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夏祭り  作者: 隆聖
2/2

後編

「それからどうしたのよ。」

「これからの事はあんまり語りたくないんだけどなぁ」



それに、もうそろ夏祭りの会場に着いてしまう。

そう言おうとした途端、彼女は僕の手を引いて路を逸れた。



「行くわよ。」



僕はその一言で彼女の考えていることがわかった気がした。



話は戻る。そして、僕は中学生になった。依然として夏祭りのあの子に会うことは出来ていない。



夏祭りのあの子のことを忘れることは出来なかった。



そもそも、自分のことを覚えていてくれているかも分からない。もしかしたら彼氏ができているかもしれない。もしかしたらもう日本には居ないかもしれない。



考え始めたら、負の思考がループし始めて、どんどん不安になっていった。



中学2年目の夏祭り。またあの子に会うことは出来なかった。



僕は今回の夏祭りでも会えなかったらとある作戦を実行しようと考えていた。



もう2度と来ないなら、迎えに行けばいい。



中学生の考える事は単純というかなんというか、まあ、自分のことではあるのだけれど、今考えると恥ずかしいもので…



あの時の彼女の話から恐らく、こんな田舎は見たことないくらい都会から来たんじゃないか。と、推測した。



都会といった東京だと決めつけ、僕は東京行きを決意した。



もちろん、テレビや東京に行った友達からどんなに人がいるのか、どれだけ広いか知っていなかったわけではないが、何か行動せずにはいられなかったんだ。



未成年が宿泊する事は出来ないので、必然的に朝に行って、終電までに帰ってくる必要がある。



夏祭りが終わって一週間。まだ、夏休みのうちに僕はこの計画を実行した。



なけなしのお小遣いで新幹線の切符を買い、始めて駅弁というものを食べた。



新幹線の小窓から、いままで住んでいた自分の町が見えると、井の中の蛙が、大海に飛び出したような気分だった。



本当に僕は蛙だった事を東京に着いた時に思い知ることになる。



新幹線を降りた途端に人の波に押し寄せられ、立ち止まって地図を見ていることも出来ない。



僕はそのまんま波に押し寄せられ、浜に打ち上げられるようにして新幹線の改札から出た。



着いて早々に、現実を思い知らされた。この人の波から彼女を探し出さなければならない。



時刻は昼過ぎ。遅くても17時には帰りの新幹線に乗らなくてはならない。あまり、悠長にしている時間はなかった。



そうは言うものの、始めて来た東京。気分は高揚していた。



大きな電光掲示板。見上げるほどの高さのビルの数々。多様多種な車が走る車道。



僕は目移りしながら1つ1つに心奪われていた。



東京に染まると言うのはこう言う事を言うのだろうか。心はすでに東京に染まっていた。ここは全てがある町なんだ。



そして、僕は捜索を開始した。捜索といっても、同年代の女の子が行くようなところが分からなかった。



僕はとりあえず山手線に乗り込み、聞いたことのあるような駅で降りて、駅周辺を散策することにした。



女の子が集まるカフェ。化粧品ショップ。アパレルショップなど、自分の足で歩いて、同年代の子が多くいるところをチェックしていった。



1つの駅にかけられる時間は30分から1時間程度。



過ぎていく時間だけに焦っていた。



僕は捜索の足を駅周辺から広げていった。がむしゃらに歩いた。帰りのことなんて考えていなかった。



そして、最後の移動。もう夕暮れも近い。タイムリミットまであと一時間もなかった。



最後に降りた駅からはがむしゃらに走った。とにかく夏祭りのあの子に会えなければ帰らないと思っていた。



走って走って。僕は、大きな坂の下にたどり着いた。



東京といったら、ビルや商業施設が立ち並び、人がごった返しているイメージがあったけれど、ここまで走ってくると住宅街に入ったようだ。



ここまで走って来た僕にとってこの坂のてっぺんはゴールに見えた。



この坂を登りきったらきっとてっぺんには彼女がいて…なんて言う妄想をした。



気づいたら走り出していた。もう心も体も疲れ果てていたけど必至に坂を走りながら登った。



坂のてっぺん。登りきった僕が目にしたのは町のビルの間に沈む夕日だった。



終わった。僕はそう思った。時間的にもこれ以上遅くなると、帰ることができなくなるかもしれない。



最悪、帰れなくなって後から両親に怒られようと構わないと思っていたけれど、坂を登りきり、達成感を経て、冷静になって怖くなっていた。



東京の夜が辺りを包み始めて来ていた。



僕は諦めて引き返そうと思ったその時、坂の上から街を見渡すと、近くに学校らしきものがあるのがわかった。



夏休みであったであろうが、丁度部活を終えた生徒たちが帰ろうとしていた。



最後のチャンスだと思った。僕はまた走っていた。



下校する生徒たちの波を逆らって走る。坂を下っているときはなんだか背中に翼が生えたように体が軽くなっていた。



すれ違う生徒の中に夏祭りのあの子はいなかった。



そして、学校の校門の前に着いた時、僕の翼は無くなってしまった。



妙な脱落感と、疲労に襲われ、立ち尽くす。



ちょうど学校の校門は全てを吐き出したかのように静かだった。



どうやら、ここにも夏祭りのあの子は居なかったようだ。



それもそうだ。東京に一体幾つの中学校があると言うのだろう。



そもそも、あの子が住んでいるのが東京かもわからない。



立ち尽くし、顔を伏せながら泣きそうになる。拳を握りしめて、己の無力感に耐える。



そんな時、ふと後ろから声をかけられる。



期待して振り向くと、そこに居たのは、小学生の時に転校してしまった仲のいい友達だった。



とんでもない偶然だと思ったが、そういえばこの駅の名前を覚えていたのはこの友達が転校した場所だったからだ。



なんでこんなところにいるのかとまくし立てられ、訳を話した。



友達は笑いながら、時に驚きながら話を聞いてくれた。



どうやらこの学校には夏祭りのあの子はいないらしかった。



連絡先を交換して僕たちは別れた。



こうして、僕の小さな旅は終わった。

この四年後、大学進学を機にこの街に戻ってくるのは別の話。



付け加えれば、あの時再開した友達とは今でも仲が良い。



あれだけ大きく立ちはだかった坂道も、立ち並ぶビルも今は見慣れてしまった。



けれど、坂の上から見る夕焼けだけは今も昔も変わらず綺麗だった。



「なんで東京だったの?」

「だって、都会といったら東京だろ?」



「なにそれ。」と、隣を歩く彼女は小さく笑った。



「それから…」と僕が話し始めようとすると、彼女がそれを制した。



「いいの。そこからは私も知っているもの。」



2人がたどり着いたは思い出の場所。











どこか遠くで花火が打ち上がる音がした。






歩いていたのは夏祭りのあの子なのか。東京で出会ったあの子なのか。



歩いている場所は東京なのか。田舎なのか。



どちらにせよ、ふたりが幸せでありますように。



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