に美優の家の最寄り駅に着く。
助手席のドアを開けて礼を言い去っていく美優の背中を見送るとアイリスは即ロスヴァイセのメンバーに連絡を取った。
『みんな、ごめん。私の独断で決めちゃったんだけどしばらく逢沢美優ちゃんって子と一緒に動こうと思うの』
とアイリスが全体にメッセージを送れば
『なんでまたそういう話になったの?』
とメリッサが返す。
『ちょっと精神的にきちゃってるみたいでね、ロスヴァイセに入る前の私みたいに』
『アイリスがロスヴァイセに入る前って……ああ、あの頃か。確かにあの頃のアイリスはヤバかった笑』
なんてエリスが返すと
『レッスンもライブも一緒ってこと?その子大丈夫?身体きつくならないかな?』
とルナが反応する。
そのやりとりを見ていたデイジーの返信。これで決まりだった。
『別に私はアイリスが決めたんならそれに従うだけよ。変な仕事受けたりとかするわけじゃないんでしょ?だったらいいじゃない。ライブはともかく私達についてこれないんだったらそれまでの子ってわけなんだから』
その言葉にエリス、ルナ、メリッサが次々と返信を返す。
『そうだなー。自称アイドル、じゃなくてせめて地下アイドル、であっては欲しいよな~』
『デイジーの言う通り。本気でやれないのなら続ける意味はないから』
『そうね、まぁいいんじゃない?やってみてダメならあっちから辞めるって言うでしょ』
全員の意見を聞いたアイリスは最後にこう返す。
『みんな、ありがとう。じゃあ逢沢さんにはそうやって伝えておくわね』
返信を打ったところでアイリスは車のシートの背もたれに身体を預けて伸びをする。
スマホの時間を見ると美優を見送ってから20分。
そろそろ家に帰って寝ないと次の日の仕事に差し支える。
そう思ったアイリスは慌ててシートベルトを締めて、車のエンジンを入れるとライトをつけて前後左右を確認。
周りに危険はない、車を発進させて家路へと急ぐのであった。
あと今週中に1話更新します。
そう言えば書き始めて今月でちょうど1年だった…。




